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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之拾玖 脳内論争

 月子教授の言葉に地味な精神ダメージを受けた私を他所に、当の本人は、訓練室の備え付けられているロッカーからA4サイズのタブレットを持ち出してきた。

 ストンと軽いジャンプを挟んで椅子に座る仕草は、普通に可愛らしい。

 舞花さん達の自然な可愛さを上回る計算された所作だろうとは思うのだけど、どうにも自然に見えるところが恐ろしかった。

「どうした?」

 付属のタブレット用のペンを取り出して、クルクルと指で回しながら、鼻歌交じりに起動を待つ月子教授は、こちらに視線を向けることなく尋ねてくる。

 視線が向いてなかったこともあって、私は気付いた時には、ほぼ無意識に思ったままを口にしていた。

「いえ、ジャンプして座ったりとか、鼻歌交じりでペンを回したりとか、いちいち可愛いなと思いまして……不自然さなく、素の行動のように(こな)してるのが凄いなと思いました」

 すると、言い切った私の視線の先で、月子教授はペンを落としそうになって、それを空中で受け止めようとして、謎のジャグリング状態に突入し始める。

 数瞬の格闘の後、ペンをしっかりと握りしめた月子教授は、何事もなかったかのように元の姿勢へと戻り、起動したタブレットに視線を落とした。

 冷静に、この動揺ぶりから推察すれば、実はあの可愛らしい所作は素で、思わず照れたという可能性が浮かぶ。

 だとするともの凄く可愛いと思ってしまった。

 何も考えず抱きしめたくなる衝動に、少し花子さんの過度なスキンシップの理由が理解できてしまう。

 そんなことを考えていた制尾でアクションを起こさない私を、月子教授は顔を動かさずに、チラチラと目だけを行き来させることで様子を覗っていた。

 今の小さな容姿でこの動作は実に小動物的で、心をくすぐられる。

 衝動に任せるなら、花子さんのようにここで飛びついてしまったかも知れないが、私の中では、アレは天然か、演技かという論争が巻き起こっていたお陰で、沈黙を保つことが出来た。

 何しろ、天然なら月子教授可愛いで終わる話でも、演技なら誘われている可能性がある。

 一応、大学を卒業して、バイトとは言えた章は社会経験を積んだ私の中には『社会的な死』に対するそれなりの』恐れが染みついているのだ。

 それに、今は少女だからという自分に都合の良い解釈で、行動を正当化するのも、私の正義に反する。

 というわけで、私は頭の中で、月子教授の行動が天然なのか演技なのか、答えのでないであろう議題で論争を巻き起こすことで、この場を乗り切った。


 インターバルを置いたことで、お互い相手がアクションを起こさないと確認し合えた私たちは、改めて検証の席に着くこととなった。

 まず、タブレットにペンで書き込みをしながら、月子教授が検証をスタートさせる。

「最初に確認しておきたいのは、自分に関わる人間以外への変化は初めてだということで良いかな?」

「そうだね……あ、ですね」

 槌、相手が月子教授だと言うことを忘れて返してしまったので、言い直すと「話し方は気にしなくて良いよ。議論に集中しよう」と返された。

 異論はないし、確かに言い直しで議論を止めるのは多億作ではないので「わかりました」と同意して、以後は考えないことに決める。

 月子教授も私の返しに頷いてから、改めて「初めてということだよね?」と尋ねてきた。

 それに私が「はい」と頷くと、月子教授は「分身を変身させるのではなく、今、君自身が私に化けることは出来るかい?」と尋ねてくる。

 直後、慌てたように「あ、この身体の方に」と付け加えてきた。

 私としては分身が変化できたのなら、私自身も出来そうな感覚があるので「試してみても良いですか?」と尋ねる。

「ふむ……出来ないという感覚はない……感じかな?」

 月子教授の質問に何度か頷きつつ「確かにそういう感覚かも知れません……できそう、というか、出来るだろうなって感じです……あ、もちろん試したことはないですけど」と感じたままを伝えた。

 すると、月子教授は「君の性格なら、私に変化してこの姿になっていたら、なんで雪姉になったんだろうと相談していそうだからね……まあ、変化してはいないだろうね」と笑う。

 誤解されてそうな気がして、慌てて「ほ、他の人にも変化してませんよ!?」と口にすると、月子教授は見事に私の想像を裏切ってきた。

「私が最初なんてとっても嬉しいな。凛花ちゃん」

 屈託のない笑顔でそう言われた瞬間、胸が高鳴ったのがわかる。

 瞬間、私の防衛本能が、脳内論争を開始し始めた。

 この月子教授は演技なのか天然なのか、それについて考えることで、思わずしてしまった硬直も解けてくる。

「い……コホンッ……一度、試してみますね」

 かなり声が割れていたので、咳払いをして声と気持ちを整えてから、変化を試すことを伝えた。

「そうだね。出来るかをまずは確認したい」

 先ほどの笑顔から真面目な顔に切り替えた月子教授に頷かれた瞬間、なんだか少し残念な気分になる。

 が、やるべきことは明確なので、その事について深掘りするのは辞めて、早速変化してみることにした。

「それじゃあ、やってみますね!」

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