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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之弐拾肆 実験終了

「雪子学校長、花子さん。今、上から東雲先輩の姿が見えたんですけど……」

 私がそう切り出した瞬間、立ち上がった雪子学校長が後ろに数歩下がった。

 だが、不思議なことにその動きに誰も反応を示さない。

 私が空を飛ぶ直前、皆は私を囲むように立っていたので、扇状に立っていた。

 その中でも雪子学校長は、私に近い、扇で言えば要の一付近に立っていたのに、他の皆が描く扇状のラインの外まで下がったのに、誰も反応していない。

 明らかにおかしいと感じた私の身体は、自分で意識するより早く身構えていた。

 そんな私の視線の先で雪子学校長は人差し指を立てて自らの唇に押し当てる。

 明らかな『静かに』あるいは『しゃべらないで』というハンドサインだ。

 この状況、このタイミングでそんなサインを出したのは、恐らく私の発言を耳にしたからだと思う。

 なら、雪子学校長が言われたくなかったのは、月子教授……林田先生の不在かも知れないと見当が付いた。

 正解かどうかはわからないものの、一応、途中になってしまっていた言葉に続きを加える。

「大分待たせてしまってますし、授業の時間が無くなっちゃいますから、実験の続きはまた今度にしませんか?」

 そう言いながら『翼よ、消えろ!』と心の中で念じてみた。

 正直、それで消えるのか半信半疑な部分があったものの、私の望みは成就する。

 視界の端に捉えた翼が徐々に透き通るようにして宙に消え始めた。

「翼も、消え始めましたし」

 多少強引だけど、これで実験は終了になると思っていたのだけど、想定に反して、皆からの反応がない。

 私がその事に表情を変えたタイミングで、雪子学校長がポンと横にいた花子さんの背中を叩いた。

「あっ……と、そうですね。皆、教室に戻りましょう!」

 途端に、皆一斉に一時停止が解かれたかのように動き始める。

 真っ先に「はーーい!」と花子さんに返事をした舞花さんは、私へと振り返った。

「リンちゃん! また飛ぶところ見せてね!」

「あ、はい」

 違和感というか引っかかりのようなものに戸惑いながらも、舞花さんに頷くと、今度は結花さんが「私も予約ね」と明るい笑顔と共にウィンクをしてくる。

 ぎこちなさを感じない自然な振る舞いに、様になるなぁと思いながら「はい」と返した。

 すると、突然、那美さんが「あ、そうだ!」と大きな声を上げる。

 私は身体がビクッと震えただけですんだが、志緒さんは「ふぇっ」と驚きの声を上げていた。

 が、那美さんはそんな志緒さんを気に掛けることなく、私の背後に回り込む。

 直後、ペタペタと背中に触れる那美さんの手の感覚が、ブラウス越しに伝わってきた。

「え、なんですか!?」

 いきなりの行動に驚いてそう尋ねると、那美さんは「翼が生えてたからか、服破れてないかと心配したのぉ」と行動の理由を説明してくれる。

 私は想定もしていなかったことなので素直に「なるほど」と応えてしまった。

 結果、間髪入れずに花子さんに「ちょっと、凛花さん、なるほどじゃないですよ。自分で気づけるくらいには、着ているモノに意識を向けてください」と注意されてしまう。

 私としても、もっともだなと思ったのと、ここで反論しても意味がないとも思ったので「心掛けます」と素直に返した。


 脱いだままの靴下と靴をはこうとしたところで、雪子学校長が自分が残るので他の皆は先に教室に戻るようにと指示を出した。

 何か話があるのだろうと察した私は「すぐ追い掛けるねー」と靴下をはく手を止めて皆に手を振る。

 対して、皆が「後でね」とか「教室でー」と返事を返してくれた。

 そのまま花子さんを先頭に皆がプールから離れていくのを見送ってから、私は改めて靴下に指先を入れ始める。

「凛花さん」

 雪子学校長が私の名を呼んだ瞬間、その姿は林田京一に変わっていた。

「やっぱり、月子教授だったんですね」

 私の言葉に、林田京一の姿の月子教授は「案外、驚かなかったね」と薄く笑む。

「話し方に違和感が……というか、雪子学校長ではない話し方してましたし、何より皆に雪子学校長の動きが見えていないような一瞬がありましたから」

 理由を私が口にすると、月子教授は軽く頷いた。

「……それよりも、林田先生の不在……いえ、雪子学校長がいない理由を教えてください」

 靴下を履き終えた足を靴を滑り込ませながら、月子教授を見る。

「先に、君の予想を聞いてもいいかな?」

 いつもと同じ、軽さを感じる月子教授の話し方……それなのに、表情が笑っていなかった。

 私も可能な限り表情を引き締めて、私なりに導いた推論を胸に答える。

「時間を巻き戻した反動」

 私の言葉に月子教授は少し間を開けた後で「正解だ」と抑揚のない声で頷いた。

「……大丈夫、何ですか?」

 反動がどういったものかはわからないが、少なくともこの場にとどまれない状況なんだと予想は付く。

 切っ掛け、というか、原因は私の墜落の筈だ。

 どう考えても無事とは言いがたい状況が、実験前に巻き戻っている。

 何故実験前なのかと考えれば、実験をさせない、もしくは実験をやり直させるためだというのが自然だ。

 だけど、私はそんな過程の推理よりも、今は雪子学校長の状況が気になって仕方ない。

 この場にいない、恩人と思われる雪子学校長の安否を知りたくて、私は月子教授に迫った。

「覚悟は出来ています。教えてください!!」

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