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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之拾壱 実戦への課題

「なるほど」

 確かに月子教授の言う通り、私の分身に入り込む順番を変えれば、危険度が減るということは十分に納得出来る内容だった。

 とはいえ、理想は同時出現に変わりがないので、これも出来るようになっておきたい。

「三つ目の別の容姿のものを出現させられるかについては、出来るかどうかで、対応が変わるね」

「というと?」

 聞き返した私に対して、月子教授は「君の分身には無限の可能性がある……が、現時点で判明しているのは、卯木凛花という小学生の少女の姿、狐耳と尻尾が生えた銀髪の少女の姿、銀狐、それからサイズは違うようだが林田京一、これらが君の変化してきた姿だったね」と確認してきた。

 多少林田京一のサイズについてが引っかかったが、確かに一回り以上小さいのも事実なので、大人しく「はい」と頷く。

「まず、君が他の人物に変身できるかがプランを立てる上で重要になる」

「他の人物……ですか?」

「そう。例えば、君が分身の身体を預けようとしている仲間達の姿だね」

 月子教授にそう言われて、なんとなくその理由に想像が付いた。

「……もしかして、身体の違和感……ですか?」

「そう……とはいっても、体型が近しい舞花さんや結花さんはそれほど問題がないかも知れないが、君より身長の高い。特に東雲くんあたりは、君の身体で戦うのは危険かも知れない」

 月子教授の言葉に、私は「やっぱり、接近戦……格闘技みたいな戦い方だと違和感は見逃せませんよね」と聞き返す。

「手足のリーチの長さ、目の見え方、重心のバランス、筋力、簡単に思い付くだけでも、かなりの要素で不安があるね」

 私は「実戦で使ってもらうのは危険ですね」と残念に思いながらも頷いた。

 遠隔で戦える那美さんや舞花さん、結花さんと違い、肉弾戦で戦っているように見えた志緒さんや武器を使う東雲先輩にはこれらの要素が微妙に狂うだけでも、致命的な隙になりかねない。

 一番使って欲しい東雲先輩や志緒さんに投入できなくても、他の三人の安全を確保できるだけでも間違いなくプラスの筈だ。

 それに、私が二人に合わせて分身を変化させられれば良いだけのことでしかない。

 だとしたら私のすることは一つだ。

「皆の姿で分身を出せるようになって見せます!」

 私の決意を込めた言葉に、月子教授は「気持ちは買うが、まずは課題からだよ」と溜め息をつかれてしまう。

 その上で「君の真っ直ぐなところは気持ちが良いが、もう少し考えてから行動することを心掛けないといけないよ」と付け加えられてしまった。


「まずは狐の分身を二体出現させてみて欲しい」

 月子教授の指示に従って、頷いた私は、両手を前に突き出して、目を閉じた。

 伸ばした腕の先で手はパーの形に広げて、身体を巡るエネルギーがそこから飛び出るイメージを描く。

 目を閉じたことで、身体を巡るエネルギーの流れに敏感になったのか、いつもよりもはっきりと力の流れを感じ取ることが出来た。

 ややあって、広げた手の平の先、左右それぞれの手の前にエネルギーの塊が形成されたのを感じた私は、そのエネルギーに向かう先を示す。

 間もなくタッと軽い物音が続けて二つ聞こえた。

 それを合図に目を開くと、私の左右の手、それぞれの下に出現した二頭の銀狐の姿が見える。

 取り阿須の成功に、ふぅーっと息を吐き出すと、思った以上に緊張していたのか、脱力した身体になかなか力が入らなくなってしまった。


「ふむ。それぞれの狐に別の指示を出して動かせるかを検証してみたいところですが、凛花さんがキャパオーバーしてしまう可能性もあるので、別の検証に移りましょう」

 月子教授の言葉に、私は「キャパオーバーですか?」と首を傾げた。

 すると、月子教授は「パソコンで、複数の処理を同時に行うと速度が落ちたり、フリーズしたりするでしょう?」と尋ねてくる。

 一応経験のある話なので「そういう事もありますね」と頷いた。

 そんな私に「分身の行動が、個体それぞれで独立しているわけではなく、君の脳が一括で処理している場合、別々の行動を狐に命じた結果、同じようなことが起きて、君がキャパオーバーでフリーズしてしまうこともあるかと思ったんだよ」と月子教授は説明してくれる。

「……じゃあ、我慢ですね」

「理解してくれて嬉しいよ」

 月子教授はそう言って笑ったが、ほっとしているように見えて少しむしゃくしゃした。


「次は何をするんですか?」

 狐姿とはいえ、分身に体を同時に出現させられたのは、私の中で大きな自信になった。

 このまま、練習を積めば、実用化間違いなしだろう。

 そう思いながら、待った月子教授の次の課題は、私の期待を裏切るものだった。

「君の今の姿、卯木凛花の分身を一体、出現させてくれるかな?」

「待ってください、狐で二体が出来たんですから、この姿であっても、二体同時に出現させられると思います!」

 それなりの自信を交えて主張に、月子教授は「その感覚があるなら、間違いなく出来るだろうね」と笑顔で頷く。

「だが、次の課題には一体の分身で十分なんだ」

「……そう、ですか」

「そんな不服そうな顔はしないでくれ、可愛い顔が台無しだよ」

 そう言いながら私の頬をつつく月子教授に「やめてください!」と、私は思わず怒鳴ってしまった。

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