拾之弐拾 独壇場
「さ、流石にスカート……袴? と、ともかく短すぎます!」
私の指摘に、志緒さんは「これくらいの方が可愛いと思うけど?」と首を傾げた。
次いで那美さんが事もなげに「スカートの下からじゃなくて上から尻尾を出してるからぁ、パンツはそう簡単には見えないと思うわぁ~」と言い放つ。
すると、志緒さんが「ああ!」と手を打った。
「確かに、一緒にお風呂とか入っているから、裸とか下着姿とか見られても平気なのに、スカートがめくれて見られると、何故か恥ずかしい事ってあるよね!」
何故か嬉しそうに言う志緒さんに、那美さんは「乙女心というヤツかしらねぇ」と笑みを見せる。
そんな那美さんの言葉で、一気にカッと全身が熱くなったせいか、口をいくら動かしても、声は出てこなかった。
一方、志緒さんはニッと口角を上げた後「リンちゃん、安心して!」と言い切る。
その後で那美さんに視線を向けた志緒さんは「なっちゃん、『リンリン』に勢いよくジャンプさせて!」と指示を出した。
「はぁい」
快く返事を返した那美さんは、こちらの様子を覗っているような格好で動きを止めていた狐人間になってしまった『リンリン』に視線を向ける。
「しーちゃんからのお願いよぉ~『リンリン』可愛らしくジャンプしてぇ、あ、スカートがめくれちゃうくらいのねぇ~」
那美さんのオーダーに対して、私の口からは「なっ!」という一音だけが飛び出た。
だが、その声が何か影響を与えるわけもなく、那美さんからのオーダーを受け取った『リンリン』は「かしこまりましたぁ」と可愛らしい声で返事を返して、素早く那美さんの身体を駆け上がっていく。
「おぉっ! 凄い『リンリン』!」
興奮気味に感動を声にした志緒さんの視線を笑みで受け止めながら『リンリン』は、那美さんの肩を蹴って宙を舞った。
左足を伸ばし、右足を畳むようにお尻に付けて飛ぶ姿勢はとても綺麗だったが、人間サイズで考えれば大した距離ではない那美さんの肩から机へのジャンプは、人形サイズの『リンリン』にとっては大ジャンプである。
姿勢が如何に美しくとも、ふわりと舞い上がるスカートをその場に留めることは出来訳がなかった。
ふわふわと舞い上がり、完全にスカートの中が見えると思った……のだけど、そうはなら無い。
「は……い?」
思わず間の抜けた声が出てしまったが、志緒さんにとっては絶好の自慢ポイントだったらしく、誇らしげな顔で語り出した。
「どんなにスカートがめくれても、中が見えない……鉄壁スカートを実装したんだよ!」
「て……てっぺき……?」
「そう。元々は女の子向けのアニメの配慮が元なんだけどね! どんなに激しい動きをしてもスカートの中が見えない仕組みなのよ!」
話す毎にツヤツヤと表情を輝かせる志緒さんに、私は「な、なるほど」と頷いて応える。
「装なのねぇ~それでスカートの中が真っ黒になって、中が見えなくなっていたのねぇ~」
わざわざ机の前にしゃがみ込んで、那美さんは『リンリン』をのぞき込むようにしながらスカートの中身が見えないのを確認し始めた。
那美さんが覗いているのは『リンリン』であって、私ではないとわかっているのに、つい自分のスカートを押さえてしまう。
一方の『リンリン』は平然と足を開いた体勢で腰に手を当てて、かっこよく決めているのが、自分の情けなさを痛感させた。
そんな心にダメージを負っている私に向かって、テンション高めの志緒さんが、続きの解説を放つ。
「最初はスカートがめくれ上がらないくらい、長いデザインが良いかと思ったけど、お人形サイズで動けるのに、重めのスカートなんて、可愛くないと思ったの!」
フンという鼻息が聞こえてきそうな志緒さんの自信に満ちた声に対して、消え入りそうな声で「なるほど」と応えるのが私の精一杯だった。
対して志緒さんの語りは勢いを増す。
「だから、完成の直前に、鉄壁スカートを思い出したのは、運命だと思うの!」
興奮をましたしお産の言葉を聞きながら、そう言えばと私は思い出した。
エネルギーの流れが安定し、流量も減り始めて、終わりを感じたタイミングで、急激にそれこそ全身から力を搾り取られるんじゃないかという勢いで、必要なエネルギーが増して集中が着れそうになったのである。
私はアレかと思うと同時に、鉄壁スカートを実現するためにはもの凄いエネルギーを必要とするのだという事実に愕然とした。
「あれ、リンちゃん?」
話しきったからか、いつもの観察力を取り戻した志緒さんは、私の変化に気付いたらしい。
今更、何でもナイは通用しそうにないので、素直に『鉄壁スカート』の再現にスゴイエネルギーが必要だったという事実を伝えると、志緒さんは両手を合わせて「そうだったの! ごめんね!」とすぐに謝罪をしてくれた。
今となれば終わった話なので「それはいいんだけど……」と返したところで、那美さんが頷きながら会話に参加してくる。
「なるほどねぇ。女子の夢だけに実現の壁は大きかったワケねぇ」
しみじみと言う那美さんに、私は「女子の夢ですか?」と首を傾げた。




