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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之捌 会話

 会話する人形という課題に対して、強く興味を引かれたのには大きな理由があった。

 問い掛けに対して、イエスかノーかを答えるだけでは、質疑応答であった会話ではないし、当然、ヴァイアの基本的なやりとりである『オーダーに対しての承諾か不承諾』も会話とは言えない。

 会話とは、ありがちだが、キャッチボールだ。

 ボールを交互に投げるというルールはあるが、どんな球が来るかはその時までわからず、どういう球を投げ返すのかも決まりがあるわけでは無い。

 それぞれ違う考えをするもの同士が、言葉を交わすからこそ会話になるのだ。

 つまり、会話する人形という条件をクリアするためには、それぞれにある程度の意思、自我が必要になる。

 それは月子先生とのやりとりの中で限界を迎えてしまった私の分身というか、身代わりと言うべき『林田先生』構築に大きく影響を与えるであろう試みだ。

 流石にそこについては触れられないので、言える範囲で確認をとる。

「まだ試したことが無い内容なので、出来るかどうかわからないんだけど、チャレンジしてみて良い?」

 私の問いに結花さんは「ユイも協力できることはするから、お願い!」と熱の籠もった返答をくれた。

「それじゃあ、いろいろ試しながら、完成を目指してみるね」

 結花さんは「それって?」と首を傾げた。

「簡単に言うと、私は体の中からエネルギーを手の先に集めて、ヴァイアを作り出してるんだけど、その時に、私のイメージの影響で、形になりやすかったり、なりにくかったり、ならなかったりするのね」

 そこまで私が言うと結花さんは「イメージを変えて、出来るか試してくれるって事?」と首を傾げる。

「そう、そういう事だね」

 頷いた私に、結花さんは心配そうな表情になって「それって、リンちゃんの負担が大きいんじゃないの?」と気遣ってくれた。

「無理をすると、皆に心配をかけてしまうので、負担が大きそうな場合は諦めることになりますが、いいですか?」

「もちろん! リンちゃんに無理させたいわけじゃないし、そもそも『きらり』ちゃんだけじゃなくて『ぴかり』ちゃんも出して貰うんだから……あー会話は出来なくても良いよ?」

 話の途中で、結花さんは希望のランクを下げてしまう。

 私への配慮で、自分の気持ちを抑えてしまった結花さんの振る舞いに、逆に挑戦する意欲が沸き立った。

「そう言われると、逆に成功させて、結花さんに満足して欲しくなっちゃいます!」

「えっ!」

 戸惑いの声を上げた結花さんに、那美さんが悪戯っぽい表情で声を掛ける。

「リンちゃんの操縦がぁ、上手ねぇ、ユイちゃん」

「そ、そうじゅうって、そんなことは考えてないからっ!」

 慌てて結花さんが否定したことで、私と那美さんはほぼ同時に笑い声を上げた。


 最初の集中から手の先へのエネルギーの移動はこれまで幾度も繰り返してきただけあって、とってもスムーズだった。

 イメージ通りにエネルギーは球体へと変化を遂げる。

 ここからは未知の領域なので、大きく息を吐き出して、更に意識を集中させた。

 まず『きらり』と『ぴかり』の二体を出現させるために、球体を二つに分割する。

 順調に分割まで成功させたところで、目標のを頭に描いた。

 舞花さんの『ステラ』の時のように外見の再現に大きな艇庫は感じない。

 目標とする造形を、サイズや質感まで確認していたのが大きそうだ。

 二体の人形を出現させることは間違いなく出来ると確信した私は、行程を次に進める。

 ぬいぐるみである『ステラ』、元々のオーダー品であり設計図もあった『シャー君』、それらよりもサイズが小さい『きらり』と『ぴかり』にヴァイアを埋め込むために、二体のこちらのオーダーに反応する光景を思い描いた。

 条件を追加する食べに私の中から球体へとなげれ混むエネルギーに淀みは無く、これについても上手くいくだろうという実感を得る。

 そうして、私は最難関に差し掛かった。

 人形同士の会話である。

 想定ではかなり難しいと感じていたのもあったか、私から二つの球体へのエネルギーの流れがピタリと止まってしまった。

 霧散していない以上、出来る可能性はあるが、一つ前に手がけた『ステラ』の時と違って、エネルギーの動きが感じられない。

 最後まで集中を切らさなければ、どうにかやり遂げられるというわけではなく、このままの状態が続けば、私の集中力切れで失敗しそうな状況であった。

 引くに引けず、かといって状況を変えられない状況に陥ってしまった私は、半端なまま出現させてしまうか、一旦諦めるかの岐路に立つ。

 願望を言えば、結花さんの笑顔を見るためにも成功させたいが、現状では難しい……というよりは無理だ。

 となれば、ここは結花さんに聞くのが一番だと判断して、意識を切らさないように集中を保ちながら「結花さん」と呼びかける。

「なに、リンちゃん?」

 私の呼びかけに即座に応じてくれた結花さんの手が私の肩に触れた。

 直後、足踏みを続けていた私のエネルギーが急速に二つの球体に向かって流れ始める。

 一瞬何が起こったのかわからなかったが、直後脳内に浮かぶイメージで、私は察することが出来た。

 にこやかに会話を交わす『きらり』と『ぴかり』の姿が、声を伴った状態で私の頭に浮かんだのである。

 それが結花さんのイメージを取り込んだ結果であり、そのお陰で、実体化が加速度的に早まったのだと理解した私は、すぐに要望を言葉にした。

「結花さん、頭に『きらり』と『ぴかり』が話している姿を強くイメージしてください!」

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