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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第玖章 驚愕開発
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玖之弐拾捌 もう一つ

 微笑ましい二人の様子に、すっかり忘れかけていたけど、私はまたとんでもないものを出現させてしまったかも知れないという事実を急に思い出したのは、少し動かした視線の先に『シャー君』がいたからだ。

 そもそも光量調整どころか、リモコン機能のない照明の明るさやON/OFFをできるのは、流石に無茶苦茶だと思う。

「ひょっとしてだけど……『シャー君』ってスゴイ?」

 私の質問に、こちらを見たしお産が真顔で「スゴイっていうより、ヤバイ……かも」と言い切った。

「だって、本来は出来ない事を、お願いしてもできちゃうんだよ? どこまで出来るかによっては……」

 志緒さんの言葉で、背中がゾゾゾと寒くなる。

「と、とりあえず、つき……雪子学校長に報告した方が良いよね?」

 まず最初に月子先生と名前を挙げようとした時、那美さんの目が細まったのを見て、私は慌てて雪子学校長に切り替えた。

 それが功を奏してだろう、那美さんは表情を緩めて「確かに、これは相談した方が良いかもぉ」と同調してくれる。

 対して、志緒さんは」「う~~~」と唸りだした。

「志緒さん」

 唸っているのは同意したい気持ちと、このまま私たちだけで研究をしたい気持ちがせめぎ合っているんだろうと予測した私は「最初に決めたとおり、レコーダーの研究だけにしておこう? 二つも研究するのは大変だし、難しいと思うよ」と告げる。

 対して、志緒さんは少し唸った後で、困り顔で「確かに、最初に決めたのはレコーダーの研究だもんね」と溜め息を吐き出した。


 一応、納得はしてくれたものの『シャー君』を手放さないといけないことに、志緒さんはもの凄く抵抗があるようだった。

 あの喜びようと興奮ぶりを見てしまっているせいで、罪悪感がもの凄い。

 ほんのわずかな間に大量生産された志緒さんの溜め息に『やっぱり私たちだけで研究しよう』という言葉を口にしそうになって、両手で口を押さえた。

 そんな私と志緒さんを順番に見た那美さんは「困ったわねぇ」と眉をハの字にする。

 でもその後に続けられた「シャー君、もっと一杯あったらよかったのにねぇ」と言う言葉に、私は衝撃を受けた。

「そうだ、そうだよ! もう一個出せばいいんだよ!」

 私の発言に、志緒さんの顔がもの凄い勢いでこちらを向く。

「もしも複数あれば、複数の場所で研究できるよね?」

「そ、そ、そ、そ、そ、そうだね!!」

 ブンブンと上下に頭を動かしながら志緒さんは目を輝かせた。

 そのタイミングで、那美さんが「もう一個出せるのぉ?」と尋ねてくる。

「出せる感じはするけど……」

 自分の感覚を確かめるように手を開いたり閉じたりしながら、出来るかどうか考えてみた。

 基本的に、出現させられたということは、同じものが出せないわけがない。

 はず……なのだが、月子先生に指摘された『知ってしまうと機能が再現できなくなる』という言葉が急に頭に浮かんできた。

 それよりも、これが、同じものが作れるだろうと考えたタイミングで頭に浮かんできたのは『再現が出来ない』と、私自身の能力が訴えているように感じられる。

 もしもそうだとすると『もう一個』は、出せなくなってしまったかもしれない可能性が出てきた。

 その事を志緒さんに伝えるかどうか、私は少し悩んでしまう。

 今、もの凄く嬉しそうにしている志緒さんに、すぐに出来ないかも知れないと伝えるのは忍びなかった。

 一方で、ちゃんと伝えずに、上手く『もう一個』出現させることが出来なかったら、よりがっかりさせてしまうかも知れない。

 どちらが正解なのか考えた時、ちゃんと言葉にして、真摯であった方が良いだろうと私の気持ちは思いの外あっさりと定まった。


「志緒さん、あの、期待させてからいうことじゃないかも知れないんですけど……」

 言い難いと思いながら話し始めたせいか、後半にいく程声が小さくなってしまった。

 そんな私に視線を向けた志緒さんは「うん」と口にして、聞く体制をとってくれる。

 申し訳ない気持ちを抱きながら、私は「最初に出した『シャー君』と同じものは出せないかも知れない、の」とどうにか言い切ることに成功した。

 が、そのまま志緒さんの返しがどんなものになるか、顔を見たまま待つことが出来ずに、私は視線を落としてしまう。

 そんな私の耳に届いた志緒さんの声は予想に反して、明るいものだった。

「それって、二人の『シャー君』の違いを検証できるって事!?」

 思いがけない志緒さんの解釈に「え……」と声が出る。

「スゴイよ、リンちゃん、ワクワクするね!」

「え、う……うん」

 志緒さんの勢いに押される形で、私は頷いてしまった。

「だよねぇ~。どう違うのか調べるのワクワクするね!」

 屈託のない顔でそういわれて、私は気持ちが一気に軽くなったのを感じる。

 同じものを出現させられないかもしれないことに対して、こんな返しをされるとは思っていなかったのもあって、私は気付くと頭に浮かんだ言葉を、そのまま声に出してしまっていた。

「……志緒さんの方がスゴイと思う」

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