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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第漆章 天使降臨
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漆之伍 思考実験

 私の切り返しに対して、月子教授は「ウソはいけないよ」と目を細めた。

 それと同時に月子教授が纏った空気に、私は無意識に喉を鳴らす。

 対して月子教授は、完全に私の思考を読み切っているといわんばかりの自信に満ちた態度で、ゆっくりと次なる言葉を口にした。

「とても素直な女の子になってくれたら、私は嬉しいなぁ」

「ちょ……」

 私はそう声に出すと同時に、ゾワリを背中に感じた悪寒に押されるように、こちらに向かって伸ばされていた月子教授の手から逃れるように距離を取る。

「む……勘が良いね」

「勘が良いねじゃ無いですよ、何をする気ですか!」

 なんとなく、ここなら大丈夫じゃ無いかという思える距離を保ちながら、月子教授と対峙した。

「君が、例えば自分を小学一年生くらいだと思い込めば、記憶もそれに準じて、都合良く忘れてしまわないか……そして、子供らしい自由な発想で能力を付加出来るのではないかと思ったのだよ」

 サラリと滅茶苦茶なことを口にした月子教授に、私は断固抗議する。

「思いつきだけで、私で人体実験をしようとしないでくださいっ!」

 月子教授は、抗議をした私に対して「大丈夫」と平然と言い放った。

「な、何が大丈夫なんですか!」

「え? 雪姉がいるから、大きな問題が起きたら元に戻してくれるよ」

 ニコニコと笑顔で言い放つ月子教授に「それ、自分ではどうにも出来ないって事じゃないですかね!?」と私はツッコむ。

「もちろん、緊急事態だからね、君が完全に幼女になってしまったら、雪姉に頼るしか無いだろう?」

 不思議なことをいうなと言わんばかりの顔で返してきた月子教授に、私は底知れない恐ろしさを感じるのみだった。

 流石に私がドン引きだったからか、月子教授は私に配慮するようなことを口にする。

「安心したまえ。私とて、外交を任せられる人材の損失は困るからね。ちゃんと無事元に戻すとも……まあ、骨を折るのは雪姉だが……」

 言葉をとても前向きかつ全力で好意的に受け止めれば、私の不安を和らげようとしているのかも知れないが、完全に逆効果だった。

 むしろ、サイコパス研究者の思考を垣間見たようで、恐ろしさしか無い。

「そんなわけで、早速試してみよう!」

「い、嫌です!」

「嫌なのかい?」

 驚いた様子の月子教授の反応に、私は大きく頷いて見せた。

「大丈夫、花子に頼んで、意識が変わっている間の君も余すこと無く撮影しておくから、何が起こったか後で確かめられる。不安に思うことは無いよ」

「む、むしろ、子供になってる自分を見せられる方が拷問なんですけどっ!」

「フム、意外なところで羞恥心を感じるのだね……既に少女の姿になって、小学生の女の子達と……」

 私に返ってきた月子教授の言葉に、更なるとんでもない言葉に繋がる予感を感じた私は、直感のままに声を張り上げる。

「わああああ!!」

「んんっ?」

 私の大声に月子教授が首を傾げたところで、雪子学校長が「その辺にしてやれ、月子」と割り入ってきた。

 雪子学校長の発言に、どういうことだろうと思わず月子教授を見てしまう。

 すると、月子教授はニヤリと笑って「いや、あまりにも凛花さんの反応が可愛いらしいので、申し訳ない」と言い出した。

 私の口から飛び出した「は!?」という声に、これまで黙ってみていた花子さんが割り込んでくる。

「月子お姉ちゃんの気持ちはわかりますけど、凛花さんを苛めるのは辞めてください。可哀想です」

 いつの間にか私の後ろに回り込んでいた花子さんは、そのまま背中に身体をピッタリ抱き付きながら月子教授に抗議をしてくれた。

「凛花さんなら私の意図もくみ取ってくれるかなと思っていたのだが、そこまでの関係じゃ無かったようで、私は少し残念だよ」

 花子さんの言葉に対して月子教授はシュンとしてしまう。

 ただ、問題は今現在月子教授の見た目は林田先生、つまりかつての私なので、もの凄く居たたまれなくて、叫びだしてしまいそうなむずがゆさがあった。

「私との付き合いが長ければ、凛花さんで人体実験なんて、万が一にもロストする可能性がある手段を私が選んだりしないとわかってくれると信じていたのに……」

 そう言われると確かに合理主義なところがある月子教授なら選びそうに無いなと頷けるのだが、ついさっきは素直にしかねないと思い込んで私は恐れを抱いてしまっている。

 何故だろうと思い始めたタイミングで、すかさず月子教授は「これも少女になってしまった弊害かも知れないな」と口にした。

 私の「え?」という戸惑いの言葉が、説明を求める声に聞こえたのか、月子教授はスラスラと説明を始める。

「要は以前の男性だった時に比べて、警戒感が強くなったのではないかということだね」

 月子教授の言葉に、シレッと花子さんが「凛花さんはかなり可愛いですから、自分の身の安全を考えるようになったのは良い傾向ですね」と口を挟んできた。

 その内容に、思わず顔が火を噴きそうな程熱くなる。

 月子教授はまたもニヤニヤと私を見ながら「君は女の子になったことで、男の時よりも自分の身の安全についてや、自分に対する他者の影響などの外的要因に敏感になっている。女性そのものが持っている本能に由来するモノか、あるいは変わったという認識をしたことで君自身が無自覚に発揮した防衛意識か、いずれにせよ気になるところだ」と一方的な感想とも、推測ともとれる言葉を解き放った。

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