拾之肆拾玖 検分
「準備完了です! 仕上げのイメージをください!」
私の人形の中で、結花さんさん用となった『ミー』に衣装変更用の為のエネルギーを送り始めたところで、結花さんに声を掛けた。
既にプレイ動画でトレーニングウェアは見ているので、ざっくりとした衣装のイメージと、謎の光システムに必要なエネルギーは送り込んである。
後は結花さんの微調整だけだが、先ほどの自分の人形作り同様に手を出さない可能性もあるなと私は考えていた。
けど、私の予測に反して、トレーニングウェアを出現させようとする結花さんは、かなり意識を集中させているようで」、私に触れたままピクリとも動かない。
それでも小さくエネルギーが収束してくるのは、まさしく微調整といった感じで、これまでにない感触だった。
変身能力だとか、謎の光だとか、鉄壁スカートだとか、そもそも奇想天外すぎて、結花さんの服へのこだわりはとても繊細だが、エネルギーは必要としない。
結花さんのこだわりの分、時間はそれなりに掛かったものの、無事、トレーニングウェアの出現をに成功した。
「リンちゃん、ごめんね、時間かけて」
申し訳なさそうに言う結花さんに、私は大きく左右に首を振った。
「どうせ出現させるなら、結花さんが納得出来るものにして欲しいし、何より、結花さんのやりきった表情を見てると、渡井sもなんだか嬉しくなってくるよ」
結花さんは「リンちゃん!」と私の名を呼ぶなり、抱き付こうと両手を広げたが、そこでピタリと動きを止める。
「ん?」
抱き付いて欲しかったというわけではないけど、想像通りのアクションが来ないのは、わりと大きな違和感があった。
それが表情にでてたのか、舞花さんがスッと近づいてきて、一時停止したかのように固まった結花さんの説明を始める。
「お姉ちゃんは嬉しさのあまり、リンちゃんに抱き付こうとしたんだけど、さっきのことを思い出して、座ってるリンちゃんに抱き付くのは危ないと動きを止めたんだと思うよ」
「……なるほど」
「で、止まったは良いけど、そこからどうしたら良いかわからなくなって固まっちゃったんだね」
舞花さんはそこまで言い切ると、那美さんに視線を向けた。
「ね、なっちゃん?」
「そうねぇ~」
ある程度、他人の心情が読み取れる那美さんの同意は、舞花さんの推測が正しいことを証明する言葉でもある。
「それで……どうしたら?」
未だ固まってる結花さんを見ながら舞花さんに尋ねると「まずは立とう」と言われたので、言われるままに立ち上がる。
「はい、お姉ちゃんの方を向いて」
「う、うん」
これも舞花さんの言うとおりに、固まったままの結花さんに向き直った。
「はい、両手を軽く広げで、左足を下げてー」
「え、うん」
言われたままに体を動かすと、舞花さんが「いいよ、お姉ちゃん!」と口にする。
「ありがとう、ありがとう、ほんとありがとう!!!」
気付いた時には結花さんに抱き付かれて、何度も感謝の言葉を貰ってしまっていた。
「どう、お姉ちゃん?」
「うん……いいと……思う」
舞花さんと結花さんは二人で『ミー』が立つ机の周りをぐるぐる移動しつつ上下に伸び縮みをして様子を確認していた。
結花さんが入れ込んでいるトレーニングウェアは、ゲームの筐体ではカード化できないものの、トレーニングウェアのカード自体は、上着、スカート、練習用のシューズソックスとリストバンドの三種一組で、公式のトレーニングウェアに、付属の特典となっている。
普段の結花さんなら、そのカードを手に入れた時点で満足するのだけど、どうもトレーニングウェアは衣装を買って、愛用していることもあって、愛着が強く、オリジナルのカードを作ってみたいと思っていたそうだ。
そんなわけで規定いる衣服ならカード化できるかも知れないという仮説に則って、その前段階であるトレーニングウェアの出来栄えを舞花さんと二人で確認している。
もう既に何周もしているものの、終わりそうにないなと思い、私は那美さんに声を掛けた。
「あの、もう少しかかりそうなので、先に那美さんの人形を作るか、直すかしますか?」
待っているだけも飽きるだろうと思って声を掛けたのだけど、那美さんは軽く首を左右に振る。
それから「もうすぐ終わりそうだからぁ」と言うと、振り返ったタイミングで、丁度、舞花さんと結花さんが頷き合ったところだった。
私は『流石、那美さんだなぁ』と思いながら、意識を双子に向けたところで、後ろから那美さんの声が聞こえてくる。
「気遣ってくれてありがとぉ、リンちゃん」
「え……いや」
那美さんに『そんなこと無いですよ』と言おうと振り向こうとしたところで、結花さんに「リンちゃん」と声を掛けられた。
「結花さん、どうしました?」
「ゲーム始めても良いかな?」
結花さんの問い掛けに、私は「もちろんどうぞ」と返しながら、那美さんなら私の考えが読めてるから、伝えなくても大丈夫かななんて考える。
すると、後ろで那美さんがクスリと笑って「そうね」と口にした。




