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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之玖 助言

 分身の応用方法の考案から、私の特訓は、複数の分身を同時に出現させることへと方向が改められた。

 未だに私の出現させたプロジェクター二は未開の部分が多いので、花子さんはその可能性を模索している。

 一方、雪子学校長はスマホのアプリ習得のために、これまた私が出現させたスマホをいじくり回していた。

 結果的に私の指導を担当することになったのは、見た目は林田京一な月子教授である。

 元々、精神操作系に属する能力に一番長けているのが月子教授なので、消去法で私の担当が決まったのではなく、逆に、私の担当が決まったから、他の二人が別にやることを見つけたという形だ。


「雪姉からの情報も加えて、凛花さんに関わる情報はかなりアップデートしたので、まずは私の口車に乗ってみよう」

 いきなりの切り出しに、私は溜め息交じりに「口車ってなんですか……」と問うた。

「疑いを抱かず、鵜呑みにして励むと、思わぬ効果があるのでは無いかと言うことかな」

 シレッと返された上に、プロジェクターにしてもスマホにしても、深く考えないことで成果を上げている部分が大きいので、ツッコミも入れにくい。

 仕方なく「わかりました」と同意を伝えると、月子教授は大きく頷いた。

「いいね。素直であることは優秀な生徒の大きな要素だよ」

「……常に考え、指導者の予想も裏切ってこそって仰ってませんでしたか?」

 流石に調子が良すぎると思ったので、そう迫ると、月子教授は「君の場合は、考えない方が良いからね」と切り返してくる。

「うぐっ」

 思わず言葉を詰まらせると月子教授は愉快そうに笑って見せた。

「はっはっはっはっ。まだまだだね」

「くぅ~精進します」

「よろしい」

 月子教授はそう言うと私の頭を優しい手つきで撫でる。

「林田先生、髪が乱れます」

 別に嫌ではなかったけど、子供扱いが受け入れられなかったので、そう告げると月子教授はあっさりと手を離した。

「君は整いすぎているから、多少髪が乱れた方が魅力が増すと思うよ」

 不意打ち気味の言葉に「ちょっ」と声がでる。

 そんな私に笑みを見せながら「これはセクハラじゃないよ、()()()()()()()()のアドバイスだ」と月子教授は言い切った。


「まず複数の分身を出現させること、その応用であるスマホやプロジェクターを出現させること、どちらも君は成し遂げている……同時出現させられる数に問題があるが、それは習熟でクリアできるだろう」

 月子教授の現状の確認に頷きで返した。

「問題なのは君が昏倒した件についてだ」

 そう言われて、私は分身を出してすぐの頃に、自分自身を分身の目を通してみた出来事を思い出す。

「あれは脳の矛盾によるモノではないかと、私は推測している」

「……脳の矛盾……ですか?」

 月子教授の発言で、気になった箇所を聞き返した。

「例えが難しいが、例えば君が金属の棒を握るとしよう」

「……はい」

「だが、手から感じたものが、ところてんのような柔らかい感触だったら、当然驚くだろう?」

「それは……はい」

 月子教授の例えが起こったらと言う前提で考えを巡らせて、多分言う通りになるだろうと思った私は頷いて同意する。

「君の脳はその時に、例えば、鉄に見えていたけど、素材は別のものだったんじゃないかとか、その感触に対する納得出来る仮説を立てるわけだ」

 私は月子教授の言葉がどれほど正しいかはわからなかったが、なるほどと思える程度には説得力を感じていた。

「何故仮説を立てるかと言えば、区切りを付けるためだ」

「区切り?」

 私のオウム返しに、月子教授は軽く頷いて「人間は特に未知を恐れる性質がある。知らないということは恐怖であり、その解明や分析、観察に意識の全てを傾けてしまう傾向がある」と語る。

「恐怖で身がすくんでしまうのも、この性質が関わっている」

 月子教授の説明をなんとなくで理解した私は、それを確かめるために質問をしてみた。

「じゃあ、月子教授は、その、脳が未知のものを見て固まるのを回避するため……脳は仮説を立てて、思考に区切りを付けると考えているってことですか?」

 私の考えに月子教授は「そう」と頷いてから、一拍置く。

 その後で「区切りを付けるための脳の仮説立ては無意識に行われているわけだが、君が分身で自分を、自分の目で分身を見ることに対して、君の脳は仮説を立てることが出来ず、結果、精神の切断を選んだのだろうと考えている」と月子教授は結んだ。

「要は状況が理解できず、脳がバグったってことだな」

 急にくだけた表現で言われた私は「へ?」と戸惑いで声が飛び出てしまう。

 そんな私の反応に笑みを深めつつ「だからだ」と月子教授は私の頭を指さした。

「それなりに納得出来る理屈を知った今なら、恐らく昏倒はしないはずだ」

 思わず月子教授の指先を見詰め、私は返す言葉を見つけられずに、瞬きを繰り返す。

 そんな私に「まあ、大丈夫だろうというのも仮説だ。試したりはするなよ」と月子教授は釘を刺してきた。

 瞬間、試しちゃ駄目なら、何で説明したのかという疑問が湧いてくる。

 月子教授はそんな私の思考の流れを見事に読んで、今度は笑みを浮かべながら理由を示してきた。

「事故に対して、不安になって、分身の修行が進まないと困るから、気にしないようにと言うアドバイスだ」

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