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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之伍拾 誕生日

 無事、トレーニングウェアのカード化に成功したことで、結花さんはとても喜んだ。

 珍しく志緒さんを急かして、スケッチを中断させると、自分の分身である人形の変身を舞花さんに解除させて『ミー』で出現させたカードを使って、結花さん人形にトレーニングウェアを着せる。

 あっという間にパーフェクトでゲームを攻略すると、結花さん人形でトレーニングウェア三種のカードを作り出してしまった。

「お姉ちゃん、スゴイ!」

 拍手をする舞花さんに対して、結花さんは得意げに胸を反らすと「ふふ。ありがとう、マイ!」と微笑む。

「トレーニングウェアの結花さん、本物とそっくりだね」

 スケッチを強制中断され、こちらに来ていた志緒さんが自分のタブレットを操作して写真を一枚見せてくれた。

 背景には『まーちゃん、お誕生日おめでとう』と書かれているので、去年の誕生会の写真だろう。

 そこに、結花さんはアイガルのトレーニングウェアで参加したようだ。

「東雲先輩の誕生会の写真……」

 私が呟くと、舞花さんが「そうだよ! まーちゃん、お誕生日が8月1日だから、今まで学校のお友達と誕生会をやった事がなかったんだって!」と教えてくれる。

「あー、8月1日だと夏休みの真っ只中ですね」

 実際私の小学生時代にも、夏休みに誕生日を迎えるせいで誕生会を開けない子がいたので、簡単に想像が付いた。

「でもぉ、ここはぁ、寮だからねぇ」

 那美さんの言葉に頷きつつ「皆でお祝いできますね」と返す。

 すると、舞花さんが「あ~~~」と突然声を上げた。

「ど、どうしました、舞花さん」

 私が尋ねると、もの凄く顔を近づけて舞花さんは「リンちゃんの誕生日っていつ? まだ過ぎてないよね!?」と慌ただしく尋ねてくる。

「え、た、誕生日……ですか?」

 思わず口ごもってしまったのは、軽いトラウマがあるからだ。

「うん、教えて欲しいんだけど……」

 上目遣いでそう言われてしまうと、拒否するのは難しい。

 言いたくない気持ちに蓋をして、口で言わない代わりに自分用に作った『アイガル』カードを見せた。

「あ、9月21日! よかったぁ、もうお誕生日過ぎてたらどうしよって思ってたよ!」

 ホッとした表情を見せる舞花さんに代わって、志緒さんが「実は私と一日違いなんですよねー、ね、凛花お姉ちゃん」と嬉しそうに笑う。

 実は志緒さんは9月22日生まれで、誕生日は一日違い……実際には私は10歳以上上なのだけど、書類というか設定上は同じ年の一日違いなのだ。

「運命を感じちゃうよね、凛花お姉ちゃん!」

「う、うん」

「あ~~~ずるいーーーずるいよ!」

 志緒さんとのやりとりに、舞花さんが不満を口にすると、那美さんが「あらぁ~マイちゃんはユイちゃんとまったく同じ日なんだから、もっとスゴイじゃない~」と笑う。

「そうだけど、そうじゃなくて~~」

 那美さんの言葉に、抗議をしたいのにうまく出来ないといった感じで、ブンブンと大きく腕を振り回した。

 一方、そんな舞花さんと双子でお姉さんの結花さんは「え、じゃあ、リンちゃんも乙女座?」と尋ねてくる。

 まさに、その質問にトラウマがある私は、頷くので精一杯だった。

 なにしろ、男子が乙女座生まれと言うだけで、揶揄われることがある。

 別にどうしようも出来ない事だし、大したことではないとは思うのだけど『お前、乙女座なの?』という一言には無性に羞恥心をかきたてられるのだ。

 が、結花さんからの言葉は、頭に浮かんだ過去のトラウマセリフではなく「リンちゃんにはぴったりね」と言ってくれる。

 それだけで気持ちがふわっと軽くなったのだけど、それで冷静になったからか、そういえば自分が女子生徒をやっていることを思い出した。

 唯花さんの言葉で確実にトラウマは薄まったと思う一方で、ぴったりなのはリンかな私なので、そこに引っかかりを覚える。

 そんな余計なことを考えているタイミングで、那美さんが「あらぁ、マイちゃんだってぴったりじゃない。6月12日で双子座でしょ?」と舞花さんを宥めていた。

「確かに、双子で双子座なんて、スゴイよね」

 うんうんと頷きながら同意する志緒さんと那美さんを順番に見てから舞花さんは「まあ、舞花もぴったりだとは思うけど、乙女座って……」とそこまで言ったところで何かに気が付く。

 そして、舞花さんは志緒さんに飛びかかりくすぐり攻撃を始めた。

「しーちゃんも乙女座だよね! ずるい!」

「わぁ~~マイちゃん、やめてぇ~~」

 志緒さんは逃げようとするが、舞花さんを振りほどこうとはしない。

 じゃれてるだけなんだろうなぁと思って見ていると、那美さんが「ところで、私は11月6日なんだけど」と唐突に話し出した。

 思わず皆が動きを止めて、那美さんを見る。

「ピッタリかしら、蠍座ぁ~~」

 続く那美さんの言葉には、もの凄い地雷臭が纏わり付いていた。

 何か答えなければと思うものの、肯定と否定どっちが正解かわからず、私は皆を見渡す。

 すると、私と同じように結花さん、舞花さん、志緒さんもお互いを見回していた。

 思わず噴き出しそうになったタイミングで、ズンと体に響く嫌な気配が私の体を通り過ぎていく。

「みんな!」

 私がそう口にした瞬間、皆の表情が真顔に変わった。

 それだけで、私の認識した新たな『禍の種』の出現の気配が正しかったことを確信する。

「行こう」

 皆が頷いたのを確認してから、私は寮の地下室へ向けて教室を後にした。

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