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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第玖章 驚愕開発
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玖之陸 回答

 目での情報収集を、私は続けていた。

 布団の乱れ具合も参考になるかとは思ったが、それぞれ綺麗に畳まれているので、そこから推測は難しいと思う。

 いや、仮にベッドの綺麗さに差があって間違った場合、大変なことになりそうなので、ここは同じように整っていてよかったと思うことにした。

 とはいえ、そこからは情報が得られないと言うことなので、観察をそこで辞めることにする。

 確かに今は女性なワケだが、元とはいえ成人男がマジマジとベッドを観察しているというのは、私的にも、社会的にもアウトだ。

 というわけで、腕組みをして目を閉じる。

 もうベッドを見ていませんよと言うアピールも兼ねた思考を巡らせるためのポーズだ。

 ヒントは、それぞれの寝具の色とぬいぐるみの二つ、これから答えを導き出さないといけない。

 猫のぬいぐるみの組み合わせがピンクの寝具で、ウサギの方が水色、どっちがどっちを好きかという情報はないけど、何故か自然と『神格姿』の事が思い浮かんだ。

 那美さんは魔女、志緒さんは猫娘、単純に猫繋がりで結論でも良い気がする。

 でも、それを答えようと瞬間、私の中の内なる声がそれでいいのかと、訴えかけてきた。

 完全に月子先生の言葉に操縦されてしまっている気がするし、認めたくはないけれど『女の勘』というヤツかも知れないと思うと、安易に踏み込むのに躊躇いが生まれる。

 勘が間違っていて、猫とピンクが志緒さんが正解なら『女の勘』なんて、私にはなかったということになるけど、反対なら可能性が残ることになるのだ。

 なので、一応吟味した上で答えようと思い直す。

 そうして改めて思い返してみると、ぬいぐるみの猫は黒、黒猫なのに対して、猫又な志緒さんの耳や尻尾は白だった。

 完全に白と黒で、反対の色をしていることが、違和感の原因になっていたのだろうと思う。

 だが、疑問を持ったことが切っ掛けで、頭の中に『黒猫と魔女』というとてもしっくりくる組み合わせが浮かんできた。

 頭の中で天秤の傾きが水平に戻り掛けたところで、一つの事実に気付く。

 ウサギのぬいぐるみは、市販されている手の平に乗るサイズのものなので、洋服を着ていた。

 元々、服を着た状態で売り出されている商品の筈だけど、ベッドに置かれているものは、服が手作りに見えたのである。

 直後、皆で『ミルキィ・ウィッチ』を課題にした時も、衣装を作る難しさを訴え、代案として制服作りを提唱した志緒さんが、服を創ることに興味があって、いろいろやっていると話していた事を思い出した。

 黒猫が、魔女と猫又、どっちにふさわしいかを考えるよりも自信を持てる根拠に思える。

 そう考えた瞬間、私の中の天秤の傾きが決まった。


「猫が置いてある方が那美さんで、ウサギの方が志緒さんかな」

 私の回答に、志緒さんが間を置かず「な、なんで?」と尋ねてきた。

 少し動揺しているようにも思える反応に、内心で間違ったかも知れないと失敗を感じつつも、真面目に考えたことが伝わるように、結論を出した理由を伝えることにする。

「えーと、まず黒猫のぬいぐるみで、魔女の那美さんと猫又の志緒さん、どっちのかなやんだんですけど、ウサギの着てる服が、手作りに思えたから、服を創ることに興味がある志緒さんかなと思って」

 言い終えると、志緒さんは目を丸くして呆然としていた。

 どういう反応だろうと、槌瞬きが多くなってしまう。

 そんなよくわからない見つめ合いを破ったのは那美さんだった。

 パチパチと軽やかな拍手をしながら「リンちゃん、大正解!」と微笑む。

「え、正解!? 正解だったの?」

 失敗を感じていただけに、那美さんの言葉が信じられなかった。

 那美さんは「そうよぉ」と頷いてから、軽い足取りで志緒さんの後ろに回り込んで、トンとその肩を叩く。

 それで我に返ったのか、志緒さんは「あっ」と声を漏らした。

 直後、志緒さんがグンとたった一歩で私の顔の目前まで顔を近づけてくる。

「え、志緒さん!?」

 呼びかけても反応せず、志緒さんは私の手を取ってじっとこちらを見詰めていた。

「し、志緒さん?」

 もう一度私が呼びかけると、志緒さんは「嬉しい」と呟く。

「嬉しい?」

 頭の中では『何が?』が大量産されていたが、それ以上は言葉を発さないで、志緒さんの反応を待った。

 なぜなら、私の手を握る志緒さんが小刻みに震えていて、何か刺激一つで爆発しそうな気配が漂っていたのである。

 そこで私は志緒さんの感情が穏やかになるまで待つことを選んだ。


「ご、ごめんね、リンちゃん、なっちゃん」

「ぜんぜん~」

「き、気にしないで」

 我に返った志緒さんの謝罪に対して、那美さんは飄々と、私は少し緊張しながらも問題ないことを伝えた。

 どのくらい掛かったかは私も把握し切れてはいないけど、そんなに長い時間でも無い。

「あのね、リンちゃんが、私が創ったウサギさんの洋服に気付いてくれて、すっごく嬉しくてね!」

「そっか」

 志緒さんの言葉に頷きながら、私の言葉でこんなにも喜んでくれたということが、少しくすぐったくて、同時に嬉しかった。

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