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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之拾漆 グミ

「これ、完全に身体が浮かんでいますね」

 月子教授の断言に、皆がほぼ一斉に頷いた。

 全員が頷いてしまう程、映し出された私の視界の変化は、足を使って移動しているとは思えない程ブレが無い。

 正直、私が第三者なら、頷きに加わっていた。

 とはいえ、私が翼を生やした事実はないし、足下が堅めのグミのような感触に変わっただけで、他には何も起こっていない。

 なので、私は事実をありのままに主張した。

「この時の私の足の裏には、ずっと堅いグミのような感触があったから、浮かんで移動したわけじゃ無いと思います!」

「堅いグミ?」

 結花さんが首を傾げながら聞き返してきたので、頷きつつ「教室に入る時に、床が鳴らないようにと考えたら足の下にそういう感触が生まれたんです」と説明をする。

 が、これには舞花さんが疑問に思ったらしくて「でも、足を使って移動してるように見えないよ?」と結花さんのように首を傾げた。

 これに対して、私は既に仮説を立てているので、それを口に出す。

「多分、教室の入り口から机の辺りまで堅いグミみたいなモノが床を覆っていて、動いたんだと思うんです! ベルトコンベアーとか動く歩道みたいな感じで!」

 完璧な説明だという自負のせいか、少し声が大きくなってしまったが、言い切った爽快感はとても心地よかった。

 まさしく、やりきったという気持ちが、私の心を満たしてくれている。

 なのだけど、私の感じてる感触とは、皆の反応が微妙に違っていた。

 私の話を聞いた皆は互いに顔を見合わせてから、最終的に那美さんに視線を向ける。

 すると、那美さんは困り顔になって「本気で言ってると思う」と口にした。

 それってどういう意味の発言だろうと首を捻ったところで、パッと閃く。

 皆の視線が那美さんに向いた理由は、私がウソを言っているかどうかの確認のためだ。

 そこに気付いた私は「もしかして、私の言葉疑われてる?」と首を傾げる。

 すると、志緒さんが慌てて首を振りながら「う、疑うというか、翼のことを隠したいのかなと思って……」と自分の考えを口にしてくれた。

 完璧な理論を構築しているからか、心のゆとりが私には存在している。

 お陰で、私の聞き方が悪かったせいで、動揺してしまったと思われる志緒さんに「あ、別に、嫌だなと思ってたり、怒ってるわけじゃ無いから、大丈夫だよ」と声を掛けることが出来た。


「これで、卯木くんと舞花くんの視点で状況を確認出来たわけだが……」

 雪子学校長はそこまで言うと大きく溜め息を吐き出した。

「結論を出すには情報が薄いな」

「え、グミのベルトコンベアーで決まりでは?」

 私はかなり真剣に言ったのに、呆れたと言わんばかりの目を向けられたのは、かなり不満だけど、雪子学校長に「君の主観だけでは結論は出せない。君の能力を把握することが目的だからね」と言われてしまうとその通りだと頷くしか無い。

「それでは、やはり、実証実験しかありませんね」

 月子教授がそう口にして席から立ち上がった。

「実証実験……って」

「どちらかの記憶が正しいのか、あるいは第三の答えが存在しているのか、こうなってしまった以上、同じ事をやって貰うしか無いでしょう?」

 月子教授の言葉はまったくその通りなので、頷くしかない。

 むしろ、初めから現場検証でも良かったんじゃないかと心の中でツッコミを入れた。

 この投影機の流れのせいで、私の天使姿をスクリーンに投影され、自分でも投影してしまって、もの凄く恥ずかしかったのである。

 そんな私の考えを読み切ったのだろう月子教授が「実証実験ですよ」と言いながら投影機を指さした。

 瞬間、月子教授の思考を理解する。

 間違いないと思うけど、月子教授は、最初から舞花さんの球魂と遭遇した教室に行って、状況の再現の方が適切だと思っていたはずだ。

 でも、それを提案しなかったのは、投影機の使用サンプルが採れるとでも考えたのだと思う。

 そこまで推測を立てた私の耳に、教室への移動のために通路に移動してきた月子教授がすれ違いざま、私の思考を見透かした様な言葉を放った。

「投影機の出所を説明する必要が薄れるとも思ったんですよ」

 声に反応して振り返った時に、そこには月子教授の姿は無く、既に教室入り口まで移動してしまっている。

 他の皆も移動し始めているので、私も後を追うことにしたタイミングで、自分の手が囁かれた耳に触れていることに気付いた。


 舞花さんの球魂と遭遇した教室への移動は、私が先頭、その後ろに舞花さん、結花さん、次に志緒さん、那美さん、次いで東雲先輩、その後ろに雪子学校長と花子さん、最後尾に月子教授という並びになった。

 先頭を歩きながら私が考えるのは、月教授の言葉についてである。

 投影機は私が出現させたモノだけど、花子さんも月子教授も雪子学校長もその点は明言していなかった。

 そこにどういう意図があるかまではわからないけど、もしかしたら私が能力で出現させたことを伏せておきたいのかも知れない。

 天使に皆の興味が向いていたからか、投影機に対して必要以上の質問が出ていなかったけど、出所について尋ねられていたら『私が』とは言わなかった可能性が高そうだ。

 どういう形の答えが返されたかはわからないけど、ウソを見抜ける那美さんがいるので、下手なことは言えない。

 ウソをつかれたり、隠されたことに過剰に反応してしまう子もいるかも知れないと考えると、月子教授の『説明する必要が薄れる』という言葉には、下手に情報を出して混乱を巻き起こさずに済んだという意味合いもありそうだ。

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