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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第玖章 驚愕開発
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玖之玖 内心

「た、確かに、それなら夢は鮮明になら無いかも知れないけど……その、いいの?」

 少し慌ててしまったせいで言葉が突っかかってしまったけど、どうにか志緒さんに質問しきることは出来た。

 だが、志緒さんは私の問い掛けの意図が伝わらなかったらしく、可愛らしく小首を傾げる。

「えーーと、その、確かに志緒さん自身が夢の映像を見なければ、志緒さんの中では鮮明化はしなくなるかも知れないけど……」

 自分の意図したことが伝わってると思ったのか、志緒さんは明るめの表情で「うん」と相槌を打った。

「那美さんはともかく、私にも夢の中身を見られちゃうんだよ?」

「うん」

 さっきと代わらぬ相槌の後、志緒さんは続きを求めるように私を見続けている。

 そんな真っ直ぐな志緒さんの目に、私の方が動揺して「えっと……」と言葉に詰まってしまった。

「なに?」

「嫌じゃないのかな……と、思って」

 少し言いにくかったけどもどうにか口にした私の言葉に対して、志緒さんははっきりと「嫌じゃないよ」と言い切る。

「へ、変な夢だったりするかも知れないよ?」

 私の言葉に、志緒さんは「あー」といってから上目遣いで「その時は、()()()ナイショにしてね」と思いもしない言葉を返してきた。

 完全に思考が追いつかなくなってしまった私は、結果的に瞬きを繰り返すだけになってしまう。

 そんな私を見て志緒さんはクスクスと笑いながら「だって、もしかしたら、皆の助けになるかも知れないんだよ? 役に立つの、嬉しいから」とそこで区切ってから、私と那美さんを順番に見た。

「誰にでも見せたくはないけど、なっちゃんとリンちゃんなら、私は見せても良いしね」

 屈託のない笑顔と共に放たれた志緒さんの言葉が胸に突き刺さる。

 京一(かこ)について黙っていることの罪悪感が重くのしかかってきた。

 そのせいだろう。

 私は必要もない余計な言葉を口にしてしまった。

「でも、夢は自分の無意識が現れるっていうし……志緒さんの秘密が……隠しておきたいことが夢に出てくるかも知れないでしょう?」

 多分、それは、志緒さんが夢を見せるのを自分から仕向けるように、私の無意識が放った言葉なんだと思う。

 そんな真っ黒で嫌悪感を覚える私自身の言葉に、志緒さんは「うん。だから私にはナイショにしてね」と言い放った。

「え?」

「だって、二人なら言いふらしたりしないし、きっと、それで私を嫌いになったりしないと思うから」

 志緒さんはそう言って微笑みながら真っ直ぐな目を私と那美さんに向ける。

「もちろんよぉ」

 那美さんはすぐに志緒さんに向かって大きく頷いた。

 私もそうするべきだと思うし、頷いて志緒さんを安心させたいと思う。

 けど、自分をさらけ出してでも皆のためにと考えている志緒さんが眩しすぎて、体を動かすことが出来なかった。


「リンちゃん!?」

 志緒さんの驚いた声で、私は我に返った。

 瞬間、視界がぐちゃぐちゃに歪んでることに気付く。

 更に感じた頬を伝う温かな液体の存在が、自分が泣いているのだと気付かせてくれた。

「大丈夫、リンちゃん!?」

 歪んだ視界の仲で那美さんが立ち上がりこちらに近づいてくるが、涙のせいで表情が見えない。

「ど、どうしたの、私何か嫌なこと言ったかな?」

 志緒さんも声を震わせながら立ち上がってこちらに近づいてきていた。

 二人の気遣いが温かくて嬉しくて、その分、胸が締め付けられて、ツンと鼻が痛くなる。

 左右からギュッと抱きしめられ、二人の温もりを感じられたところで、ようやく、私は口を開くことが出来た。

「ごっごべん……ばざいっ」

 上手く言葉になら無い『ごめんなさい』が恥ずかしい。

「いいよいいよ、大丈夫だよぉ」

「リンちゃん、慌てなくて良いからね」

 左右から優しい声で囁かれて、私の目には更なる洪水が起きた。

 それを止める事も出来ず、大粒の滴となった涙が頬を伝っていく。

 ただただ恥ずかしくて情けない自分を、優しく慰めて包み込んでくれる二人が、嬉しくて少し辛かった。


「ゴメンなさい……泣き出したりして……」

 私の謝罪に、那美さんはいつもの口調で「いいよぉ、気にしないでぇ~~そういう日もあるわぁ」と笑ってくれた。

 一方、志緒さんは「本当に大丈夫? 私変なこと言っちゃったかな」と心配そうな顔で私を見てくれている。

 私は、そんな二人を前に、大きく息を吸い込んだ。

 そして、吐き出す。

 ただの深呼吸だけど、それだけで少し気持ちが軽くなった。

 少なくとも、今の涙の説明くらいは出来ると思う……いや……思いたかったが正しいかも知れない。

 実に滑稽な話だとは思うけど、自分には出来るという思い込みでもなければ、一歩踏み込める気がしなかった。

 そんな臆病者の自分を自覚し、更に、言葉を選ぼうとしていることが、自己嫌悪を強める。

 言い出したいのに言い出せないそんな心の迷いを吹っ切るために私はもう一度深く深呼吸をした。

 それから、順番に志緒さんと那美さんの目を見て覚悟を決める。

「えっと、私が泣いたのは……自分が情けなかったから……だと思います」

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