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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第玖章 驚愕開発
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玖之肆拾伍 証明

「むー、二人だけぇ、わかってるみたいでぇ、ずるい~」

 頬を膨らませた那美さんに、私は慌てて「ちゃんと説明しますから」と告げた。

 その上で、志緒さんとの考えのすりあわせも兼ねて、言わんとしていたことを予測して言葉にする。

「要するに『動いて』ってオーダーしても、普通、言われた側はどう動いたら良いかはわからないって事ですよ」

「え? どうしてぇ?」

「単純に『動いて』ってオーダーだと、志緒さんが例に出したみたいに右手を挙げて欲しいのか、ジャンプして欲しいのか、それともくるりと回って欲しいのかは、わからないですよね?」

 私の言葉に何度か頷きながら、那美さんは「そうかぁ、そうねぇ」と繰り返し頷いた。

 那美さんの反応は普通に考えると奇妙だけど、なんとなく考えていることがわかる彼女からすると、説明を省いた言葉だと意図が伝わらないということが頭から抜けてしまっていたんだと思う。

「言葉が足りないと要望は伝わらない……特に『リンリン』達は機械なので、細かいオーダーがないと動作出来ないんですよ」

「うん」

 頷いた那美さんに頷きを返して私は更に言葉を続けた。

「だから、クロロンに動いて欲しいなら、どういう動きをさせたいか細かく言わないといけない……右の前足を上げて欲しいとか、何歩構えに進んで欲しいとか、ですね」

 那美さんはそこまではわかったというように、コクリと頷く。

「でも、那美さんの『動いて』ってオーダーだけで、クロロンは猫っぽく動いたんですよね?」

 私の言葉に那美さんはポンと手を打った。

「そうかぁ、猫っぽく動いて欲しいって言ってないのにぃ、私の『動いて』っていうお願いだけで動いたことがぁ不思議って事なのねぇ」

 一度那美さんの言葉に頷いてから、私は「那美さんのイメージが伝わってたから『リンリン』はクロロンを動かせたんじゃないかって思うんです」と推測を口にする。

 そんな私の言葉に、那美さんは「なるほどぉ」と頷いた。

「で、これは、那美さんの考えていたことを『リンリン』が読み取った証明になるんじゃないかと思うんですけど……」

 私がそう切り出すと、那美さんではなく志緒さんが「イメージを読み取った証明ですか?」と食いついてくる。

 あまりの勢いに「う、うん」と少し気圧されてしまったものの、私は「こほん」と咳払いをして仕切り直した。

「那美さんの『リンリン』も、志緒さんの『シャー君』もそうだけど『動いて』というオーダーに対して、思った通りに動かせたんですよね?」

「うん」

「そうねぇ」

 私は二人の頷きを確認した上で「那美さんは猫っぽく、志緒さんは家族っぽくって思ってたので、その通り動いたって事ですよね」と更に確認を入れる。

「うん」

「そうねぇ」

 改めて二人の肯定を確認したところで、私はまず那美さんに「猫らしさって前足で顔を掻く仕草だったり、お尻を上げてシャーって威嚇する姿だったり、いろいろあると思うんですよ」と言った。

「確かに、そうねぇ」

「で、家族団らんも、家族でターブルを囲んでお茶をする団らんもあれば、ソファに座って話しをする団らんもありますよね?」

 志緒さんに視線を向けながらそう尋ねる。

 すると、私の言わんとすることに気付いたらしい志緒さんが「あーそっか、違和感がないから……だね?」と口にした。

 お互いの考えが一致したと察し合って頷き合った私と志緒さんに対して、目を細めた那美さんが「ん?」と声を漏らす。

 別に那美さんを仲間はずれにしたいワケじゃないので慌てて言葉を付け足した。

「動いてって言葉もそうなんですけど、猫っぽい動きも、人によってイメージが違うんですよ。でも、クロロンの動きを見た時に那美さんは違和感を感じなかったですよね?」

「それって、考えてたイメージと一緒だから、なっちゃんは違和感を覚えなかったんじゃないかって事」

 志緒さんと私の言葉で納得してくれた那美さんは「なるほどねぇ」と溜め息交じりに頷く。

 私はそこで「違和感がないって事はオーダーした人のイメージ通りなんだから、オーダーした人のイメージを読み取ってるって事の証明になるよね」と念押しした。


 ぬいぐるみの動きを私のイメージと言われたせいで、それを払拭するためについムキになってしまったが、冷静になった今、元々の議題を思い出した。

「ところで、睡眠学習の話……だったよね」

 私の発言に一瞬動きを止めた志緒さんは「そ、そういえば、そうだったかも……」と視線を逸らす。

 一方で那美さんは「『リンリン』の凄さとぉ、クロロンの可愛さをぉ知って欲しかったからぁ、仕方ないわぁ!」と言い切った。

 すると、志緒さんが「確かに、私も『シャー君』スゴイって自慢したい!」と言い出す。

「そ、そうだね」

 勢いに押されて曖昧に頷いた私に、志緒さんは「でも、やっぱり一番スゴイのはこの子達を出してくれたリンちゃんだよね」と矛先を変えてきた。

「そうねぇ。流石リンちゃんねぇ」

 那美さんまで乗ってきたので、私は慌てて話を切り替えることにする。

「まって、先に睡眠学習についての考察に戻ろう。お夕飯になっちゃうから!」

 私の提案に、那美さんと志緒さんは「「えーー」」と声を揃えた。

「えーじゃないの!」

 不満そうな二人に、私がそう切り替えして、時が止まったかのように静寂が訪れる。

 その後、新木に耐えられなくなった私たちは誰からとも噴き出して笑い声を上げることになった。

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