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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第陸章 師匠到来
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陸之弐拾 不変

「そうなん、ですか……」

 月子教授の言葉に、私はすぐに頷けなかった。

 特に引っかかったのが、那美さんの存在である。

 那美さんは人のウソを見抜く力を持っていて、こちらでも普通に使っていた。

 そこに矛盾があるように思ったのだが、落ち着いて考えると、月子教授は『自分以外影響を与える能力』と限定していたので、那美さんの能力は枠の中に入っていることになる。

「『神格姿』の能力は自分に効果のあるもの以外、子供達は発動しない……」

 確認したわけではないので、月子教授の言葉を信じればということになるのだが、確認すればわかることなので恐らく事実なのだ。

「生身で『神格姿』を得ていることが、こちらの世界で自分以外に対する能力を使う条件……ということですね」

 月子教授は私の言葉に深く頷く。

「球魂の状態で『神世界』に入ると自動的に『神世界』での姿を得るわけだが、これを元々は『神格姿』と呼んでいた。当然、私たちのような肉体そのものを変容させて得た姿も『神格姿』と呼ばれていたのだが、これまでの蓄積と研究の結果、球魂の状態で得た『神格姿』は、精神状態によって変化することがわかった」

「それは……」

「しかも能力も変化する場合もある」

 月子教授はそこで一拍間を開けてから「子供の柔軟性というべきか、不確定性というべきか、その性質故に戦力としては不安が残るというわけだ」と結んだ。

 言葉をそのまま受け取れば、月子教授は子供達は使えないと言っている様に聞こえるが、実際は『だから子供達を戦力化せずに済んでいる』……つまり、巻き込まない言い訳にしているって事だと思う。

 だからこそ、私たちが有用性を示さなければいけないというのは頷けた。

「子供達を巻き込まないためにも、この学校を維持するためにも、月子教授のような役割を私も果たさないといけないって事ですね」

「ようやくかね。まったく、君は何年私に師事しているんだ」

 やれやれと言わんばかりに、手の平を上に向けて、そう言い放った月子教授だが、どこか嬉しそうなその表情に、誇らしさのようなものを感じてしまって、私は怒り出せずに苦笑を浮かべる。

 完全に手の内を見透かされているなぁとは思うのだけど、残念ながら気分は悪くないのが、問題だと思った。


「先ほども言ったが私達の『神格姿』は、容姿、能力共に変容しない」

「ん……」

 サラリと聞き流せないことを言われた気がして、私は月子教授の目を見詰めた。

 その目は真っ直ぐと私を見詰め返している。

 揺るぎの無い月子教授の視線に、私は猛烈に不安を覚えた。

 そうして改めて言葉を吟味した結果、引っかかった部分に気が付く。

「あの……容姿が変化しないって言いました……か?」

「いったね」

「どういうこと……で、しょうか?」

「言葉通りだが?」

「容姿が変わらないというのは……年を取らない?」

 月子教授は私の問いに対して「細胞は老化するから、そういう意味では不老ではないし、当然、不死というわけでは無いよ」と返してきた。

 その言葉に呆然としている私に対して、月子教授は「とはいえ、見た目は成長しないわけだから、いつまでも凛華くんは美少女のままだ! ナルシストにはこれ以上無い『神格姿』の恩恵だな」と言い加える。

 更に月子教授は声を弾ませて言葉を重ねた。

「雪姉の年齢操作をせずに、どの小学校にも潜り込めるな。素晴らしい」

 私は「教授が私を活用しやすいと思っているのだけはよくわかりました」とジト目を向ける。

 そんな私の視線で月子教授が怯む訳もなく、平然とした態度で「理解が早くて助かる」と笑った。


「まあ、最近は優秀なパッドもあるから、成長が無いことを嘆く必要は無いぞ」

 サラリととんでもないことを言う月子教授に、言葉をトゲだらけにして「セクハラですよ」と指摘した。

「ふむ、君に戸籍が、この国……まあ、どこの国でもいいが、その国の国民である証が無いと訴訟は起こせないぞ」

 月子教授の返しに、私は戦慄を覚える。

 確かに、この学校では一人の人間として扱われているけど、元々存在しなかった『卯木凛花』に戸籍があるわけが無いのだ。

 自分が存在しない幽霊にでもなった気分に浸っていると、月子教授は笑みを深めて私を見る。

「思ったように転がってくれるのは愉快だが、少し可哀想なのではっきりと断言するがね。君の『卯木凛花』としての戸籍も保健も用意されているから、安心したまえ」

 月子教授の言葉に、私は「なんで不安になるようなことを言うんですか!」と訴える私の視界は少し潤んでいて、鼻が少し痛かった。

 私の感情は大爆発しそうだというのに、月子教授は平然とした態度で「テストだよ」と切り返してくる。

「ひ、人の気持ちを弄んでおいて、何のテストですかっ!」

 月子教授の揶揄いは、一線を越えていると判断した私は、徹底抗戦するつもりで怒鳴った。

 けど、それにも態度を変えることなく、月子教授は平然と切り返してくる。

「雪姉から説明のあった戸籍と保健の件を君がちゃんと覚えているかのテストだよ」

 心の内が怒りで満ちていたために、私は裏返った声で「へっ?」と発することしか出来なかった。

「どうやら、忘れていた……いや、聞き逃していたのか、いずれにせよ、情報のすりあわせが必要なようだね」

 苦笑交じりの優しげな眼差しが心を抉ってくる。

 ちゃんと説明を受けていたのに、勝手に不安になって、勝手に切れてしまった自分がとてつもなく恥ずかしかった。

 月子教授の言う通り、私には情報のすりあわせが必須だと悟り、頭を下げる。

「教授、いろいろ確認させてください」

 対して月子教授は「もちろんだ、我が弟子よ」と芝居がかった所作で返してみせた。

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