拾之参拾漆 イメージ構築
「これがリンちゃんの『アイガルカード』!」
排出されたばかりのカードを手に、結花さんが体を震わせていた。
「お、お姉ちゃん、舞花も! 舞花も見たい!!」
横から舞花さんに体を揺すられて、ハッと我に返った結花さんが「御免、独占してしまっていたわ」と言いながら、カードを手渡す。
真っ先に確認しそうな志緒さんだったが、予想に反して、すぐにカードを結花さんに手渡してしまっていた。
なので、直接「志緒さんは、いいんですか?」と聞いてみる。
「まあ、後でじっくり見ますし……今は『アイドル認定証』を準備しないといけませんから」
「なるほど……」
私が頷くのを確認してから、志緒さんは「というわけで、早速、作っていきましょう!」と目を輝かせた。
『アイドル認定証』はアイガルプレイヤー必携のアイテムで、実際私以外の四人全員が一枚以上持っているカードだ。
一回のプレイで、希望のコーデを排出するのに必要なポイントを獲得できないプレイヤーは、このカードに累計で獲得したポイントを溜める。
他にも、自分のオリジナルキャラクターのデータや、プレイや名など、カード排出に使われる情報も記録されているので、オリジナル要素の強いカードを作りたいプレイヤーは複数枚持つのが普通だそうだ。
現在、アイガルシリーズは15年目を迎えているらしく、その間にいくつもの『アイドル認定証』が存在していたらしい。
詳しく知らなかったので、同じ世界観でずっと描かれているのだと思っていたら、数年ごとに大きなシリーズで区切られていて、その中でも一年から長くても三年程度で、主役の世代交代が行われたりしているそうだ。
理由としては、劇中のアイドル達はおおよそ中学生から高校生くらいの学年で、通っているアイドル学校から世界に羽ばたくということらしい。
そんな背景から『アイドル認定証』は展開しているシリーズによって、ファン向けに販売しているブロマイドを模したものや、学生証をもしたもの、変わり種だと免許証を模したものと、意外に種類は多かった。
最新作では、世界中を旅しながらアイドル公演をするという設定なので、パスポート風になっている。
劇中で、アイドルを輩出する王国である『聖フェアリー王国』の国章が入ったカードは、プレイヤーの名前、誕生日、血液型がプリントされる仕様だ。
パスポートという設定なので、顔写真を掲載する部分もあり、ここに自分でカスタマイズした自分のキャラクターの顔が掲載される。
それだけでなく、この顔写真に自分の実写の写真を挿入した特別版『アイドル認定証』もあるらしく、こちらはメーカーの直営店舗に行くか、ネットで申し込まないと作ることが出来ないそうだ。
自分の顔写真を付くあったものは、費用に加えて、保護者の承諾も必要なので、かなり入手難易度が高く、持っているだけで一目置かれるプラチナカードでもある。
こうなると、志緒さん達が何を望むかは、想像に難くなかった。
「これが『アイドル認定証』ですか……」
志緒さんから提供されたのは、通常のオリジナルキャラが掲載されているカードだった。
私の勘では、志緒さんは顔写真のものを持っていそうだけど、多分、持てない子もいるので出さないんだと思う。
「それは普通のカードで、つくってほしいのはこっちね」
志緒さんはそう言いながら、数枚の紙を取り出した。
「これって……」
「ネットで公開されている、自分の写真を使った『アイドル認定証』の見本」
志緒さんの説明に「なるほど」と返しつつ、紙の資料に目を通す。
「こっちは、全体的にクリームというか、少し黄色が混じった白なんですね」
基本的に裏はまったく同じで、表もデザインに大きな違いは無かったのだけど、色が微妙に違っていた。
完全な白のノーマルのものより、髪を意識しているのか少し黄色みが加えられている。
他に違いは無いかとカードと資料を見比べていると、結花さんが「文字も少し違うんだよ!」と教えてくれる。
言われて見比べると、顔写真を使う特殊な方は文字が所々掠れていた。
単純に印刷時のかすれかと思ったけど、どうもそういう演出らしい。
「あとは、誕生日に、生まれた年も入るんだ」
指さしながら教えてくれる結花さんに頷きで応えつつ「他に違いはありますか?」と尋ねた。
「後は一緒かな」
「了解です」
私はそう答えると、目を閉じて頭の中でカードの全体像をイメージする。
名前、生年月日、それから顔写真、掲載するものを思い浮かべたら、それぞれカードの該当する場所へ当てはめて、一枚ずつカードの表面を頭の中で完成させた。
このまま出力すれば問題なさそうだと思ってから、『アイガル』のプレイ記録を保存する機能を入れ忘れていることに気付く。
慌ててその機能を念じて追加した後で、五枚それぞれの裏面に国章の刻まれたデザインを重ね合わせた。
いけそうだなと思ったので、もう一つ要素を加えてみる。
本物のゲーム機用の『アイドル認定証』と見分けが付くようにだが、皆がどう思うかは、未知数なので、心臓がドキドキしだした。




