漆之捌 お願い
「ズバリ、頭に思い浮かべたことをそのまま映像として取り出す機能です」
花子さんが興奮気味に口にした機能に、私の頭は即座にフリーズした。
言ってることはなんとなくわかる。
でも、そんな機能想像もしなかったはずだ。
「百聞は一見にしかずです。実演しますね」
花子さんはそう言うと、躊躇無く暗幕の中に手を入れる。
直後、スクリーンに映像が映し出された。
「これ……って、な、何を映してるんですかっ!!」
瞬時に身体の奥から全身に回った熱の速度に押されるように、私は抗議の声を上げる。
対して花子さんは平然と……いや、多少笑っているような様子で「凛花さんの入浴シーンです」と言い切った。
「な、なん、そんなっ!」
「私の視点ですから、カメラの映像では無いとわかりやすいでしょう?」
ニコニコと笑みを浮かべながら言う花子さんは更に、鼻息荒く「安心してください!」と一段声を大きくする。
「な、なにがっ!?」
既に勝手に入浴シーン……裸を投影されてる私からすると、安心出来る要素なんて存在するわけが無かった。
が、花子さんは自信ありげに「ほら!」とスクリーンを指し示す。
「ちゃんと、放送してはいけないところは隠していますから!」
「放送しては行けない所って……」
「いわゆるデリケートゾーンというか、プライベートなところというかですね……具体的な説明が必要ですか?」
「い、いりませんよっ! 見ればわかりますし!」
私の言葉に、花子さんは大きく頷いて「ですよね~~」とご機嫌な声で返してきた。
のほほんとした悪意の欠片も感じない花子さんの返しにもの凄い疲労感を覚えながらも、映像に対しての抗議だけは続ける。
「そうじゃなくて!! 何で入浴……私の裸なんですか!」
改めて声を強めて問いただせば、ようやく伝わったのか、花子さんは「あっ」と声を上げた。
新発見に舞い上がっていたとはいえ、少し察しが悪いんじゃ無いかと思ったのだが、返ってきた花子さんの発現に、私は更なる疲労感を覚えることになる。
「林田先生に見られちゃったのが恥ずかしいんですね? でも、大丈夫なんですよ」
「へ?」
「林田先生の正体は実は私のお姉ちゃんで、雪子お姉ちゃんの妹の、月子お姉ちゃんなんです!」
気が付いた時には、私は両手両膝を床に付けていた。
何をどこから正すべきなのか、考えながら四つん這いになった私の頭の上で雪子学校長の声が響く。
「花子、卯木くんを揶揄うんじゃ無い」
「え?」
雪子学校長の言葉に、顔を上げると、視線の先で花子さんが「だって、凛花さんの反応が可愛いので」と頭を掻いている姿が見えた。
花子さんが私を揶揄っていたのはわかるものの、どこら辺がそうだったのかがわからず、マヌケにも「え?」と同じ声が出る。
そんな私に視線を向けて、花子さんは手を差し出してきた。
躊躇いながら花子さんの手を握ると、手を引かれて私は立ち上がる。
花子さんは手を離すと「一応、お風呂のシーンにしたのは、カメラ類で撮影した映像では無いと示すためです」と言うので、私は改めてスクリーンに視線を向けた。
私の身体を洗うためにボディソープを染み込ませたスポンジを泡立たせたり、お湯の入った桶を手にしたり、私の背後に回って背中を洗う口径が映し出されている。
そのどれもがカメラで撮影されたモノと言うよりは、花子さんの視界が捉えたモノと言った方がしっくりくるように感じられた。
私がそう思っていると、花子さんは「私は流石に入浴中まではカメラの類いを持ち込んではいないですし、これが私の視線だというのはわかりますよね?」と問い掛けてくる。
実際私もそう思っていたので、花子さんのと意に素直に頷いた。
すると花子さんも頷き返してくる。
その上で私の身体に掛かっているモザイクを指しながら「そして、この処理は私がモザイクを掛けたいと思ったから掛かっているんです」と言い放った。
内容よりも、モザイクを指さされたことに、私は思わず「なっ」と声を漏らしてしまう。
それをどう認識したのか、花子さんは「ですから、こういうことも出来ます」と口にした。
すると、間を置かず私の一部を隠していたモザイクが黒一色に塗り変わる。
「もちろん、黒塗りとモザイクを外すことも……」
「ちょ、だ、だめですよ!!」
花子さんの言葉に私は慌ててスクリーンを隠すように両手を広げてその前に立った。
すると、月子教授が「凛花さん」と私の名前を呼ぶ。
「な、なんですか!」
「それでは結局映像が身体に映る。プロジェクターの映像を隠したいなら、プロジェクターの方に張り付いて身体を蓋代わりにする方が効果的だよ」
私は冷静な月子教授の言葉に頬が熱くなるのを感じながら、無言でプロジェクターの前に移動した。
言われたまま行動するのは恥ずかしいが、モザイクも黒塗りも無い裸をスクリーンに大写しにされるのは恥ずかしいので、とりあえずプロジェクターのヒカリをお腹で受け止めつつ最接近する。
振り返れば、スクリーンには何も投影されていなかった。
一瞬、私の身体で塞いでも、平然と映し出されるのではという恐れもあったが、そこは大丈夫だったらしい。
私は「はっぁ」と大きく息を吐き出してから、花子さんに視線を向けた。
「あの、花子さん……映像止めて貰って良いですか?」




