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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之弐拾陸 代償

 私は月子教授と共に、執務机やガラス扉の付いた本棚、豪華なテーブルセットの横を擦り抜け、隣室に続く木製の扉の前に立った。

 月子教授はそこで私に振り返って真剣な表情を浮かべる。

「今、雪姉は身体を休めているところなので、なるべく音は立てないように」

 その言葉に、もしかしたら命の危険があるかもと思っていただけに、私はホッとしてしまった。

 休んでいると言うことは、少なくとも生きている……最悪の事態には至っていない。

 とはいえ、どういう状態なのか、聞けたわけでも、自分の目で確かめたわけでもないので、息を吐き出して気持ちを引き締め直した。


 月子教授がドアノブを回してゆっくりと扉を開くと、ふわりとお香だと思われる甘くて上品な香りが漏れ出てきた。

「鎮静効果のある香りですが、強すぎるようならこれを使いなさい」

 月子教授がそう言いながら差し出したハンカチを受け取って、私は鼻と口を覆うようにして顔に当てる。

 身体が子供になっているせいか、それともお香自体にそういう効果があるのか、少し意識が遠のくような感じがあった。

 月子教授は私が顔にハンカチを当てたのを確認して入室していく。

 その後に続いて部屋へと入った。


 厚めのカーテンが引かれているからか、部屋の中はかなり暗かった。

 広さは大きめのベッドが置ける程度なので、屋内にはそれ以外のモノはない。

 そのベッドの上には、恐らく雪子学校長であろう人影が横たわっていた。

 月子教授が横に避けてくれたので、一歩前に出ると、ベッドの全体像が視界に入る。

 薄暗いせいで、はっきり見えているわけではないものの、雪子学校長は大人の姿になっているようだった。

 仰向けに寝かされた雪子学校長は微動だにしないため、少し不安をかきたてられたが、規則正しく上下している胸の動きから、呼吸は正常だと思われる。

 表情は無表情に近く、苦しそうにする素振りもないが、すぐに目覚めそうには見えなかった。

「時間を巻き戻すための代償は、現代の医学や科学では観測できない、魔力や霊力といった伝承やファンタジーに出てくるような未知のエネルギーだと思われる」

 視線を月子教授に向けながら「未知のエネルギー」とその言葉を繰り返す。

 すると、月子教授は軽く頷いた。

「凛華さんの具現化する能力や狐火や狐雨、稲妻、変化などの現象を引き出す代償でもあるだろうね」

 そう言われて私は無意識に自分の両の手の平に視線を落とす。

 自分の中に未知の力があるというのは、それこそ漫画なんかのフィクションではよく聞く話だが、あまり実感はなかった。

 一方で、様々なことが出来ている以上、あるのだという確信もある。

 そんな私の肩に月子教授がポンと手を置いた。

「未知の部分が多い……エネルギーがあるとは言っているが、あると確定しているわけじゃなく、あると考えた方が我々が理解しやすい……理論を組み立てるのに都合が良いというだけなのだ」

 月子教授にしては珍しく声に張りがないように思える。

 未知であり、実在も不確定、そんなものが代償だといわれてお、流石になるほどとは思えなかった。

 きっと、私よりも理論だってものを考える月子教授の方がそう思っているのだろう。

 でも、あやふやでも、未確定でも、それを代償として使ったから、雪子学校長は『これ以上代償を支払わない』と思い込みたいのだ。

 私自身、はっきりと確証があるわけでは無いけど、月子教授がそう考えて自分を納得させようとしているような気がして、敢えてこれ以上踏み込むのを辞める。

 正直、私自身変に踏み込んで、知りたくないことに触れるのが怖かったというのも大きかった。


「これから……どうするんですか?」

 私の漠然とした質問に、月子教授は少し黙ったまま動きを止めてから、視線を入ってきた扉に向けた。

「外で話そう」

 私が無言で頷くと、月子教授は踵を返して、学校長室へ戻っていく。

 二人で部屋を出たタイミングで、月子教授は音を立てないようにして、静かに扉を閉めた。

「……雪姉は数日目を覚まさない可能性がある」

「そ……う、なんですね」

 何故そう思うのかを聞かなくても、以前にも似たようなケースがあったからだろうと推測が付いたので、踏み込まないことにした。

 代わりに、私は「月子教授は、雪子学校長の代わりを務めるのが良いと思います」と断言する。

 すると月子教授は、私の意図を探るような視線をこちらに向けた。

「林田京一と雪子学校長、どちらが不在になる方が、より子供達を不安にさせるかと考えました」

 実際、今年赴任したばかりの林田先生と、ずっとこの学校で過ごしてきた雪子学校長、いなくなって皆が不安に思うのは考えるまでもない。

「月子教授も、そう思ったからでしょう?」

 私の問い掛けに、月子教授は少し間をおけてから「それだけが理由ではないがね」と口にした。

「他の理由も聞いておきたいですが、まずは林田先生は、何らかの事情で離れる必要が出来た……で」

 月子教授は、私の言葉に対して「君が了承してくれて助かる」と頭を下げる。

 対して私は左右に首を振った。

「こんなことになってしまったのは、私の()()ですから……」

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