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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第捌章 師弟混迷
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捌之弐 挨拶

 今回の鑑賞会の取り仕切りは、結花さんがメインで、そのサポートを舞花さんや那美さん、花子さんが行うという形になった。

 もちろん、私や志緒さん、東雲先輩も手伝いを申し出たのだけど、舞花さんと結花さんは、全員が参加者じゃなくて、純粋なお客役も欲しいと要望されて、割り振られたのである。

 そんなわけで、食堂で朝食を摂りつつ待機していた私たちを、舞花さんが迎えに来てくれて、会場である講堂へ向かうこととなった。

 ちなみに、雪子学校長と月子教授はそれぞれ自分の仕事を熟していることになっているが、実際には何かあった際にすぐに助けに入れるように、鑑賞会の会場である講堂でこっそり待機中だったりする。

 二人とも、私の出現させたスマホで、私の視界を共有しているので、タイミングを見計らって合流してくるはずだ。


 会場までの道のりの舞花さんは、どこまでの情報を口にして良いのか、悩みながら慌てて口を押さえたり、わたわたと手を振ったりと、とても微笑ましい動きを見せていた。

 講堂の飾り付けや鑑賞するアニメの詳細、その辺りが禁止ワードのようだ。

 舞花さんが大変そうなので、黙って移動しても良かったのだが、普段話ながら歩いているので、その感覚で志緒さんが切り出して、私がつい乗ってしまう。

 東雲先輩は一歩引いているので会話に乗ってこないので、舞花さんがてんてこ舞いなのは、主に私と志緒さんのせいだと思う。

 特に志緒さんは、知ってか知らずか、自分に似たキャラクターについての質問をしては、話しそうになる舞花さんを見て喜んでるように見えた。

 神世界で猫科っぽい神格姿を持っているだけに、獲物をいたぶるような気質が志緒さんにはあるのかも知れない。

 ただ、普段快活な舞花さんが困ってオロオロする姿は、つい見ていたくなる雰囲気があるので、志緒さんの気質だけの問題でもないようだ。


「わぁ、すごい!」

 講堂に足を踏み入れた私は思わずそう口にしていた。

 何しろ、想像以上に劇場風にアレンジされていたのである。

 元々講堂だったこともあって、バスケットコート二枚分の広いホールより一メートル位高い場所にステージが設置されていて、そこには昨日視聴覚室で見たものの何倍も大きなスクリーンが設置されていた。

 だが、そんなことよりも気になるのが、革張りの大きな椅子が、扇形に二列並んでいる。

 前列が四席、後列が五席の構成で、未だ座ってはいないので確かなことは言えないけど、おそらく全ての椅子からスクリーンが見やすいのであろう配置で設置されていた。

「緋馬織シアターにようこそ、お嬢様、お坊ちゃま!」

 長ズボンにベスト、白いシャツに、黒の紐ネクタイで正装した花子さんが、恭しく頭を下げる。

「お席にご案内致しますわぁ」

 続いて膝下丈の黒のワンピースに白のエプロンといういわゆるメイドスタイルの那美さんが、赤いドレスを着た結花さんと共に現れた。

「私たち主催の鑑賞会へようこそ」

 片足を軽く引いて、スカートを摘まむように持ち上げた結花さんが可憐なカーテシーを決める。

 想像していなかった展開に、固まってしまった私と違い、すんなりと流れに乗ってしまったのは志緒さんだった。

「お招きありがとうございます、結花様」

 志緒さんは、結花さんと同じく足を引いてスカートを摘まみ、カーテシーで返す。

 結花さんはドレス、志緒さんは制服なので、違和感があっても良さそうなのだけど、二人の動きが堂に入っているからか、とても自然に見えた。

 そんな二人を見詰めながら、私は結花さんにドレスコードを指定されたのを思い出す。

 指定されたのは『フォーマルな装い』だったので、志緒さんや東雲先輩とも相談して『制服』にしたのだが、主催の双子はドレスとかを想定していたのかもしれないと、他の面々に相談しなかったことが悔やまれた。

 なんて、私が昨日のことを回想しながら現実逃避しているのは、期待の目が私に集まっているからである。

 何も言わないが、私を見る結花さん、志緒さん、那美さん、花子さんの目が、私も『カーテシー』で答えるよねと訴えていた。

 私の後ろに立っている東雲先輩の表情は覗えないので、同じような目で私を見ているのか、別の感情がこもっているのかはわからない。

 けど、望まれてたら……そう考えると、何故か頬が熱くなってきた。

 そんな私に向かって、クリルと体ごと正面を向けた結花さんが再びカーテシーで「凛花様もようこそおいでくださいました」と、圧力を掛けてくる。

 動き方も返礼すべきなのもわかっているのに、心が恥ずかしさで抵抗をしているせいで、身体が固まってしまっていた。

 それでも、皆の期待の目を裏切らないために、私はゆっくりと足を引く。

 スカートを両手の親指と人差し指、中指で摘まむだけで、自分でもわかるぐらい恥ずかしさで呼吸が乱れた。

「凛花」

 囁きかけるような東雲先輩の声が背中に届く。

 名前を呼ばれただけなのに、私を心配してくれる気持ちや、もしも嫌なら割って入るという意思が伝わってきた。

 もちろん表情は見えていないし、名前を呼ばれただけなので、想像……妄想……いや、願望で感じていることかも知れないけど、でも東雲先輩の優しさが立ち止まってしまった私の背中を軽く押し出してくれる。

「結花様、お招きありがとうございます」

 スカートを持ち上げすぎて中が見えないように気をつけながら、初めてのカーテシーで結花さんに頭を下げた。

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