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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之拾弐 抱き枕

「ねえ、リンちゃん」

 神妙な表情で声を掛けてきた那美さんに、私は「なんですか?」と聞き返した。

「狐の『リンリン』とクロロン、ヴァージョンアップする時にぃ、どっちのぬいぐるみの姿にしたら良いと思う~?」

 那美さんにとっても真剣な表情、堅めの声で聞かれた私は目が点になってしまう。

「ねぇ、リンちゃん。あなたの意見を聞きたいわぁ」

 じっとこちらを見る那美さんの目を思わず見詰め返してしまった。

 そのまま無言で数秒、那美さんがパチクリと大きな目を瞬かせ、それを切っ掛けに我に返った私は、頬が熱くなるのを感じながら視線を外す。

「そ、そうですね。確実なのは、クロロンですね……見て触れますから」

 とりあえず、私なりの意見を口にしてみた。

 実際出現……というよりは変化をさせられるとしたら、目標の形が確認できた方が成功率は上がると思う。

 クロロンはぬいぐるみとして存在しているので、触れて触感やサイズ感を掴んで再現できるわけだ。

 一方で『リンリン』については、志緒さんのイメージを元に設計図だけで生み出した存在なので、ちゃんとした見本となるモノはない。

 どちらが作りやすいかという点でもそうだけど、完成した時に私が自信を持って提供できるのは、前者のクロロン型なのだ。

 と言うわけで、自分のぬいぐるみを作り出して、それを動かされるのがなんだか恥ずかしいと言うわけじゃないぞと、胸の内で強く主張しながら、視線をこっそりと那美さんに戻す。

「なるほどねぇ」

 私の意見を吟味しているのか、顎に手を当てた那美さんは、うんうんと何度も軽く頷いていた。


 息を見出しながら教室に戻ってきた志緒さんは「はぁっはぁった……リ、リンちゃん……お、お待たせっ……はぁっ」と息を見出しながらも、とても明るい笑顔を私に向けてきた。

 呼吸を乱している志緒さんに戸惑いながらも「し、志緒さん、大丈夫?」と尋ねる。

「大丈夫、それよりっ……はぁっ……ヴァージョンアップ!!」

 ギュッと両手で胸の前に『シャー君』を抱えた姿勢のままで、グッと体を寄せてくる志緒さんの目に籠もった感情はとても強かった。

 正直、逃げ出したいと思わせる程の圧を感じる視線に、私は苦笑しながら「わ、わかりました」と頷くことしか出来ない。

 一方の志緒さんは、私が承諾したことで、気持ち的に一段落したのか、ハァと大きく息を吐き出した。

 その後でゆっくりと息を吸い込んで呼吸を整える。

 私も志緒さんに合わせて深呼吸をしたところで、しっかりと視線がかち合って、同時に噴き出すことになってしまった。


「とりあえず、触ってみても良いですか?」

 私がそう言うと、志緒さんは「もちろんだよ!」と頷いて『シャー君』を差し出してきた。

 両手に乗せて貰った『シャー君』を見ながら、私は志緒さんに質問を投げる。

「未だ出来るかどうかはわかりませんけど、ヴァージョンアップできるとして、どんな姿にするかイメージは出来てますか?」

 志緒さんは「うん」と頷いてから希望を口にした。

「一応、クッションが良いかなって思ったんだけど……もっと大きくすることは出来る?」

 私はどの程度を考えているのか知りたかったので、そのまま「どのくらいの大きさを考えていますか?」と聞き返す。

 志緒さんは間を置かずに「抱きつけるくらい……えっと、抱き枕くらいかな?」と言いつつ自分の頭のてっぺんに合わせて、片手を水平に動かして見せた。

 恐らく、自分の身長と同じ位を考えているんだろう。

 林田京一の姿の分身を出現させることは出来ているので、それよりもサイズ的に小さい志緒さんサイズの抱き枕なら大丈夫なはずだ。

 ただ、抱き枕の実物は目にしていないので、どうしようかと思ったところで、結花さんの時の事を思い出す。

「あの……志緒さん」

「なに? リンちゃん」

「サイズ的には抱き枕サイズはいけるかなってお思うんですけど、具体的なイメージと買ったありますか?」

 私の問い掛けに、志緒さんは「多分ミリメートル単位で描けているわ!」と力強く言い切った。

「そ、そうなんですね」

 流石にミリメートル単位は予想外だったので、一瞬引いてしまったが、翌々考えると出現させるには好都合だ。

 考えを切り替えて、気持ちを整えた上で私が「これからの手順なんだけど」と切り出すと、志緒さんは表情を引き締める。

「まず、今私の子の手にある『シャー君』を抱き枕に変えられるか試そうと思います」

 私の発言に、志緒さんは「はい」と頷いた。

「ただ、今の形から変化させられるかは試していないので未知数です」

「はい」

「なので、変化させられなかったら、新たに抱き枕サイズの『シャー君』を出現させようと思います」

「新たに?」

 志緒さんに軽く頷いてから「なので、場合によっては、志緒さんに二体のヴァイアの管理と観察をお願いすることになると思いますが、大丈夫ですか?」と尋ねる。

 私の言葉に少し驚いた表情を見せた志緒さんだが、すぐに「どっちの『シャー君』も可愛がります」と真剣な表情で断言した。

 その表情で大丈夫そうだと確信した私は、最後にお願いを付け加える。

「結花さんとの実験でわかったんですが、出現させるモノのイメージを持っている人に触れられていると、形にすることが少し簡単になるんです」

「それって……」

「今の『シャー君』を変化させるにしても、新たに出現させるにしても、結花さんに触れてて貰った方が成功率が高くなると思うので協力してください」

「わかりました!」

 すぐに同意してくれた志緒さんに、私は手を差し出した。

 その後で「出現させる抱き枕の『シャー君』を思い浮かべてください」と手を差し伸べながら告げる。

 しっかりとした口調で「はい」と頷いた志緒さんは差し出した私の手に自らの手を重ねた。

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