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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之参拾弐 命名

 筐体の出現は、これまでとはまた違った形になった。

 一旦、筐体を出現させた後で、ボタンの感触などを調べてバネの強さを調整するといったアップデート方式になったのである。

 できあがった品に、微調整を加えていくという形は、物作りにこだわりのある職人さんみたいで、少しテンションが上がってしまった。

 志緒さんと結花さんの検証チームが感触を調べ、変更・修正の方向性が決まったら私を介して、変更に必要なエネルギーを送り込んで修正していく。

 回数を重ねる毎に二人の理想に近づいていくので、アップデートと検証を繰り返す志緒さんと結花さんの表情はキラキラと輝きを増していた。

 一方で、待ちの態勢となる那美さんは『リンリン』に『アイガル』の動画を見せながら、ダンスの振り付けを習得させている。

 舞花さんは、志緒さんから借り受けたタブレットと、この学校におけるヴァイアの統括を務める『オリジン』にリックさせた自らのヴァイアである『ステラ』を駆使して、メーカー側がサンプル兼基本デザインとして公表しているカードのデータ収集に勤しんでいた。

 誰が仕切ることなく、自然と役割分担を果たしている姿には軽い感動を覚えたのだが、反面、ただエネルギー供給しか出来ていない上に、アップデートもただの補助でしかない自分が少し情けない。

 ただ、そんなことを口にすれば、皆に気を遣わせること間違いなしなので、顔に笑みを貼り付けて皆の頑張りを見詰めることにした。


「おお~~~! 本物みたい!」

 自分が主となってデータの収集をしたのもあってか、テスト印刷として、排出させたカードを手にした舞花さんは飛び跳ねて喜んだ。

 印刷したのは、主人公のドレスの中でも『フェアリーステージコーデ』と名付けられたセットで、劇中におけるライブの衣装のセットである。

 トップスのカード、スカートのカード、ブーツとソックスのカード、イヤリングと帽子のカードの合計四種のカードで構成されていて、今それぞれのカードを私以外の四人が持って検分していた。

 コレクションに同じカードがある志緒さんと結花さんは自分のカードを比べて、光り具合やカードの質などを比較している。

 那美さんは何故かカードを手に「私のターン!」と言いながら、ポージングを決め始めた。

 多分だけど、那美さんのそれは違うカードゲームな気がする。

 ちなみに、那美さんを真似て『リンリン』も同じポーズを取るのが可愛いのだが、私がモデルなのでなんだか無性に恥ずかしかった。


「それじゃあ、衣装チェンジやってみよう」

 志緒さんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。

「じゃあ、テーブルの真ん中に立って、リンちゃん人形、胸普通さん!」

 指示を出す志緒さんの言葉に思わず「待って、その名前は辞めて!」とつい叫んでしまう。

 同じ姿の私と舞花さんの人形の違いが、胸のサイズしかないのだから、言いたいことはわかるけど、その『胸普通』という表現はもの凄く恥ずかしいのだ。

 自分でもわかるくらい顔が熱を放っているので、きっとゆでたこ並みに顔が赤いと思う。

「じゃあ、至高のお胸さん?」

「なぜ!?」

 つい強めに聞き返してしまった私に、志緒さんは何が不満なと言わんばかりの困惑顔を見せた。

 もしも相手が志緒さんじゃなく、月子先生だったら『こっちの方が困惑してますよ!』と口走っていただろう。

 だが、相手は年下の女の子である……一応、状況的には同い年、同学年だけど、少なくとも精神的には年上なのだ。

 頭の中で言い聞かせるように、自分の中で繰り返して、建設的な提案をすることにした。

「混乱するので、私の人形は一体に減らしませんか?」


「じゃあ、ウーノ……お願い」

 私の言葉に、完全な縮小コピーとして誕生した私の人形が大きく頷いた。

 未だ、しゃべるセリフはセットしていないので、声を発することはないが、意思疎通を示せるようにYESとNOは首の振り方で見分け出来るようになっている。

 私の人形に『ウーノ』と名前が付いているのは、私の一体に減らす案が却下されたからに他ならなかった。

 代替案が呼びやすいように名前を付けるということで、どうにか『普通胸』からイタリア語で1を意味する『ウーノ』に変更することに成功したのである。

 私に倣って、舞花さんは中国語で二を意味する『アル』と名前を付け、結花さんは三にちなんで『ミー』と名付けてた。

 双子は特に問題なかったのだが、残り二人はとんでもない大問題児だったのである。

 まず、志緒さんは『天使ちゃん』と言い出したので、これは即座に止めた。

 人の命名センスに口出すつもりはなかったモノの、私が恥ずかしいので懇願して辞めて貰い、結果『アンジュ』になったのは、直前案が『エンジェル』だったので、お互い妥協した結果である。

 更に輪をかけて問題だったのは那美さんだった。

 名前をどうするか振った直後、笑みを浮かべた那美さんは「え、おっぱいちゃんで」と言い放ったのである。

 何の躊躇も無い那美さんの晴れやかな表情に、私は思わず何度も瞬きをしてしまった。

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