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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之拾伍 混乱

「何をしてるんですかっ!!!」

 ようやく頭が回り出したことで、慌てて距離を取った私は、気付くと大声で怒鳴っていた。

 顔どころか、全身から火が吹き出そうな程、体が熱い。

 恥ずかしさなのか、怒りなのか、自分でもよくわからない感情に押されて、抗議の声を上げ続けようかというタイミングで、冷静な月子教授の声が響いた。

「この身体の活用方法を教授しようかと思ってね……じゃないな」

 ジャな否という否定の言葉が口にされたところで、冗談を止めてくれるのだと思ったのだが、それは甘い考えだったらしい。

「私の可愛さを伝えるためにどうしたら良いか、実演したの! ね、私可愛いでしょう?」

 片手を広げたり握ったりしながら、口元を隠したり一瞬たりとも止まることなく可愛い声で話し続け、合間合間にこちらの反応を覗うような上目遣いが放たれ、視線が向く度に私の体温は上昇を繰り返した。

 高熱になった時のようなふわふわと体が浮いてるような実感が薄れていく感覚のせいで、ふらつき掛けた私は、状況を脱したい一心で、分身に力を向ける。

「ん? 凛花は凛花になにをする気かな?」

 好奇心が上乗せされてキラキラが増したように見える上目遣いに、ゴリゴリと精神が削られたものの、負けない気持ちで分身に変われと念を送った。

 そんな私の思いを叶えるように、月子教授の操る分身の全身が光に包まれる。

「なるほど、これが身体が変化する感覚か!」

 精神を乗り移らせたままの変化が、月子教授に悪影響を及ぼすかも知れないと思っていたが、声を聞く限りは楽しそうだ。

「ありがとう。こんな経験はなかなか出来ないよ!」

 うん、喜んでくれてるみたいだ、早く終わらせてしまおう。

 私はそう考えて、分身の変化を加速させた。


「えっ!?」

 分身が纏っていた火狩りが中日って消え、そこから現れた姿に私は言葉を失った。

 なぜなら、私の想像していた姿と現れた姿が誓っていたのである。

 一方、光が収まったことで、分身を操る月子教授は早速身体の確認を始めた。

 身につけている衣装は、小学校の制服のままなので、月子教授は「あまり変化は……ないね」と言いながら、大胆にスカートをまくり上げて中を確認し始める。

「ちょっ! ダメです! その姿は雪子学校長みたいなんです!」

 私の分身は何故かその姿を雪子学校長に変えていた。

 それも大人のではなく、普段の小学生然とした姿の方にである。

 制服姿の雪子学校長となった月子教授は私の声にスカートから手を離し「ん? 雪姉?」と首を傾げた。

 その所作は、さっきまでの私の身体を操っていた時のように、細かく手や腕が動き回るので、小動物を観ているような可愛らしさを感じる。

 自分の姿でないとこんなに冷静に見れるのかと思う私に向かって、月子教授は「ごめんね。視界を借りるね?」と雪子学校長からは聞いたこともないような可愛い口調で伝えてきた。

「視界?」

 意味がわからず瞬きをする間に、つかつかと自分の元の身体に近づいた雪子学校長姿の月子教授は胸元からスマホを取り出して、手早く操作を始める。

 ややあって、月子教授は「あ、ちょっと、こちらを見てくれるかな、凛花ちゃん」と声を掛けられた。

「え、あ、はい……?」

 普段聞き慣れた雪子学校長とは違う言い方に戸惑いながらも、指示に従って視線を向ける。

 そこからまた少し間を開けてから、月子教授は「凛花ちゃん、雪姉になれって思って変身させたの?」と質問をしてきた。

 私はこれに対して「違いますよ! 月子教授の姿に変えようと思ったんです!」と目標と違ったことを伝える。

 すると、月子教授は「何があっても、私から視線を外さないでくれ」と可愛い仕草も口調も辞めて、普段の口調で告げてきた。

 その変化に何かあるんだと察して「わかりました」と応えると、雪子学校長姿の月子教授は両肩に掛かるスカートの吊り紐を外す。

 さらに、スカートのホックに手を掛けて、ためらいなくスカートを脱ぎ捨てた。

 いくら姉妹とはいえ、あまりにも大胆な行動に「月子教授!?」と思わず止めに入りそうになった私を、月子教授の鋭い声が制する。

「私の左半身を見ていてくれ!」

 具体的な言葉に動きを止めた私は、その言葉のままに左半身へ意識を向けた。

 手早くブラウスのボタンが外された後で、インナーが上へと捲られ、私は白い肌の上に目を背けたくなるような赤くただれた火傷の跡を目にする。

「それ……」

 思わず声が震えた。

 それほどに痛々しく見える火傷の跡に直接触れながら、月子教授は私を見詰めてはっきりと言い切る。

「これは雪姉の身体じゃない……私の、緋馬織月子の身体だ」

 月子教授の言葉に、私は「え? は? え?」とまともな言葉を発することが出来なくなってしまった。

 肌や火傷を見せられて混乱したのもあるが、一番戸惑ったのは雪子学校長の身体ではなく、月子教授の身体だという宣言である。

 つまり、言葉通りなら、私は月子教授の姿にしてやろうと思い、その通りに分身は変化したということで、その事が肌に痛々しく刻まれた火傷痕で示されたということだ。

 けど、私は月子教授を小学生の姿にしてやろうとは思っていないし、何よりも、月子教授にあんなに大きな火傷跡があることを知らない。

 何がどうして目の前の光景に至ったのかわからず、私は混乱するほかなかった。

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