拾之肆拾参 結花人形
確かに、服を着ていなかった場合、トレーニングウェアになるのかというのは、検証の必要があるのかも知れなかった。
けど、そもそも裸にしなければいいわけで、検証する必要がない気ももの凄くする。
あとはあまり考えたくはないのだけど、私自身に抵抗があるのも事実だ。
私の分身の『ウーノ』はともかく、他の個体は私をベースにしているとはいえ、実物そのままではない。
いうなれば、フィクションの産物だ。
だけど、その子を裸にしようかと考えると、恥ずかしくてたまらない。
那美さんの『コリン』に至っては、別物だと思っているのにも関わらず、羞恥心を拭うことは出来なかった。
そんな中で、結花さんの自分の人形を使えば良いというのは、とても魅力的な提案だったと思う。
なのだけれども、その提案を受入れるということは、それはそれで私が嫌だと思ったものを押し付けるような気がして、罪悪感が半端なかった。
勢いに飲まれたとはいえ、素直に頷いて返事をしてしまった自分の考えの無さに、今更ながら情けなさが溢れてくる。
とはいえ、結花さんは準備万端なので、今更拒否というわけにもいかなかったし、何よりここで『ウーノ』を裸にしようと提案できる程の勇気も根性も私にはなかった。
「それじゃあ、始めますね」
「うん。お願い」
私の横に達結花さんが深く頷いた。
椅子に座る私の前には机があって、ここに結花さんの分身となる人形を出現させる。
見学の舞花さんと那美さんは、不用意に私に触れてイメージを送り込まないように、机を挟んだ向かい側に陣取っていた。
チラリと視線を向けると、舞花さんはギュッと握った零すウィ上下させて、那美さんはゆったりと微笑んで、無言で応援してくれている。
なんだか心強いと重いなと感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。
手慣れてきたエネルギーの集中に入りながらも、油断はしないように気持ちだけは引き締める。
自己というのは慣れてきて気持ちに油断が生まれた時に起りやすいのだ。
私が怪我をするだけなら良いけど、すぐそばに立つ結花さんを巻き込めかねないので、その事を何度も頭の中で繰り返しながら、集まり始めたエネルギーを掌の先で球体へとまとめる。
志緒さんの時を思い出しつつ、結花さんの姿を人形サイズに縮小しつつコピーするイメージを思い浮かべた。
次いで『鉄壁スカート』や『謎の光』の機能もイメージする。
グンと腕にのしかかるエネルギーに負荷を増したが、これまでの経験もあって、支えきれない程ではなかった。
ゆっくりと慌てずに、人形の素となる球体へとエネルギーを流し込んでいく。
腕に掛かっていた負荷が減るのに合わせて、結花さんの服装として制服を思い描いた。
制服のイメージによって負荷が生まれることはなく、私の思い描いた結花さん人形に必要なエネルギーは全て送り込めた感覚がしてくる。
そこで、私は先ほどの『変身』の事を思い出して、結花さんに尋ねてみた。
「結花さん、あの魔女への変身とかはどうしますか?」
私の問い掛けに結花さんは「うーん」と少し唸る。
それから、ややあって「マイ、頼んでも良い?」と結花さんは舞花さんに声を掛けた。
「もちろんだよ、お姉ちゃん!」
舞花さんが返事を返した直後、パタパタと足音を立てて、結花さんが立つ私の左ではなく、反対の右側に気配が近寄ってきて、そのまま右腕に手が触れる。
「リンちゃん、イメージ送っても良い?」
舞花さんに問い掛けられて、少し間を開けてしまったものの、変身のイメージを舞花さんに追加して貰うつもりなのだと理解した私は「いいですよ」と返した。
「じゃ、いくね!」
直後、全身からもの凄い勢いで腕にエネルギーが集まり始める。
体感したばかりだけど、変身させるのに必要なエネルギーはもの凄く膨大だった。
エネルギーを散らさないように、漏らさないように意識を集中して、暴れるのを押さえ込む。
それと同時に、球体へ流し込める分は、送り込んで、腕に蓄積される分量を少しでも減らしていった。
どうにか舞花さんのイメージによって追加された変身能力に必要なエネルギーを送り込んだ所で「結花さん、一旦人形の形にしますね。微調整はその後でお願いします」と伝えた。
「了解。よろしくね、リンちゃん」
結花さんの返答に頷いてから、球体のままのエネルギーに、目標とする結花さんの人形へと変化するようにとオーダーを出す。
これまではある程度エネルギーを送り込むと、自動で変化を始めていたのだけど、最初に球体の状態を維持しながら必要なエネルギーを受け入れ、その後、私の合図で変化を始めるようにと意識しただけで、球体で変化を止めることに成功した。
自動で変化を始めるのと、直前まで球体のままを保つのでは、どちらが難易度が低くなるかと思い付いての突発的な試行だったのだけど、個人的な感覚では今回の直前まで球体の方が楽な感じがする。
一度物体化してしまった場合、変化させたり、能力を付与するのは、アップデートするのと同然だからではないかと、私は自分の中で結論づけた。
いずれ実証したいなと思いながら、球体が結花さんの姿ヘと変化し終わるのを待つ。
球体が結花さんの姿ヘと変わったのを実感したところで、私は結花さんに「調整したい場所があったら、イメージを送り込んでください」と告げた。




