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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之拾肆 使い方

「なんで、女子を強調するんですか!」

 普通に尋ねたつもりだったのに、思ったよりも声が高くなってしまっていた。

 その事が自分で考えるよりも気にしてしまっていることを証明するようで、もの凄く恥ずかしい。

 そんな私の心情などお構いなしで、月子教授は持論を展開させた。

「単純に与えられたスペックを発揮し切れていないのが、私は残念なんだよ」

「スペックって……」

「君の可愛らしさだね」

「ちょっ」

 まったく想像していなかったわけではないけど、明確に言葉にされてしまうと、大きく動揺してしまう。

 対して、月子教授は「もっと君は女子生徒であると言うことを、少女なのだと言うことを自覚して、可愛い仕草や所作を身に付けるべきだと思うね」と迫ってきた。

「せ、セクハラですよっ!」

 思わず飛び出た言葉に、月子教授は「確かに」と頷いて、簡単に距離を取る。

 あまりにもあっさりとした感情の伴わない反応に、呆気にとられてしまった。

 結果動きを止めることになった私に、月子教授は「花子程ではないが、可愛いものにはより可愛くあって欲しいと思うだけなんだがなぁ。少女が花を咲かすのを推奨したら、嫌がらせと断じられてしまうとは、嫌な時代になったものだね」と言う。

 その姿が妙に切なそうに見えて、思わず「恥ずかしかったから口走っただけで、心からハラスメントと持ったわけじゃないですから」と伝えた。

 対して月子教授は柔らかい笑みを返しただけで何も発しない。

 不意に訪れた沈黙がとても居心地が悪くて、私は無理矢理沈黙を破った。

「と、ともかく、月子教授の言う通り分身を出現させたんです。次の指示をください!」


「それでは今から、私が君の分身に意識を送り込む」

 月子教授の宣言に、私は「そんなことが出来るんですか?」と思わず尋ねてしまった。

 すると、月子教授は「私くらいになるとね、球魂の一つや二つ再現できるのさ」と芝居がかった口ぶりで言い放つ。

「そ、そうなんですね」

 他の人ならともかく、月子教授なら出来るんだろうなと言う気がしてそれ以上ツッコむ気はしなかった。

 むしろ、自身の魂の筈の球魂を複数も出せるのかの方が気になる。

 こういう冗談か、本気の言葉かわからない発言は、非常に気になるのでやめて欲しいところだが、話が進まなくなるので、月子教授の動きを黙って見守ることにした。

 私が大人しく席に座ると、月子教授もまた椅子に座る。

 月子教授と私は隣り合うように椅子に座っており、出現させたばかりの私の姿の分身だけが、こちらを向いた状態で目を閉じて直立していた。

 絵的に不気味かもと思っていると、月子教授が「それでは意識を移すよ」と宣言して目を閉じる。

 それから間もなく月子教授の胸から光る球体が福を擦り抜けるようにして出現した。

 本当に球魂を出せるんだと吃驚しつつも、変に声を掛けて集中を乱してはいけないと思って、私はその動きを追うことだけに集中する。

 ふわっと一瞬で、私や月子教授、さらには分身の上まで浮き上がった球魂は、ピタリと浮上を止めると、今度は一転してゆっくりと下降を始めた。

 分身の後ろ側に回り込んだ月子教授の球魂は、首の付け根辺りに着地し、そのままゆっくりと身体の中に入り込んでいく。

 その光景を見て急に沸き起こった『今、分身の感覚と同期したらどうなるのか』という好奇心を無理矢理押し込めながら、じっと観察を続けていると、静かに分身が目を開いた。

「月子教授?」

 私は早速、分身に声を掛けたものの、返事はない。

 代わりに目を瞬きさせ、首を動かして頭を左右に揺らし、視線を落とした視界の先に両手が入るように調整してから、手を握って開いてを繰り返した。

 分身が自分の意思でいくつかの確認作業をして少し、要約納得したのか両手を降ろして、私に視線を向ける。

「あー、あ~~」

 分身は声の高さを変えながら、多少音程を変えて声を発した。

 それから、私の方へ視線を向けた分身は「すまなかったね。呼びかけは聞こえていたんだが、感覚が掴めなくてね」と言って頭を下げる。

「い、いえ、それよりも、月子教授……ですよね?」

 立ち上がって、反応に意識を向けながら、私は分身にそう尋ねた。

 すると、分身は「これで、球魂で君の分身を操る事が出来ると証明できたね」と微笑む。

 動く分身の姿や映像での自分を観たことはあるけど、直接目にするとより可愛く見えてしまった。

 直後、またも、ナルシストのような思考に至った自分への嫌悪感で肌が粟立つ。

 そんな私を目にして「ふむ」と声を発した月子教授の入り込んだ私の分身は、一歩後ろに下がって私と距離を取った。

 私から離れるリアクションに、私の思考がバレてひかれてしまったのかと思ったのだが、幸か不幸か、そうでは無かったのである。

 突然、ぴょんとジャンプしたかと思ったら、両足を揃えて着地した分身が、人差し指を立てて自らの頬に当てた。

 何が起こっているのか理解できずに固まる私に向かって、バッチリウィンクを決めた分身は「こんばんわぁ~私は卯木凛花10歳! 緋馬織小学校の五年生です!」と私が発したことのないか高めの可愛らしい声で言い放つ。

 トドメに、月子教授の球魂が入り込んだ分身は両目を瞬かせながら下からのぞき込むように顔を近づけて、上目遣いで「仲良くしてね!」と思わず胸がドキッとするような破壊力の高い笑顔を放ってきた。

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