拾之弐拾壱 TPO
那美さんが頬に手を当てて「リンちゃん程じゃなくてもぉ、スカートの中が見えちゃうのはぁ、私だって恥ずかしいわぁ」と言うのだが、全然本気に聞こえなかった。
そんな私の気持ちが表情に出てしまったのか、那美さんは「あらぁ、ウソじゃないわよぉ」と唇を尖らせる。
残念ながら嘘くささが増した。
どこまでかはわからないけど、相手の気持ちが読み取れる那美さんには、私の考えが思い通りに動かなかったのがわかったのだろう。
私を見ながら那美さんは「むぅ~」と口にして頬を膨らました。
そんな那美さんに代わって、志緒さんが口を開く。
「ほら、アイドルとかも、アニメのキャラクターでもそうだけど、スカートは短い方が可愛いでしょ?」
笑顔で尋ねられたものの、なんだか頷くのに抵抗があって、私は「そう、なのかな?」と曖昧な返しになってしまった。
志緒さんはそれをどう受け取ったのかわからないが、特に気にした素振りも見せずに話を続ける。
「でも、アニメと違って、短いとめくれやすい。アイドルはパニエとかペチコートとか、履いたりするけど、学校とか普段着で着るのは大変だし……おかしいでしょ?」
肯定を求めてくる志緒さんの視線に、私は「まぁ」と頷きで返した。
それで十分だったのか、志緒さんは「それで」と話を再開する。
「普段の服でスカートを短くするとしたら、スパッツとかレギンスを履かないとだけど……汗掻いたらベタってなったりするし、あんまり可愛くないし……履きたいっていうよりは、仕方なくって感じじゃない?」
「う、うん?」
はしゃいでいるように見える以外は普段とは変わらない調子の志緒さんの発言だったが、何故かもの凄い圧力を感じ、否定するのはよくない気がしたので、疑問はあるものの、とりあえず調子を合わせて頷いた。
「これは、いわゆるTPOってヤツだよね!」
「ま、まあ」
時、場所、状況に合わせてというのが『TPO』なので下着を見せないように配慮するというのは、ずれていることは無いとは思う。
では『最適な表現か?』というと少し違う気もするけど、ここでそこに着眼しても仕方ないし、話が脱線するだけなので、大人しく志緒さんの話の展開を見極めることにした。
「私たちは未だ小学生だから、実感は薄いかも知れないけど、大事なんだよ『TPO』!」
力説する志緒さんに、そこは完全に正しいので大きく頷く。
だが、返ってきた志緒さんからの評価は想定外だった。
「流石リンちゃん、もう大人の女になる勉強も積んでいるんだね!」
思わず目が点になり、口元が引きつる。
私の視界の中で、いつの間にかするりと志緒さんの後ろに回り込んでいた那美さんが、口元を掻く品が声を殺して笑っていた。
完全に私の反応を楽しんでいるのだと察した私は悪化の回避を第一に考え「そ、そうかも?」」と頷いてみる。
志緒さんは私の返しに頷くと、腰に手を当てた。
「重ね履きをしないでスカートを履いたり、ワンピースを着たいって時があるじゃ無い? でも、無いと見えて不安かも知れない……その時にあったら良いなって思ったのが『鉄壁スカート』なの! ね? 女子の夢だよね?」
志緒さんにそう尋ねられた私は、そう言えば話の切っ掛けはそんな話だったなと思って、何も考えずに「まー、確かに」と返す。
すると、それを切っ掛けに志緒さんが良い表情でふぅー吐息を吐き出した。
どういうアクションなんだろうと、様子を覗っていると、その志緒さんの視線がこちらに向く。
「リンちゃん、スカートの中が見えるの苦手だから、スパッツとか、レギンスとか、嫌いじゃなくて……うんうん、氷ウトしたら、大好きで……夢って考えに共感してもらえないのかなと思ってドキドキしてたから安心したよ」
ホッとしたからか、緩んだ柔らかい表情の笑顔は、素直に可愛らしいと思えた。
京一のままだったら事案になりかねない感想も、素直に抱けるのはこの体の利点だなと、思わなくもない。
「それでなんだけど……」
私が馬鹿なことを考えている間に、志緒さんは視線を落としてモジモジし始めた。
その様子と、これまで見てきた志緒さんを、私なりに解釈をした結果続く言葉に予測が立つ。
「えーと、もしかしてですけど……」
私がそう口にして切り出すと、志緒さんの真っ直ぐな目がこちらに向けられて固定された。
何を言うのかという不安と、自分の言いたいことを読み取ってくれたかも知れないという期待が混じった目を向ける志緒さんを焦らさないように先を言葉にする。
「普段着でも試してみたい……ですか?」
人形で再現することに成功した副食も好きな志緒さんが試してみたいものは何だろうと考えた時、一番最初に皆で着るミルキィ・ウィッチの衣装が思い浮かんだ。
けど、ミルキィ・ウィッチの衣装はスカートは短いものの、そもそもパニエやペチコート、スパッツなどがデザインに組み込まれているので『鉄壁スカート』を組み込んでしまっては、原作に矛盾してしまう。
ならばと考えて、辿り着いたのが『普段着』だった。




