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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之弐拾漆 五体

 恐らく私が出現させた縮小コピーである一体に、体のバランスはコピーにそっくりな『リンリン』と同じ衣装を身に纏った一体、気持ち胸が大きい気がする制服姿の一体に、衣装がまんま『きらり』と一緒の普通体型の一体、最後に胸が顔と同サイズまで大きくなっている白のワンピース姿の一体、合計五体の私に似た人形が並ぶ様は悪夢としか言い様がなかった。

 客観的に見れば、今の体の容姿は可愛いとは思うけど、自分の姿という感覚も馴染みきっているわけではないし、そもそもナルシストではないので、置かれた状況には羞恥心が異常に刺激される。

「凄いわねぇ~、皆それぞれイメージが違うのねぇ~」

 一番得意な私を出現させた那美さんが頬に手を当てて溜め息交じりに感想を口にした。

 次いで、志緒さんが「それよりも、大丈夫なの、リンちゃん!? 一気に五体も出して!」と尋ねてくる。

 直後、他の皆が、一斉に心配そうな視線を私に向けてきた。

 ここでウソを言っても皆を不安にさせるだけなので「少し疲れましたけど、それはエネルギーが暴走しないように意識を集中したからで、体に疲れとか痛みとかはないですね」と伝える。

「それなら良いけど、何かあったら言ってよ!」

「もちろんです、舞花さん」

 そう言って頷く手、舞花さんはホッとした表情を見せてくれた。

「信じてるからね」

「わ、わかってます。ウソじゃないですから」

 最初からジト目を向けてきていた志緒さんは、私の返しに対して視線をチラリと那美さんに向ける。

 静香に那美さんが頷くのを確認してから志緒さんもほぅっと息を吐き出した。

 那美さんを完全にウソ発見器として使ってるんだなと思うと、自然と苦笑してしまう。

 凄く皆に気を遣ってくれるのに、妙なところでドライなのが志緒さんの不思議で、個性的なところだなと思った。


「リンちゃん、ごめんね」

 唐突に謝罪の言葉を口にしたのは、私の後ろから横に移動した結花さんだった。

 謝罪の理由がまったくわからない私は「ん?」と首を傾げる。

 そんな私を前に、結花さんは目を泳がして明らかに言い淀んだ。

 明らかに要すがおかしいので、踏み込んで「どうかしたんですか?」と尋ねる。

 それで決心がついたのか、結花さんは真剣な表情を浮かべて「多分……というよりは……」と言い難そうに話し出した。

 だが、そこで口を結んでしまう。

 追い込むようで少し心苦しくはあったものの、話が先に進まないので「……というよりは?」と口にして先を促した。

 一度目を閉じた結花さんは「確実の私の制だと思う」と続ける。

 正直、結花さんの言いたいことにまるで見当がついてなかったので、私は思いきって「何の話?」と聞いてみた。

 それに対して、結花さんは少し驚いた表情を見せてから頬を掻いて視線を逸らしながら「その……リンちゃんの人形が五体に増えたのは、ユイのせいだと思う」と言う。

「なんで、そう思うんですか?」

「最後に触れたのが、ユイでしょ?」

 結花さんの言うとおり、最後に私に触れたのは彼女だった。

「でも、それだけで……」

 言いかけた私の言葉を遮るように軽く頭を振った結花さんは「皆の意見が噛み合いそうになかったから、それぞれの要望が適えば良いのにって思ってたんだ」と語ってくれる。

 私はその話に「ああ、なるほど」と手を打った。

 あの時、私の腕の中で反発し合いながらも拮抗していたエネルギーが、急に流れ出ていったのは、結花さんがそれぞれの要望通りの人形を出すという筋道を付けくれたからだと理解する。

 私は一体に皆のイメージを凝縮しようとしていたので、エネルギーの流れが滞っていたワケだが、それぞれのイメージに出口を作ることで、それぞれに向けて変化させようとするエネルギーは流れていき、結果として五体の完成品になったのだ。

「どのくらいリンちゃんの負担になるかも考えずに、ユイ……」

 謎が解けてすっきりした私に対して、結花さんはもの凄いくらい顔を見せる。

 私は慌てて「結花さん」と呼びかけた。

 こちらに視線が向いたのを確認して「皆にも言ったけど、私は大丈夫だし、無事新しい成果というか、可能性を見つけ出したんだから、お手柄だよ!」と伝えたが、表情は晴れない。

「大丈夫、結花さん。もしも、私に危害が出るようなイメージが送られたら、エネルギーが拡散して、私が被害に遭うことはないから! 今回は無事だからこそ、こうして形になったんだよ!」

 私の言葉に、ようやく結花さんの表情が緩んだ。

「本当?」

 上目遣いで聞いてきた結花さんに、大きく頷いて応える。

 完全な実証実験を経ているわけではないものの、私の感覚でいえば、エネルギー拡散はイメージが実現できない場合に起こる現象だ。

 ここからは推測にはなるのだが、ある種のセーフティ機能だと思う。

 そんなわけで、私は確信を持って「流石に絶対と言える程追い込んで試してはいないけど、ほぼ間違いないと思う」と結花さんに伝えた。

 結花さんはそこでようやく安心してくれたらしく、大きな溜め息を吐き出す。

 その後で、頬を赤く染めながらも晴れやかな表情で「それならいいわ!」と言い放った。

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