漆之弐 姉妹集合
「ふむ……外見はソレっぽいね」
雪子学校長の感想に、私は素直に頷いた。
正直、情報番組やニュース番組で見たことはあるものの、私は実機を見たことはない。
当然ながら、朧気な記憶を元に出現させたお掃除ロボットは『コレコレ!』ではなく『ソレっぽい』外見となっていた。
「とりあえず、スイッチとかあるのか……ね?」
私に視線を向けて首を傾げる雪子学校長だが、私も正直9構造を詳しく知らないので「多分?」と曖昧な返答をすることしか出来ない。
そうして、私と雪子学校長は見つめ合ったまま、お互いに微妙な表情を向け合った。
が、そんなことを続けていても、状況が変わるわけも無いので、私は提案を一つしてみる。
「さわって、みますか……?」
「う、うむ」
雪子学校長は私の提案に、ぎこちなく頷いた。
そこでもお互い見つめ合ったまま微妙な間が空いてしまったが、私は意を決してお掃除ロボットに手を伸ばす。
「ま、待ちたまえ!」
おっかなびっくり手を伸ばしていたタイミングでの雪子学校長の言葉に、私の「はっはいっ!」と言う声は裏返ってしまった。
「き、機械は下手に触ると危ないからな、助っ人を呼ぼう」
真剣な表情で言う雪子学校長に、私は「そうですね」と素直に頷く。
そうして、私たちは救援を呼ぶことにした。
「ほう、イメージだけでこれを形にしたのか、興味深いね」
林田先生の姿のままの月子教授は、私の出現させたお掃除ロボットのような円柱に顔を近づけて観察していた。
一方、月子教授と共に呼ばれた花子さんは「これ、私と月子お姉ちゃんが一緒に来る必要ありました?」と首を傾げている。
花子さんは、ちょうど明日の食事の仕込みをしていた途中だったらしいので、そこは凄く申し訳なかった。
「私と卯木くんは残念ながら、機械に得意な方では無い。救援を求めるのは当然だし、この方向の知識は月子と花子のどっちが得意かよくわからんから仕方が無いだろう」
開き直りともとれる雪子学校長の発言に、花子さんが「お姉ちゃんは自分で覚えるという発想はないんですか?」と呆れた様子で問う。
対して雪子学校長は「適材適所は重要なのだよ。特に人的資源に限界がある場合はね」と悪びれも無く言い放った。
「……お姉ちゃん」
溜め息と共に『そんな大袈裟な話じゃ無いでしょう』という訴えが聞こえてきそうな視線をぶつける花子さんだったが、雪子学校長は揺るがない。
代わりに月子教授が動いた。
「触ってみて使い方を覚えるほうが、雪姉には向いてると思うよ」
言いながら月子教授は、私が出現させたお掃除ロボッテを手に取って、検分し始める。
その大胆な行動に、私は思わず息を呑んだ。
「凛花さんは制作者として、品評が気になるかな?」
コンコンと表面を叩いて音を確認しながら、月子教授がこちらに視線を向けてくる。
「実機を知らなかったので……その、イメージだけで作ったので……ちゃんと出来てるか不安なんです」
私は素直に自分の思っていることを口にすると、月子教授は笑みを浮かべて頷いた。
「まず、スイッチはないね」
「へ?」
何を言われたのか飲み込めず戸惑っていると月子教授は私を放置して花子さんに声を掛ける。
「花~これに似た商品画像だせるかな?」
「はぁ……月子お姉ちゃんは、相変わらず無茶振りを……」
と、言いながらも花子さんは手慣れた手つきで、どこから取り出したのかわからない程のスピードで複数のリモコンと電子パッドを操作し始めた。
恐らくその行動の結果なのだろうけど、特訓場の照明は少し暗くなり、部屋の天井からスクリーンとプロジェクターが現れ、私の出現させた物体に似た造形のお掃除ロボットが映し出される。
あまりの鮮やかさに、私は思わず「おー」と拍手を贈ってしまった。
「り、凛花さん。大したことじゃありませんから、拍手は辞めてください」
花子さんにとっては不意打ちだったからか、恥ずかしげに言うその頬は赤く火照っているように見える。
「いやいや、花子。少女からの純粋な賛辞は素直に受け取っておきなさい」
「しょっ……」
シレッと少女といった月子教授に驚いて振り返れば、その口元はニヤニヤと笑っていて腹が立った。
特にその顔が林田京一、つまり元の私の顔だというのが苛立ちに拍車を掛けている。
月子教授の言葉と態度にイラつく私に対して、花子さんは「そうですね」と口にして、私の頭に手を置いた。
「花子さん?」
振り返って見上げると、花子さんがとても嬉しそうな顔で「ありがとうございます、凛花さん」と微笑む。
すっきり月子教授への抗議を忘れて、私は「す、凄いなと思ったので」と伝えた。
すると、更に花子さんは笑みを浮かべて「これが凛花さんの出現させた機械に一番にていると思うんですけど」と顔を動かして私の視線を誘う。
花子さんの誘導で視線を移した先の商品映像を見た瞬間、私は『これだ』と思った。
頭の中にあった記憶と完全に一致したのがなんだか嬉しくて、花子さんへの報告の言葉が弾んでしまう。
「まえに私がテレビで見たのはこれだった気がします!」
私の言葉を花子さんは頷きで受け止め、月子教授は「流石、花だね。いい仕事ぶりだ」と花子さんの仕事ぶりを賞賛した。




