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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之弐拾参 違和感

「まずはプールの中央で、真上に50センチ程度、飛んでみなさい」

 雪子学校長にそう言われて、私は我に返った。

「あれ?」

 思わず声に出してしまった疑問の声に、雪子学校長は「どうかしたかい?」と首を傾げる。

「い、いえ、いま、飛んだ……と、おもったのですが……」

 頭の中に残っている飛び上がった記憶が、私を混乱させていた。

 状況は、先ほど、私がプールの中央で飛んだ直前のように思える。

 時間が巻き戻ったのかと思う程、既視感があった。

 そんな感覚に戸惑っていると、雪子学校長は反対側に首を傾げ直して「もう試したと言うことかな?」と尋ねてくる。

「そ、そうではなくて……ですね……何というか実験した記憶があるというか……」

 私の言葉に、雪子学校長は「ふむ」と呟いて顎に手を当てると、思考を巡らせ始めた。

 そのタイミングで花子さんが「もしかして、予知系統の能力とかですか?」と口にする。

 考えていなかった方向性の意見に、私は「予知!?」と大きめな声を出してしまった。

「はい。あくまで可能性ですが、未来の光景を現実のように垣間見る能力もあるんです。凛花さんの様子からして、かなりの戸惑いがあったようなので、思い当たったんです」

 花子さんの言葉に、私はなるほどと頷く。

 ただ、頷いては見たものの、何か違和感のようなものが私の中に残っていた。

 それを私の反応で見抜いたのか、花子さんは「実際に予知の能力が発現しているなら、また、似たような感覚になるでしょうから、今は翼の方の実験を進めましょう」と背中を押してくれる。

 気になっているのは事実だが、やるべき事を示して貰ったお陰で、思いの外すんなりと気持ちを切り替えることが出来た。

 確かに、あるかどうかわからない能力について悩むよりは、実証実験を終えてしまう方が良い。

「そうですね。飛んでみます」

 花子さんにそう告げて、改めて、プールの中央に向けて移動し始めた。


「凛華くん、くれぐれも50センチ程度、少し浮くだけというのを強く意識するんだ!」

「え、あ、はい」

 珍しく雪子学校長に名前で呼ばれたせいで、少し返事に詰まってしまったが、それでもどうにか返事は返せた。

 とりあえず飛んでみようと空に視線を向けたところで、皆から声援の声が届く。

 再びの既視感に、胸の中が少しザワついたが、それでもやることは変わらないので、足に力を込めた。

「凛華くん、軽くだ!」

 しゃがむ程腰を落としたからか、雪子学校長から大きな声で指示が飛んでくる。

 思えば、空を飛んだ記憶の中では、こんなに何度も高さのことを言われなかった。

 その違いに意識が向いた瞬間、私の中で何かざわつきのようなものが起こる。

 何で高さを強調されるのだろうか……そう思った私の頭に過ったのは、あの黒いモヤだった。

 アレが何かはわからないが……嫌、わからないからこそか、思い浮かべるだけで、鳥肌が立つ。

 想像していなかった身体の反応をきっかけに、私の中の違和感が一気に一つの推測へ至った。

 荒唐無稽な考えだけど、妙に説得の力ある結論に至る。

『時間が巻き戻っている』

 そう考えると、既視感があるのも当然だし、雪子学校長が高く飛ぶなと繰り返し言うのも頷けた。

 更に、雪子学校長は時間を巻き戻す能力を持っている。

 現実だと断言出来ないが、仮に時間が巻き戻されていると仮定して、私の中にある既視感が現実だったと仮定すると、翼が崩壊したことで私は墜落していた。

 その運命から雪子学校長は救い出そうとしてくれているのだろう。

 ならば、雪子学校長の言う通り軽く飛んで、翼が崩壊しない……したとしても、それほどダメージが無い範囲で事を終わらせるのが最善手だ。

 そう考えた私は、しゃがみ込んだ体勢から少し腰を浮かせる。

 ほんの数メートル、記憶の中のように滅茶苦茶高くまで飛ばないようにイメージを固めたところで、私は軽く飛び上がった。

 直後、翼が上下に羽ばたく。

 グンと上向きの加速を感じた瞬間、私はブレーキを強く意識した。

 それが功を奏して、私の身体はそれほど高くまで上昇せずに、空中で止まることに成功する。

 とはいえ、雪子学校長の言っていた50センチは上回ってしまっていた。

 高さにして5メートルくらいだろうか、平屋のプール入り口の施設が足下に見えるし、その外で待ってくれている東雲先輩の姿が目に入る。

 くるりと視線を巡らせば、雪子学校長に花子さん、舞花さん、結花さん、那美さん、そして志緒さんが見えた。

 皆に手を振りながら、私は違和感を覚える。

 月子教授……林田先生の姿が無いのだ。

 とはいえ、月子教授がふらりと姿を消すのは、私が林田京一だった頃に、散々あったことなので、あり得ない話では無いのに、もの凄く気になって仕方が無い。

 何故こんなにも気になるのかわからないが、月子教授が東雲先輩のそばに居ないことを伝えれば、雪子学校長か、花子さんが状況を教えてくれるだろうと考えて、私はすぐに降りることにした。

 私の意思に呼応するように翼が一度羽ばたいて、私の身体はグンと加速していく。

 そのまま地面に着地した私が感じたのは、先ほどまではあったグミの感触ではなく、少しざらつきのあるプールのタイルの感触だった。

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