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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之弐 苦情

「もう、伝えたならちゃんと伝えたって言ってください!」

 朝食のために顔を合わせた食堂で、那美さんと志緒さんのコンビにまず苦情を伝えた。

「あ、うん。朝ご飯の時に言えば良いかなと思って……メッセ送ればよかった?」

 志緒さんはそう言いながらスマホを取り出す。

「いや、そうじゃなくてですね」

 私は志緒さんにそう言った後で、昨晩の状況を説明することにした。


「まさか、お風呂に突撃するとは思ってなかったよ……ごめんね、リンちゃん」

 正面から謝られてしまうと、強く出られなくなってしまった。

 そんな私に向けて、那美さんが「本当は今日の朝にぃ、リンちゃんと雪ちゃん先生に許可を貰ってぇ、二人にも教えようって話してたのぉ」と言う。

「そうなんですか?」

 私が昨日の検証の時に、舞花さんと結花さんにヴァイアのことを伝えると、何故言わなかったのだろうと思っていたのが伝わったのか、志緒さんは「あ、思い付いたのは夕飯の後だったから、リンちゃんに内緒にしようとしてたわけじゃないよ」と説明してくれた。

「夕飯の後でぇ、マイちゃんが衣装のことで尋ねてきたのぉ」

 更に那美さんからの追加情報で、おおよその流れに予測がつく。

 少し想像込みの話にはなるが、昨日の夕食後、部屋でヴァイア達について双子に伝えようと志緒さんと那美さんが決めた後で、舞花さんがやってきて存在が発覚した。

 時間的には、恐らく私が特訓の時間に入った後だったんだろう。

 翌日の朝、つまりこのタイミングで伝えれば良いと判断したが、舞花さん達は欲しいという思いを抑えきれず、昨日の夜、お風呂に突撃してきた。

 志緒さんにしても、那美さんにしてもお風呂の突撃は想定外だったんだろう。

 不可抗力な部分も含めて、少し考えた後で、私は結論を出した。

「とりあえず、特訓が終わった後には確認できるから、メッセは入れるようにして貰っても良いかな?」

 私のお願いに「うん」と志緒さんは頷く。

 けど、そのまま私の反応を覗うように上目遣いを始めた。

 まったく原因の予想が立たなかったので早々に白旗を揚げる。

「えーと、どうか、した?」

 私が少し辿々しく尋ねると、志緒さんはもじもじしながら「あ、あのね」と口にしたものの、そこから視線を泳がすだけでなかなか続きが出てこなかった。

 もう一押し必要そうだなと思って、私は「志緒さん?」と呼びかける。

 けど、それでも口にするのを躊躇っているようで、志緒さんはもじもじしたままだった。

「ほら、しーちゃん」

 那美さんがそう言いながら、ポンと肩を叩いたことで、ようやく志緒さんの気持ちが決まったらしく、顔を真っ赤にして早口になって私に質問を投げてくる。

「あ、あのね。リンちゃんとは部屋が違うでしょ? だ、だからね、あの、連絡以外のこ、ことも、メッセしていい?」

 もの凄く言い難そうだったので、深刻な内容では身構えていた私は一瞬呆然としてしまった。

 が、私としてはたいしたことない内容でも志緒さんには大きな問題だったのである。

 呆然としてしまった私をみた志緒さんの顔がみるみる青ざめていった。

「い、いいよ、もちろん。何でもメッセして!」

「……ほん、と?」

「もちろん!」

 私の返しに長い溜め息を吐き出した後で、志緒さんは胸に手を当てて「よかったぁ」としみじみ呟く。

 その姿にホワッと胸が熱くなった。

「その、漫画とかアニメとかでは見るけど、お友達と、メッセしあったこと無いから……嬉しい」

 本当に嬉しそうに言う志緒さんの姿に、改めてここが隔離された僻地であることを思い出す。

 同室の那美さんとはメッセのやりとりはしないだろうし、異性の東雲先輩は荷が重そうだし、舞花さんと結花さんは、同じようにメッセを送らないダメだとと思ってそうだ。

 雪子学校長、花子さん、月子さん、オマケに林田先生の教師陣は対象外だろう。

 となると、私が一番適任なのだ。

 実際、私……と言うよりも京一時代にはよくメッセのやりとりをしている女子を見ていたし、志緒さんがそれに憧れるのはとても自然だと思う。

 問題があるとすれば、志緒さんが望むようなやりとりが出来るかということだけど、これは月子先生や花子さんに頭を下げても頑張れねばと思った。


「じゃあ、ついでにぃ、私もいい?」

 シレッと手を挙げる那美さんに、志緒さんが困惑混じりの表情を向けた。

「いいですけど、志緒さん優先ですよ?」

「はぁい」

 私の身勝手な返しに那美さん履きにする様子も見せずに明るい表情で頷いてくれる。

 逆に志緒さんの方が「あ、あの、えっと、ゆ、優先じゃなくても……」とオロオロし始めてしまった。

 すると、那美さんが「あー気にしないでぇ、私ぃ、滅多にメッセ送らないと思うしぃ~」と笑う。

「そうなんですか?」

 思わず尋ねてしまった私に、那美さんは「仲間はずれが嫌なだけだしぃ~未だ上手く使えないからぁ、先に許可だけ貰っておこうと思ったのぉ」と言ってウィンクをして見せた。

 私はそのウィンクを観て、私と二人きりの時に明かしてくれたような、内緒の話をメッセでするつもりだなと察する。

 なので、那美さんに「私も手慣れているというわけではないので、お互い、慣れていきましょう!」と頷いてから、志緒さんに向き直った。

「そんなわけで、上手くやりとりできないかも知れないので、いろいろ教えてください、志緒さん!」

 私がそう言って頭を下げると、志緒さんの「もう! 私だってそんなに凄くないから、教えてくださいなんて、頭を下げないで!」と苦情が聞こえてくる。

 そのまま頭を下げているといじめになりそうなので、ゆっくりと上げてみると、頬を赤くした志緒さんは「私だって、お、お友達とメッセやりとりするの初めてなんだし……」と口を尖らせた。

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