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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之拾捌 再現

「状況を思い起こしながら、なるべく再現してくれたまえ」

 雪子学校長の言葉に、私は深く頷いた。

 昼間というのはこんなにも印象が違うのかとちょっと感動してしまう。

 窓は変わらず暗幕とカーテンが閉められているので、教室の天井に設置された照明頼りではあるが、それでも漏れて入ってくる太陽の光で床の所々が輝いて見えた。

 私たちが立っている廊下も、窓から差し込む光で明るいし、今は大人数で人の気配も多い。

 誰かが声を発しているわけで無くても、人がいると言うだけで、昨晩の一人の時とは、雰囲気がまるで違って感じられた。

 その影響だろうか、床の軋む音が昨晩よりもかなり小さくなったような気がする。

 教室にに踏み入れた右足に掛ける体重を調整して、床を鳴らしてみても、やはり昨日より音が小さく感じられた。

 確認を終えて一度右足を下げると、雪子学校長が「難しそうかね?」と尋ねてくる。

 恐らく私が繰り返し床を鳴らし他後で、足を戻したので、再現が出来ないのではないかと心配してくれたのだと思い、私は「未だ、足の裏の感触を確かめていただけなので……試してみますね」と返した。

 雪子学校長が頷いてくれたのを確認した後で、長めに息を吐き出してから、改めて教室に一歩踏み出す。

 私の考えではすぐに堅めのグミの感触を足の裏に感じると思ったのだが、予想に反して足の裏には何も感じず、二歩、三歩と歩を進める事になった。


 数歩進んだところで足の裏に変化が無いことに呆然としていた私に、雪子学校長が「どうだね?」と尋ねてきた。

 私は首を左右に振りながら、素直に感じたままを言葉にする。

「昨日の夜足の下に感じた感触がありません……再現出来てないと思います」

「フム……」

 私の言葉に深めに頷いた雪子学校長は、林田先生の姿で後方待機していた月子教授に視線を向けた。

 すると、間を置かず月子教授は「素人考えではあるのですが、昨晩、教室の中へ入っていった時に考えていたことを思い出して見るのはどうでしょう?」と提案してくれる。

 月子教授が枕詞に『素人考え』と付けてくれたのは、間違いなく私への配慮だ。

 普段こそめんどくさがりで自分本位なだけに、たまに見せる気遣いがぐっとくる。

 もっとも、穿った見方をするとそこすら計算尽くな気もしなくも無いけど、実害が無いならば敢えて騙されておくのも処世術だと、張本人である月子教授がその昔言っていた。

 ということで、考えても得のなさそうなことはさっさと頭の片隅に移動させて、再現に挑むことに意識を切り替える。

 その為に最初にするのは、昨日の晩のことを依り正確に思い出すことだ。

 私はこれまで、雪子学校長や花子さんの言葉をオウム返しにしたり、その言葉にイメージを刺激されて、分身や狐火など、それなりの術を発現させてきている。させてきている。

 その事実の上に考えてみれば、私が思ったことが何らかの作用をして、あの堅めのグミの感触を足裏に生むことに繋がったというのが、一番濃厚な可能性だ。


 音が消えた三歩目、私が考えていたのは、床を踏まないことだったはずだ。

 夜だし、皆に迷惑を掛けないように、音を立てないためにどうするか考えた私が思い付いた方法である。

 今、冷静に考えると、無茶苦茶な考えというか方法だが、明確な意識や知識がない方が、とんでもないモノを出現させてもいるので、非常に近しいロジックによって、音を鳴らさない事に成功したということだ。

 つまり、理屈を考えずに月子教授の言うように、昨日の気持ちを思い出すのが、再現には最適ということだと思う。

 頭の中で『床を踏まない』と念じるように繰り返した。

 それが功を奏したのであろう。

 踏み出した足の裏に、あの時と同じ堅いグミを踏むような感触を感じることが出来た。

 そのまま反対の足も踏み出し、そちらにも堅いグミを踏み感触がある。

 成功を確信した私は、皆が覗いている教室の入り口へと振り返った。

 すると、舞花さんが「やっぱり、夢じゃ無かった!」と目を輝かせて駆け寄ってくる。

「え、なにが!?」

 思わず聞き返した私に、結花さんが「あー、気付いてなかったわけね、リンちゃん」と残念な人を見るような視線を向けてきた。

「き、気付いてないって何!?」

 結花さんの反応に少し不満を感じながら放った私の言葉に、志緒さんが「生えてますよ」と返してくる。

「はえて?」

「だからぁ、りんちゃん、背中に翼が生えて、飛んでるのぉ~」

 胸の辺りに寄せた両手を手首でパタパタと振りながら、那美さんは笑みを浮かべた。

 次に花子さんが「はい、凛花さん」と言いながらこちらに、板状のモノを向けてくる。

 それがスマホだと察したのは、こちらに向けられた画面に私が映っていたからだ。

 リアルタイムで映し出しているらしい画面の中の私は、当然、動きも姿形もリンクしているわけだが、そこに信じられないものが映り込んでいて、私はついつい声を荒げてしまう。

「って、翼!?」

 画面の私に生えてる翼に驚いた私が背後を振り返れば、そこには画面と同じような白い翼が生えていた。

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