捌之漆 演習
「じゃあ、やっぱり、なっちゃんがウェンディだね」
舞花さんの発言二対して、那美さんは「私に出来るかしらぁ?」と首を傾げた。
対して、舞花さんも真剣な顔で腕組みを始める。
「んー。なっちゃん、演技苦手だもんね」
舞花さんの返しに私は心の中で『那美さんは何年も小学生を繰り返しているそれなりの大人でいつもののほほんとした姿は演技』とツッコんだところで、疑問が湧いた。
ウソを見抜けることもあって、鋭さのようなものを持ってはいるけど、普段のあののほほんとした雰囲気は天然な気もする。
改めて計り知れない那美さんに、表情が微妙になったところで、東雲先輩が「演技って何だ?」と疑問の声をあげた。
「え、もちろん、ミルキーウィッチで演習するんだよ!」
東雲先輩がいつにない大きめの声で「なにっ!?」と驚きの声を上げる。
私も初耳だったので、東雲先輩が吃驚していなかったら、その役目は私だった筈だ。
「だって、折角ミルキーウィッチの格好するんだよ? 演習の時も役になりきった方が楽しいでしょ?」
舞花さんが何をおかしなことを言っているのだといった様子で東雲先輩に説明するが、私には意味がわからない。
一方、私より付き合いが長いせいか、それとも過去にも似たようなことがあったからか、東雲先輩は「つまり、演習にミルキーウィッチのキャラを盛り込む……ってことか?」と聞き返した。
これは私だけがわからない話の流れだと、周りに視線を巡らすと、結花さんが「舞花、まーちゃんもストップ」と会話を止める。
舞花さんと東雲先輩の視線が自分に向いたところで、結花さんは「リンちゃん、演習のこと知らないでしょ」といいながら私に視線を向けた。
「あ、そっか」
「確かに、説明してなかったか……」
頷く舞花さんと東雲先輩は、今度は雪子学校長の方へと揃って向きを変える。
「雪ちゃ~ん」
「雪先生」
「なんだね?」
返事をした雪子学校長に、東雲先輩は「凛花にも」と私の名前を呼んだ。
急に名前を呼ばれてドキッとしたが、東雲先輩はそんな私への影響など気付かずに話を進める。
「演習のことを伝えておいた方がいいと思うんですが」
「ふむ」
雪子学校長は少し考える素振りを見せた後で「では、東雲くん達に任せよう。上手く説明してあげてくれたまえ」と指示を出した。
「演習というのは、あちらで、より上手く動けるようになるために連携や新たな技を試す実践的な練習なんだ」
東雲先輩の説明に、私は「そうなんですね」と頷いた。
真面目に聞いているというアピールも兼ねて、じっと東雲先輩を見詰めていたのだが、何故か動きを止めて固まってしまう。
「東雲先輩?」
私の呼びかけで、東雲先輩は「あ、すまない」と我に返った。
「演習の全体像はなんとなくわかったか?」
「はい、大丈夫です」
いつもの柔らかな口ぶりに安心して、私は頷く。
東雲先輩は真面目だから、誤解を生じないように、説明の仕方を考え込んでいたんだろうと察した私は、静かに耳を傾けることにした。
「舞花達が考えているのは、その演習にミルキィ・ウィッチのお話を盛り込もうってことだと思う」
「お話を盛り込むんですか?」
私の質問に頷きつつ、東雲先輩は「敵味方に分かれて戦うだけじゃなくて、鬼ごっこだったり、障害物競走みたいなものだったり、火力競争だったりと、いろんな要素を加えることで、いろんな可能性を模索するんだ」と説明してくれる。
「魔法使いや獣人やお姫様になったりするんだよ!」
舞花さんの言葉に東雲先輩は嫌な顔一つせずにい頷いた。
「那美は魔法使い、志緒は獣人、舞花と結花は双子のお姫様といった感じで……花子さんが探してきてくれたアニメなんかを参考に、なりきることで新たな技を試したりするんだ」
その話を聞いて私はなるほどと思う。
私自身の経験から言っても、自分の認識というか、イメージが能力に大きな影響を与えるのは確かだ。
それを磨くために、アニメや漫画なんかで近しいキャラからアイディアを補充するのはとても賢いと思う。
出来るイメージがあれば、詳細があやふやでも、どうにかなるのは他でもない私自身が体現していることだ。
「じゃあ、今回はそれぞれがミルキィ・ウィッチの役に扮して、その能力を再現してみようって事ですか……」
「まあ、能力の相性とかもあるから、再現できないこともあるかも知れないが、上手くいけば新たな技や術の種にはなるかも知れないな」
東雲先輩の言葉に、改めて「なるほど」と頷いてから、私は確実に回ってくるであろうセレニィについて考えてみる。
登場順が最後だったこともあって、一話分しかその攻撃の技を見ていないので、午後の鑑賞会では、セレニィの攻撃技に対しては注目が必要だ。
けど、実は私はセレニィについて、とても気になるというか、活かせるんじゃないかという部分が既にある。
午後の鑑賞会では、そこについても情報を逃さず、イメージを深めるためにも、より一層の集中が必要だと心の中で自分に言い聞かせた。




