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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之拾捌 乙女心

「しかたなく、しかたなくですからね……」

「ありがとう、とっても癒されるよ」

 結局抗いきれず月子教授と再び抱き合うことになってしまった私は、言葉の上では不承不承という体を取っていた。

 だが、本当に穏やかな顔で私に身を任している月子教授を見ていると、頭を撫でたくなってくる。

 月子教授に花観さん並みに心を読む能力がありそうなので、そんな思考も全て筒抜けなんじゃないかと思うと、気持ちがソワソワして仕方がなかった。

 そんな私の心を射貫くように、パチリと閉じていた目を片目だけ開けた月子教授が「撫でてくれてもいいんだよ、頭」と甘えるような声を発する。

 思わず従いそうになる気持ちを無理矢理押しとどめて「な、なでません!」と断言した。

 対して、月子教授はクスリと笑ってから「母性本能をくすぐられているのに、耐えるねぇ」と言放つ。

 その言葉に私は慌てて月子教授を引き剥がしながら「母性本能!?」と裏返った声で叫んでしまった。

「そうだよ、君の見た目は完全に女の子だし、恐らく、脳や内臓に骨格も、全て完璧に女の子だろうからねぇ……そりゃあ機能的にも母性本能が強まるというものだよ」

 引き離そうとしている私に対して、月子教授は抱きしめる力を強めた上でぐりぐりと身体を触れ合わせてくる。

 そうなると、普段は意識しないようにしている平坦とは言えない胸の膨らみが刺激されることになって、当然の如く意識せざるを得なくなってしまった。

 何で鎌ではわからないものの『このままではいけない』という本能の叫びに従って、私は「ちょ、ちょっと、月子教授!?」と制止を掛ける。

 すると、月子教授は思いの外あっさりと私を解放して身体を離してしまった。

「は、い?」

 訳がわからず首を傾げた私に、月子教授は「もっと、月子を味わいたかった?」と首を傾げてくる。

「そ、そんなわけないじゃないですかっ!!」

「え~~悲しいなぁ」

「あっ……う、いや、いまのは、その、ちがうっていうか……」

 あまりに悲しげに言う月子教授の反応に、私はフォローの言葉を掛けようとするものの、上手く言葉に出来なかった。

 そんな私に向かって「知ってるよ、凛花ちゃん」と月子教授は何でもない顔で笑ってみせる。

 揶揄われていることへの怒りと、悲しんで傷ついていなかったことへの安堵で、私は指をイソギンチャクのように一人ワキワキさせるしかなかった。

 そんな私に月子教授が「もうしわけない」と深々と頭を下げる。

「君の反応があまりにも心地よくて、(はしゃ)ぎ過ぎた……でも、君が悪いんだよ? その……私の本当の姿を暴き出したりするから……」

 言葉の終わりに近づく程、声が小さくなり、言い終わりと同時に目を逸らした月子教授の仕草がもの凄く可愛かった。

 しかし、ここで頭を撫でに言っては、これまで耐え忍んできた自分に申し訳が立たないので、気合で踏み止まる。

 が、今回は揶揄う意図はなかったのか、月子教授は少し残念そうな顔を見せてこちらに背を向けてしまった。

 その背中を見た瞬間、頭の中に『京一くんは乙女心がわからない』と過去に言われた言葉が自動再生される。

 タイミングも状況もバッチリの、過去からの刺客に私はその場に崩れ落ちそうになった。


「さて、君の分身の変化についての考察なのだが……いいかね?」

 私の反応が乏しいことを気にしてか、月子教授は眉を寄せてこちらを向きながら首を傾げた。

「す……すすめてください」

「了解っ」

 ニッと口を横に引いて言放つ月子教授は子供らしい可愛らしさを余すことなく披露して見える。

 そんな私の視線から、いつもの如く思考を読んだのであろう月子教授は「君も学ぶと良いよ。可愛らしいと思わせることで大概のことはごまかせる」と言放った。

「……とても、聞きたくない裏事情を聞かされた気分です」

「利用できるものは最大限利用してこそだし……役立つのに、気持ちが向かないと言うだけで使わないのはナンセンスだよ。現に今、私に対する怒りなんてほぼなくなってしまっているだろう?」

「……確かにないですけど……」

「実に効果的且つ実用的じゃないか」

「そ、そう……ですね」

 月子教授の考えを否定するつもりはないし、確かに実用的と言われればその通りと思う部分もあるが、受け止めるには引っかかるモノがあって、どうにも疲労感を覚えてしまう。

 それが、大きな溜め息として口からこぼれ落ちた。

 すると、月子教授は「あー、そうそう」と私から視線を外しながら人差し指を立てて振ってみせる。

 思わず好奇心で視線を向けると、月子教授はニッと悪戯っぽい笑みを浮かべて「今私が言ってる黒い裏側は見せてはダメだよ。黒い本性が見えると効果はないからね」と言放った。

 私はそんな月子教授の言葉に対して「いま、まさに、実感しています」と返す。

「はっはっはっはっ」

 大きく口を開いて笑い声を発した後で、改めて私を見た月子教授は「切り返しが最高に私好みだよ、凛花ちゃん」と今度は薄く笑みを浮かべた。

 声、会話内容、スキンシップ、表情、あらゆるものに緩急を付けてくる月子教授に苦笑を返しつつ、私は「光栄です」と返す。

 月子教授はそれを笑顔で受け止めた後で、更に笑みを深めて「まあ、かなり鈍いのは改善して欲しいけどね」と言放った。

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