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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾章 遊戯創造
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拾之壱 襲撃

 山の上だからか夜になると少し冷え込むのもあって、月子先生との特訓終わりのお風呂は、とても心地よかった。

 ここしばらくは考えることが多かったのもあって、頭をカラにして温もりに身を任せると思わず「はぁ~」と、勝手に声が出る。

 が、直後、浴場の扉が勢いよく開かれた。

 バシンという扉の建てた大きな音に、思わず「ひゃえっ!?」と変な声が飛び出してしまう。

 反射的に腕を胸の前で交差させて、肩を抱いた私の耳に「リンちゃん!」と私を呼ぶ声が届いた。

 直後、パジャマ姿の舞花さんと結花さんが、浴室に突入してくる。

「え!? ちょ、ど、どうした……えっ!?」

 混乱のあまり上手く言葉が出てこない私に向かって、舞花さんが「ズルイよ、リンちゃん!」と涙目で迫ってきた。

 涙目の舞花さんを目にしたことで、冷静さを多少取り戻した私は、とにかく理由を確かめねばと問い掛ける。

「い、いや、待って、何の話?」

 すると、結花さんが抑揚のない声で「ヴァイア」と口にした。

 情報としてはそれだけだったけど、私は一瞬で背景に想像がつく。

 那美さんと志緒さんが自慢をしたい気持ちを抑えきれなかったのか、あるいは、舞花さんと結花さん達が那美さんと志緒さんの部屋にお邪魔して気付いてしまったのかはわからないけど、私が出現させたヴァイアを目にしたのだ。

 そして、舞花さんは……いや、こちらの反応をジッと覗っている結花さんの雰囲気からして、二人とも自分のヴァイアが欲しくなってしまったんだろう。

 私が状況をそう理解した瞬間には、浴槽の縁に手を置いた舞花さんの顔が、触れそうな程近づいていて、慌てて「と、とりあえず、お風呂出るから、待って!」と伝えることになった。


「流石に、この時間は寝てないとだめだと思うんだけど……」

 手早く体を拭いて、服を着ながらそう告げると、舞花さんは「だって」と口を尖らせた。

 そんな舞花さんに消灯についての小言を言っても納得してくれそうにないので、先に「明日、舞花さんの分も出すよ」と伝える。

「ほんと!?」

 声が高くなった舞花さんに「検証のためなら、ヴァイアを出しても良いって、月子先生から許可貰ってるし、大丈夫だよ」と伝えた。

 それから、少し声のトーンを落として「欲しいって思う気持ちはわかるけど、消灯時間が過ぎてるのに部屋を出ちゃダメだよ」と舞花さんに告げる。

「リ、リンちゃんだって……」

 私はどうなのかを問うような目を向けながらいう舞花さんに、きっぱりと「私は特訓中だし、先生方から許可貰ってるから」と言い切った。

 その上で「ルールが守れないなら、ヴァイアはダメって言われちゃうかも知れないよ」と少し可愛そうかなと思いつつ告げる。

 対して舞花さんは「うっ」と言葉を詰まらせた。

「ね、舞花さん」

 声を掛けた私に不安そうな目を舞花さんが向けてくる。

 そんな舞花さんを安心させるため出来るだけ穏やかな表情を作ってみた。

 効果がどの程度あったかはわからないが、舞花さんの表情が少し緩んだ気がするので、なるべく柔らかく聞こえるように気をつけながら話してみる。

「明日、ヴァイアを出す時までどんなのが良いか考えておいて」

 私の言葉に「えっ」と漏らした後で、舞花さんの表情がパァッと明るくなった。

「い、いいの?」

「うん。だから、先生達にバレないうちに早く寝ないとだよ」

 舞花さんにそう返しながらも、校内の監視態勢はバッチリなので、既に先生方にはバレているんだろうなとは思う。

 とはいえ、この程度なら許容してくれるだろうと思ってるので「うん、ごめんね、ありがとう!」と元気よくお風呂場を出て行った舞花さんに手を振って見送った。


「え、えーと、結花……さん?」

 舞花さんはお風呂場を後にしたのに、一緒にやってきた結花さんはジッと私を見詰めたままだった。

 思い返せば、一言『ヴァイア』と口にして以来、結花さんは何も言っていない。

「あの……結花さん?」

 どうしたんだろうと思いながら肩にタオルを掛けて、もう一枚のタオルで髪の水分をとりながら結花さんを見た。

 表情はいつもより堅めのような気がする。

 それだけ深刻な思いがあるのかと思いながら、時折タオルで目線を隠しながら様子を覗っていると、意を決したように結花さんが深く頷いた。

「リンちゃん」

「は、はい」

 力碁持った声に思わず動揺してしまう。

 が、結花さんは私の狼狽をスルーして自分の思いを言葉にした。

「私も欲しい!」

「え!?」

 想定外の言葉に、思わず目を瞬かせてしまう。

 対して、結花さんとしては、口にするのに勇気が必要で、しかも恥ずかしかったらしく、みるみる顔が赤くなっていくのが目に入った。

 視線を落とし顔を真っ赤にしてプルプルし始めてしまった結花さんの姿に、これはいけないと私は慌てて口を開く。

「も、もちろん、結花さんのも作るよ、舞花さんと違うヤツ!」

「ほんとう?」

 縋るような結花さんの目線に、私は「もちろん」と何度も頷いて見せた。

 普段見せない表情を見せられてしまうと、もの凄く心がざわつく。

 ただ、私の言葉で安心してくれたのか、結花さんは「ありがとう……お、おやすみなさい」と恥ずかしそうに言ってから踵を返して、お風呂場を出て行った。

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