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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐章 変化変容
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弐之伍 尻尾問題への提言

「待て待て、花子。選択肢を押し付けてはダメだろう?」

 勢いで頷いてしまった僕を見かねてか、雪子学校長は助け船を出してくれた。

 だが、花子さんは「押しつけでは無く、必須だからいっているんです!」と意見を曲げない。

 僕はもう口を挟もうという気持ちがまるで無くなってしまっていたので、オロオロとしながら二人のやりとりを見る事しかが出来なかった。

「その……花子の趣味は理解しているつもりだが……自分の欲望で他人の人生を狂わせるのは……」

 今もの凄く不穏で不安を煽る言葉を雪子学校長が口にしたような気がしたのだが、当然割り込める勇気が僕には無く、花子さんに視線を向けるのが精一杯である。

 一方、視線を向けられた花子さんは、眉を寄せて大きく溜め息を履き出した。

 それから強めの口調で、僕と雪子学校長を順番に指さしながら怒鳴る。

「そう言った個人的な理由じゃありません! 良いですか二人とも、私の話を聞きなさい!」

 思わず顔を合わせた雪子学校長と二人、コクコクと頷きで応えねばならない程に、強い剣幕だった。

 一方、僕らが頷いたことで多少溜飲を下げたらしい花子さんは、直前とは打って変わって、落ち着いた優しい声で話し出す。

「いいですか、その尻尾に慣れないといけないのは……その、おトイレで困るからです」

 最後の方になるにつれて、恥ずかしそうにする花子さんは妙に可愛らしいなぁという感想を抱いてしまったのは、その言葉の内容を上手く受け入れられなかったからだ。

 断じて、花子さんの可愛らしさに、単純に惹かれただけでは無いと、強く強調しておきたい。

 突然トイレがどうのと言われて、動揺するなと言う方がおかしいのだ。

 けど、続けられた花子さんの言葉に、まったくおかしくなかったことを僕は理解する。

「わかってないようなお顔なのでちゃんと言いますが、腰掛ける洋式タイプのおトイレで便座に座ったら、尻尾はどうなりますか?」

 いわれて、僕は自分のお尻から生えている尻尾に視線を向けた。

 家のせいで大きく見えているのもあるけど、僕の今の本体とそれほどボリュームは変わらない……いや、子供の体になってしまったせいで、尻尾の方がボリューミーな可能性さえある。

 つまり、便座に座ろうとしたら、誰かが座ってるその前に座るようなポジションになってしまうということだ。

「いいですか? 排泄は『神格姿』であれど、無くなったりはしないんです」

「うっ」

 花子さんの表情も口調も至って真面目な分、その破壊力は凄まじい。

 僕の中で不安が一気に噴出してきたが、それを押しとどめる一手を口にしてくれたのは雪子学校長だった。

「大丈夫だろう。ウチは古い学校だからね、和式もある……慣れないと使いにくいかも知れないが……」

 窮地を乗り越える一言をくれた雪子学校長が救世主に見える。

 だが、花子さんはそう簡単に僕を許してはくれなかった。

「確かに、洋式よりも使いやすいでしょうし、私も慣れないウチは多少使いにくくとも和式を使うのが良いと思います……が、ここで問題になるのが、尻尾を制御出来るかどうかということなんです」

 新たな問題と言われても、何が問題なのかわからずに、僕は困惑した表情を浮かべてしまう。

 対する花子さんは優しい笑みを浮かべながら「用を足そうとしている時に尻尾が暴れたら、便器に入っちゃうかもですよね?」と言われて、背中がぞっとした。

 今はワンピースの裾がめくれ上がって、下着やらお腹が見えるだけだけど、確かに便器の中に尻尾が突入するのは、絶対に嫌だとしか思えない。

 用を足してる途中に入り込んで、泣きながら尻尾を洗う自分が容易に想像出来てしまった。

 しかも、意識が排泄に向いたせいか、少し催してきた気もする。

 こうなってくると、僕の行動は決まったも同然だった。

「は、はなこしゃん、しっぽ、しっぽのうごきをとめる、れんしゅーがしたいでしゅ!!」

 動揺の余り舌が上手く回らず、全然はっきりとした言葉になっていない。

 だが、もうそんなことはどうでも良かった。

 ともかく早く尻尾の制御、せめてトイレに入ってる間だけでも動かさないようにならないとという思いが僕の中の100%……いや、200%位を占めている。

 そんな精神的にも、状況的にも緊急事態に陥りそうな僕に、花子さんは「では、お風呂に行きましょう」と笑顔で言い放った。

 流石に切羽詰まったとは言え、その発言のおかしさに、僕の頭の中は大量増殖した『?』(ハテナ)で埋め尽くされる。

「良いですか、まずはどんな状況においても動じないように練習するのが一番なんです」

「は、はい」

 そこはなるほどと思えるので素直に頷いた。

「女の子の体は男性よりも、尿を溜めておけないので、尿意を感じたらすぐに排泄せねばいけません」

 聞いたことのある話なので、これも頷く。

「練習中にもしかしたら、したくなってしまうかも知れませんから、最初から浴室で練習していれば、服を汚すことも無いでしょう」

 なるほどと頷き掛けたところで、僕の中の何か、あるいは誰かが「ん?」と首を傾げさせた。

 そして、その疑問を解明しようと僕が思考を巡らせる前に、花子さんのとんでもない発言によって、妨害されてしまう。

「ともかく、今は練習です。私も裸になりますから、恥ずかしくは無いでしょう?」

 僕は驚きの余り何も考えられなくなって「……え!? は?」と意味をなさない声を、発することしか出来なかった。

 けど、その間も花子さんはテキパキと状況を進めていく。

「というわけで、これから浴室で尻尾を制御する練習をするので、浴室は立ち入り禁止にしておきますね」

 直後僕は花子さんに手を引かれてこの場を後にすることになった。

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