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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之拾壱 ヴァージョンアップ

「リンちゃんさまぁ~」

 甘えた声を出す『ステラ』に、胸がキュッと掴まれてしまうような感覚を覚え、つい撫でる手を止められなくなってしまった。

 この子は舞花さんのヴァイアなのだから、早く返してあげなければとは思うのだが、なかなか手放せない。

 しかも、チラリと見た舞花さんは満足そうに頷いていて、返して欲しいというアクションをしていなかった。

 それを見てしまったせいか、未だ手放さなくとも良いかという思いが湧いてくる。

「って、だめっ!」

 このまま手放せなくなる前に、私は断腸の思いで『ステラ』を引き剥がした。

 すると、引き剥がされた『ステラ』は「リンちゃんさまぁ~」と泣き出しそうな顔で目を潤ませる。

 私の冷静な部分が、本来ぬいぐるみなはずのに、完全に動物、下手すると人間のようにクルクルと表情を変えることに驚愕し、感情的な部分が胸を締め付けられる感覚に耐えきれず、またも抱き寄せてしまう。

 それを舞花さんと志緒さんに微笑ましいモノを見る目で見守られるのは、恥ずかしさで悶絶しそうだったが、腕度解くことは出来なかった。


「『スーちゃん』可愛いでしょ?」

『ステラ、可愛いです?』

 舞花さん、次に『ステラ』と順番に問い掛けられた私は「うん」と頷くことしか出来なかった。

 小さくてもふもふしたものが動くのがこんなに愛らしいとは思わなかったし、一度抱きしめてしまうと冬の寒い日の布団並みに離れがたい。

 狐スタイルの私を皆が抱きたがる秘密を見た気がして、私は『ステラ』には怖い思いをさせないようにちゃんと抑制できるようになろうと、一人心の中で誓いを立てた。

「……それにしても、驚きました」

「ん?」

 私の発言に、舞花さんが首を傾げる。

 それを真似て『ステラ』も「ん?」と首を傾げた。

 思わず抱き付いて頭を撫でたくなる衝動を無理矢理抑え込んで、舞花さんと『ステラ』のシンクロの破壊力に恐ろしさを感じながら、息を吐き出して気持ちを整える。

『ステラ』を抱きしめたい衝動と闘いながら、私は可能な限り落ち着いた声色になるように意識しながら「ヴァイアは元々設置するタイプのものだったので、まさか動き回れるようになっているとは思いませんでした」と告げた。

 すると、誰よりも早く『ステラ』が「ステラ、スゴイ!? リンちゃんさまっ褒めてっ!」と頭を突き出してくる。

 ここで断ると『ステラ』が泣き出しかねないと判断した私は「スゴイね」と小声で口にしてその頭を撫でた。

 頬に触れるのが限界の手で顔を隠しながら『ステラ』は『えへへ』と照れる。

 その仕草の可愛さに、思わず伸びそうになった手を握りしめて、私はどうにか踏み止まった。


 私は『ステラ』のそばにいると魅了されて思考が鈍ると思い、考察をしたいからと理由を付けて、舞花さん達から距離を取った。

 教室の中では結花さんが『きらり』と『ぴかり』の二体と会話を弾ませている。

 そして、今現在、ニコニコとした表情の志緒さんと那美さんが私の左右に座るという状況に陥っていた。

「えーと……アレですよね?」

 私は具体的な言葉を口にせず、二人にそう尋ねる。

「たぶん~そうかなぁ」

 ニコニコとした顔のままで言う那美さんに続いて、志緒さんははっきりと要望を言葉にした。

「私の『シャー君』もぬいぐるみヴァージョンにして欲しいの!」

 動くヴァイアを目にした志緒さんが自分も欲しいと考えるのは予想宇通りだったので、つい「だよね~」と砕けた口調で返してしまう。

 どうも、その言い方が引っかかったらしい志緒さんが「あ、ごめん。い、言ってみただけだから、全無理しなくて良いからね!」と、もの凄い勢いで引き下がってしまった。

 思わず苦笑してしまいそうになったが、そんな表情を見せたら更に引け目を感じてしまいそうだったので、なるべく表情を変えないように意識しながら志緒さんに丁寧に考えたことを伝える。

「あー、出すのは全然構わないし、出来る感覚があるので大丈夫です」

 私の言葉に、志緒さんはすぐにホッとした表情を見せた。

 そんな志緒さんの反応に、私もホッとしながら話を続ける。

「ただ、折角『シャー君』がいるので、アップデートできるか試してみようかと……」

 私がそこまで口にしたところで、志緒さんが」「スゴイ!」と勢いよく立ち上がり、その反動で倒れてしまった椅子が、大きな音を立てて床を転がった。

 志緒さんには倒れた椅子のことが認識出来ていないのか、まったく気にした素振りを見せずに「『シャー君』がおっきくなって、ぬいぐるみになるって事!?」と私の手を握って目を輝かせる。

「ま、未だ、試していないからわからないけど……やってみる価値は……」

「すぐ『シャー君』を連れてくるね!」

 志緒さんはそれだけを言い残すと次の瞬間にはもう教室から姿を消してしまっていた。

 後に残っていたのは、那美さん以外のヴァイアを含めた皆の視線である。

 とりあえず、倒れたままの志緒さんが座っていた椅子を起こしてから、皆に「志緒さんのヴァイアのバージョンアップをしようと言ったら……」と口にしたら、最後まで言わずとも舞花さんと結花さんは理解したとばかりに大きく頷いた。

 それから、それぞれがそれぞれのパートナーに説明をする。

 普通に会話が成立している光景に、やらかしすぎたかもしれないと思うと、何故かゾクリと体が震えた。

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