捌之捌 応用
いけそうだ。
午後の鑑賞会を終えた私の中には、確信に近い実感がある。
セレニィについて気になっていたこと、それはその変身方法の特殊さだ。
女の子向けのアニメに限らず、男の向けのアニメや特撮でも、その容姿は大きく変わったとしても、本人が変身するのが当たり前である。
でも、セレニティである蓮花は変身に必要な魔力の器を失っていて、変身に必要なだけの魔力を蓄えることが出来ないせいで変身できなくなっていた。
これをサンディとなった一葉が、創造魔法で蓮花の代わりに魔力を溜める形代を作り出す。
精神系の魔法を操る蓮花はこの形代に自分の意識を移すことで、セレニティに変身するのだ。
そして、セレニティは形代で変身することで、これまでにない新たな力を手に入れる。
人間の身体でないが故に、関節や骨の影響なく、触手のように自在に手足を伸縮湾曲させたり、自らの身体を仲間の盾にしたり、挙げ句には自分で切り取った髪を敵にぶつけて爆発させるという放送ギリギリじゃ無いかと思うような攻撃も見せていた。
今思うと、私のやろうとしていたことに近いかも知れない。
事前にミルキィ・ウィッチを知っていただろう那美さんが忠告をくれたのも、蓮花の構想や考え方が私に重なっていたからじゃないかと思った。
知らなかった作品なのに、考え方が似ているキャラがいるというのはなんだかくすぐったい。
那美さんだけでなく、舞花さんや花子さん、そして今日作品を観た皆に、似てると思われたり、私の考え方が推測されてしまうかと思うと、そこは素直に恥ずかしくてしかたなかった。
というわけで、これ以上この方向に思考を巡らせても碌なことになら無いと判断した私は、本命に思考の穂先を変える。
私の考える本命、セレニティから学ぶのは、分身の使い方だ。
もちろん、触手みたいに手足を伸ばし、髪を爆弾にし、自分を盾にするのは、絶対に避けようと思う。
そんな私が検討しているのは、サンディのように、私が皆の形代を作り出して、皆にセレにティのように意識を移してもらえば、今よりも命の危険が少ない戦いが出来るのではないかという考えだ。
私には分身術がある。
それも自分で言うのも何だけど、かなり特殊……というか、何でもありな代物だ。
私を含めて、六体、花子さんや雪子学校長も考えれば八体もの分身を出現させられるか、そこは未だ未知数ではあるけど、皆が私のように意識を移せれば、実現の可能性はグッと上がる。
そして、このアイディアに至る大きな切っ掛けの一つが、セレニティの意識の移し方だ。
目を閉じて祈るポーズを見せた蓮花の胸が輝き、光の球が出現して、それが形代である人形に入り込む。
すると、人形が目を開き、変身アイテムを手に「シャイニィ・ミルキィ」と唱えると、手足が伸び、身体を光のリボンが包み、リボンから光が消えるとそこからセレニティの衣装が徐々に出現していって、変身が完了するのだ。
私にはこの蓮花の意識である光の球が『球魂』と重なって、元の身体に入り込むのと同じように、私の分身の身体に入り込んだら操れるんじゃないかと考えたのである。
この考えが成功しそうだという理由が、私達がミルキィ・ウィッチを見たという事実だ。
、月子教授が何度か口にしているけど、私たちの能力はイメージがとても重要で、スマホやプロジェクター、狐雨や稲妻と根拠となる事実は盛りだくさんである。
セレニティの変身シーンを目にしている皆なら、イメージはバッチリだと思うのだ。
私なりの能力の発展方法、ずっと考えていたことに、一つの道筋が付いたことに私はついついニヤニヤしてしまう。
「あ、リンちゃん、セレニティの衣装着るの楽しみなの?」
「へ?」
舞花さんの質問に、私は急に現実に引き戻された。
咄嗟に違うと口走りそうになったが、ワクワクした目で観てきている舞花さんに返してはいけない言葉だと、私はギリギリで踏み止まる。
一方、舞花さんは言葉を飲み込んだ私に対して、うっとりした表情で「舞花は楽しみだなぁ」とふにゃりと表情を蕩けさせた。
当然私のやりとりは皆が観ているので、何かリアクションをしないと、私も衣装楽しみ組にカテゴライズされかねない。
そう思って、私は考えていたことを口にすることに決めた。
セレニティの変身を参考にした皆の『球魂』を私の分身に宿らせるという応用技、私の言葉を聞いた皆は、最初こそ驚いたものの、徐々にそれぞれが出来そうだという感覚のようなものを持ち始める。
今は林田先生の姿なので、月子教授は黙っているが、明らかに好奇心を刺激されてソワソワしていた。
月子教授のそわそわのお陰で、私はこれはいけると強く確信する。
そして、雪子学校長が決断を下した。
「良いだろう。卯木くんの分身の活用案、次の演習に組み込んでみよう」
「本当ですか!?」
「うむ。頼むよ、卯木くん」
「はい!」
雪子学校長の言葉が思ったよりも嬉しくて、自分の想像よりも声が弾んでしまう。
が、私はようやく認めて貰えたという気持ちで胸が一杯で、とても満足な気分になっていた。




