拾之漆 要望
「今、舞花さんは、志緒さんと二人で検証をしてくれているので、結花さんのヴァイアの話はこちらで進めましょう?」
私の前の席を指し示しながらそう言うと、コクリと無言で頷いた結花さんが、硬い動きで席に着いた。
席に着くなり結花さんは、教室に戻ってきた時に手にしていたダンボール箱を机に乗せる。
そこで結花さんはジッと私を見て、そのまま動きを止めてしまった。
こちらから声を掛けないといけなそう雰囲気に、私は早速話を切り出す。
「それで『きらり』はどんな子なんですか?」
私の言葉にピクリと肩をふるわせた結花さんは、ゆっくりとした動きで段ボールを開けた。
中には様々な種類の文房具と何体かの人形が入っている。
文房具には、恐らく『ちちんぷい』の番組ロゴと、箱に一緒に収まっている人形に似たキャラクターが描かれていた。
舞花さんに倣って、人形だけでなく、イラスト類も用意してくれたんだろう。
そんなことを考えていると、本当に大事そうに収まっていた人形の一体を取り出した。
「えっと、その子が『きらり』?」
私がそう尋ねると、結花さんはコクリと頷く。
そんな結花さんの手の上に乗った人形は、人間の女の子を模していた。
身に纏うワンピースは銀色が主体で、金色のアクセントが入っていて、紫の髪は肩までの長さで、星のあしらわれたカチューシャをしている。
確認していなので、はっきりと断言は出来ないが、多分、宇宙人か何かの設定画ありそうな雰囲気を感じた。
「えっと『きらり』に触れても大丈夫?」
「うん」
私がそう尋ねると、結花さんは視線を落としてしまう。
そこからおずおずと差し出されると、なんだか悪いことをしている気がして「もしも触られたくないなら、触らなくても大丈夫だよ」と伝えると、思いっきり左右に首を振られてしまった。
「ち、ちが、その、はずかし……い、だけ」
辿々しくも一生懸命そうじゃ無いといってくれた結花さんの落ち着かない様子に居たたまれなくなって、以降の問答を断ち切るように「うん。わかった」と告げて、手を差し出す。
「受け取っても良いかな?」
そう尋ねると、結花さんは私の手に『きらり』を乗せてくれた。
これまであまり触れたことはなかったけど、手に乗った『きらり』人形は思ったよりも軽い。
だが、その肌の感触は怪獣や宇宙人のソフビ人形に似ていて、流石にゴツゴツではなくつるつるだけど、同じ素材なんだなと驚かされた。
「それで、この子に似たヴァイアでいいのかな?」
私がそう尋ねると、結花さんはハッとしたように顔を上げて、その直後視線をそらしてしまった。
流石に何かあるなと思ったので「要望、言ってみてください。盛り込めるかわかりませんけど、試してみます」と伝える。
だが、結花さんは言葉にし難いのか、視線を下げたままで反応してくれなかった。
すると、いつの間にか結花さんの背後に移動していた那美さんが優しく声を掛ける。
「ほら、言ってみた方が良いわよぉ。リンちゃんは無理しないって約束してくれてるからぁ。出来ない時は出来ないって言ってくれるしぃ」
那美さんの声は優しいけど、こちらにチラリと向けられた視線で『無理はしないように』と釘を刺されたのがわかってしまった。
一方、結花さんは那美さんが品かを押してくれたのもあってか、意を決したように頷く。
その後で段ボール箱から新たな人形を取り出した。
「こ、この子は『ぴかり』ちゃんって言うんだけど『きらり』ちゃんの妹で……」
そう説明してくれた結花さんの手に乗る人形は髪型だけが『きらり』と違っていて左右の耳の位置で髪を結んでいる。
ダンボールの中で見た時は『きらり』の別スタイルかと思ったんだけど、双子の妹だったのかと納得するとともに自然と頷いていた。
そんな私の動きに敏感に反応してしまった結花さんは、口を開いたままで固まってしまう。
これはいけないと思った私は、慌てて結花さんに質問を投げ掛けることにした。
「じゃあ、私は『きらり』と『ぴかり』を出現させれば良いですか?」
「……え?」
戸惑った声を上げた結花さんに、私は「違いました?」と尋ねる。
結花さんはすぐに首を左右に振った後で、目を潤ませながら「良いの?」と尋ねてきた。
ここで変に言葉を選ぶよりも、そのまま伝えた方が良いかと考えて答えを返す。
「二体、出すことは出来ると思います。えっと、サイズが小さいので、機能は多少……」
そう口にしたところで、結花さんが「あ、あの!」と遮るように声を上げた。
私が目を瞬かせて動きを止めると、結花さんは「二人をお話しさせることは出来る?」と問い掛けてくる。
想定外の要望だったので、思わず「おはなし……ですか?」と聞き返してしまった。
「えっと、その機能とかはわからないけど、その……『きらり』ちゃんと『ぴかり』ちゃんのお話ししてるところを見たくて……」
終わりに近づく程声を小さくしながらも、言い終えた結花さんは、息を吐き出した後で、私を上目遣いで見る。
こちらを見る不安げな結花さんの表情に、直ぐに応えてあげなければと思う反面、新たな課題に対する好奇心に、私の思考は完全に飲まれてしまっていた。




