拾之弐拾陸 衝突
人形作りはもの凄く体力……いや、精神力を削られた。
自分たちをモデルにした人形作りは意外に難しい。
そもそも自分のイメージと、周りの抱くイメージが完全一致していることはまず無いと行ってよかった。
特に、身長や胸のサイズ、体のラインなど、男性以上に女性にはこだわる部分が多い。
彼女たちは未だ大人と言える年齢では無いとはいえ、こだわりが薄いかと言えばそんなことは無いのだ。
となれば、当然ながら、自分の分身たる人形作りは、自然と熱い熱を帯びる。
身長に胸のサイズ、体重こそ話題にならなかったけど、体のライン、足の長さと気になる点、譲れない場所、イメージの齟齬と、衝突する箇所は数多く、収拾がつく気配がなかった。
ならば、実際に作ってみればいいと思い、まずは私のものから作ることにしたのだが、自分の分身をベースに正確に1/6サイズで出現させたにも拘わらず、なんとこれは違うという意見が噴出してしまう。
出現させた『アイガル』用の私は、完璧なコピーの縮尺を1/6サイズに縮めただけなので、違うわけがないのだけど、実際にサイズを測って訴えたところで無駄なんだろうと察してしまった私は、説得を諦めることにした。
そうして、詳細を皆に任せると荒技を選ぶ。
要は、ヴァイアを出現させる時に用いた方法の応用だ。
私は変化調整を成し遂げるためのエネルギーを生み出しこれを維持し、皆は私に触れ、イメージを送り込むことで人形の微調整を行う。
この方式であれば、私の人形が仕上がった後で、他の人の人形の調整の際に、指示を聞いた私が指定された部位を要望に合わせて調整するという、想像しただけで恥ずかしい行為をしなくても済むと思っていたのだが、目論見は成功したものの、とても大きな代償を払う羽目になった。
「リンちゃんって、もう少し胸が大きいよね?」
「マイちゃん、胸は大きければ良いってものじゃなくてね、リンちゃんに似合うサイズがあるんだよ!」
よりによって私の胸の話題で、白熱しないで欲しかった。
そう思いながら話を聞いていると、突然、体の中でエネルギーが暴れ出す。
声を上げてしまうと、皆を不安にさせてしまうと考えた私は、暴走を押さえ込むように頭の中でエネルギーを抱きかかえるイメージを描いた。
ブルブルと腕がエネルギーの暴走で震えだしたものの、力で押さえ込めるレベルに留まっている。
気は抜けなくても維持できるという感覚が、私の中に余裕を生んだ。
余裕を得た私の頭に浮かんだのは事の発端と思われる、志緒さんと舞花さんの意見のすれ違いである。
胸を大きくしたい舞花さんと現状維持の志緒さん、相反するイメージを持った二人が私に触れた直後に、エネルギーが大きく暴れ始めたので、原因はこれに間違いないはずだ。
ただ、気になる点と言えば、相反することをイメージした二人の接触に対し、エネルギーが反発するでも無く、消滅するでも無く、優先権を奪い合うようにぶつかり合って、その余波が暴走となって漏れ出たと感じられたことである。
つまり、私の中で一つの事象に対して異なるイメージが送り込まれた場合、雌雄を決するためのぶつかり合いが起こり、恐らくこの衝突に勝った方のイメージが反映されるのだろうと予想が付いた。
那美さんの「私もぉ大きい方が良いかなぁ~」という声が聞こえた後で、腕に誰かの手が触れた。
恐らく那美さんだろうと思った瞬間、舞花さんと結花さんが触れた時以上の震えが腕に走る。
同時に体の中に起きていることが、漠然とだが感覚として頭に流れ込んできた。
言葉の上では、胸を大きくと現状維持の二対一なのだが、大きくの度合いが那美さんと舞花さんで違ったらしい。
那美さんの大きくのイメージではかなりの大きさをイメージしていたらしく、結果として、舞花さんのイメージは微増レベルとなり、逆に現状維持の志緒さんに近づいたのだ。
しかも、那美さんの想像力は二人よりたくましいからなのか、那美さんと他二人になった筈なのに、拮抗してしまっている。
いや、正確には三つ巴なので、舞花さんと志緒さんが完全に意見を一致させれば二人に傾くとは思うのだが、自分自身の中で行われているシェアの奪い合いについて、口に出して説明する気には、どうしてもなら無かった。
そんな中で、結花さんが「リンちゃんはありのままが一番可愛いと思うけど……確かに、皆のイメージも見てみたいかな」と言い放って、私の首に手を置く。
結花さんの、私より少し低めの体温が伝わってきて、首から背中にかけて背骨に沿うように、ゾクゾクッと震えた。
直後、わだかまっていた腕のエネルギーが一気に流れ出し、一気に放出されてしまった。
押しとどめる間もなくエネルギーを放出しきった私に、結花さんが「リンちゃんごめんね」と謝罪する。
「え?」
訳もわからず戸惑いの言葉を口にした私に対して、結花さんはエネルギーを注ぎ込んだ『アイガル』用の人形が立っていた辺りを指さした。
結花さんが指さす先へ振り返った私は思わず言葉を失う。
なぜなら、私の『アイガル』用人形が五体ひ増えていたのだ。




