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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之弐拾壱 宙に立つ

「よ、よろしくお願いします」

 なんと言うのが正解だかわからなかったので、私は無難な言葉を選んだ。

 手の平を上向きにして差し出された雪子学校長の手に自分の手を重ねる。

 私の右手を雪子学校長の左手が、左手を右手がそれぞれ支えてくれた。

「そ、それじゃいきます」

 出所のわからない緊張を感じながら、左足を持ち上げつつ、右足を伸ばして体重を移していく。

 階段を一段上がるかのように、視界が高くなった。

 ここまでは何事も無く、右足の感触も変わらない。

 私は持ち上げていた左足をバケツより高い位置まで引き上げてから、雪子学校長の支えを頼りに空いているバケツの方に左足を降ろした。


「どうやら、成功だね」

「は、はい。立てました」

 雪子学校長の言葉に、私が同意して頷くと歓声が上がった。

「でも、何というか、飛んでると言うよりは、ビニールボールの上にのっているような感覚ですね」

 左右の足を交互に上げながら感触を試した私は、感想を口にする。

「確かに、翼で空を飛ぶというイメージではなさそうだね」

 頷く雪子学校長の横から、ようやく呼吸の戻った志緒さんが「じゃあ、ビニールボールじゃ無くて、階段みたいなモノだったらもっと高く上れそうだね」と微笑んだ。

 その一言に、私も雪子学校長も固まる。

 志緒さんはそんな私たちの反応に驚いたようで「あ、あれ……変なこと言ったかな?」とオロオロし出した。

「あ、いや、志緒さん。変なことと言うか、それ、正解なんじゃ無いかなと思って……」

 私は志緒さんにそう返しながらバケツの上から一歩足を外に出す。

 意識するのはバケツにのっていた時と同じ高さに足場があるというイメージだ。

 そのイメージを抱いたまま踏み出した足は、想像した通りの場所で私の足を受け止める。

 先ほどは階段を上る感覚で一段上がったのに、バケツの外に降ろしたにも拘わらず、バケツの上に降ろした時と変わらない高さから下へ下がることは無かった。

 そこから更に逆の足を踏み出して、バケツの上から離れても、その高さに変化は無い。

 教室からプールまでの移動中よりも高い位置で私は浮かんでいた。

「すごい! さっきよりも高い!!」

 興奮した舞花さんが、何の躊躇いも無く、私の足下まで来て、浮かんだ私と地面の間に腕をツッコんで扇状にブンブンと動かし始める。

「え、ちょ、舞花さん!?」

 驚いた私は思わず片足立ちになるが、軸足にいくら体重が掛かっても、高さが変わることは無かった。

 そんな私の軸足の下では、舞花さんに加えて、結花さんも扇状に腕を振って、私と地面の間に支えのようなモノが無いことを確かめ始める。

 那美さんはそんな舞花さん、結花さんの双子コンビの確認作業を見て、おっとりとした声で感想を口にした。

「なんだか、マジックショーで見たことあるわぁ」

 孫七海さんや双子に触発されたのか、志緒さんも頬を赤く染めて目をキラキラさせながら「り、リンちゃん、私もして良い?」と尋ねてくる。

「い、良いけど、急に翼が消えるかも知れないから、あ、危ないんじゃ無いかな?」

 私の言葉に志緒さんは一瞬動きを止めた後で、良い笑顔で私に微笑みかけてきた。

「リンちゃん、頑張って、消さないようにして!」


 舞花さん、結花さん、志緒さん、更に那美さんまで加わって、私と地面の隙間に、手や足を通す試みは終わる気配が無かった。

 その間私は、志緒さんのお願いに従ったわけでは無いけど、翼が消えないように念じながらの直立不動を保っている。

 落下したら、私の下敷きになって怪我をしてしまうかも知れないし、最悪骨折なんて事もありうるので、気が抜けなかった。

 ただ、問題点として、消えないようにと念じたところでそれが効果的なのか、無意味なのかがわかってないところである。

 昨日の夜、私の背中に翼が生えていたのは間違いなさそうだけど、今日、少なくとも昨日寝る前には消えていた。

 なので、いつ消えるか、どうやったら消えるか、翼が消える切っ掛けはまったくわかっていない。

 出現させた時も、床を踏み込まなければ良いと考えた結果で出現したので、空を飛ぼうとはまったく考えたわけでは無かった。

 イメージや私の考えが影響しているのはわかるが、どの考えが、どう作用しているのかは、正直私自身理解し切れていない。

 そんな状況なので、四人が盛り上がっているのはわかるのだけど、終わりにした方が良いだろうと私は考えた。

「皆、そろそろ次の実験に入るね!」

 そう宣言した私は、見んあの元から離れ、大股でプールに向かう。

「あ、リンちゃん!」

 背中に私の名を呼ぶ舞花さんの声が聞こえたが、それを振り切ってプールの淵から水に満たされたプールへと足を踏み出した。

 プールへと踏み出した右足は、縁の上空にある私の左足とほぼ同じ高さで止まっている。

 驚いたのは、プールの水面は縁よりも低いのにも関わらず、階段を降るように下がったりはしなかったのだ。

「水面や地面から一定の高さ浮いてるわけじゃ無いのね……」

 私の呟きに、駆け寄ってきた志緒さんが「じゃあ、もっと高くまでいけそうだね!」と目を輝かせる。

「確かに」

 志緒さんの言葉に頷いた私は、縁の上空に残していた左足を、右足に引き寄せて、プールの水面の上で足を揃えた。

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