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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第陸章 師匠到来
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陸之拾玖 価値

「私たちが活躍すれば、ここの運営費に関して問題視されることは限りなく無くなるわけだ……そんなわけでここを護るためにも、協力して欲しい」

 月子教授は真剣な眼差しでそう言った。

 その態度や言葉を疑うことは出来るけど、私は何故か、月子教授は単純にこの学校を護りたいだけなんじゃ無いかと感じる。

 私がそう思い込みたいだけかも知れないけど、でも、ここを護りたい気持ちはよくわかるので「私の出来る範囲で」と返した。

 すると、月子教授は呆れた様子で大きな溜め息を吐き出す。

 あからさまに私の返しに対しての行動なので「な、なんですか?」と、溜め息をついたことに説明を求めた。

「君は思考力が高いのに、自分自身への認識が甘いというか、過小評価気味だったのを思い出したよ」

「ど、どういうことです」

「君は自分の価値がわかってないと言うことだ」

 きっぱりと断言する以上、月子教授の言う通り、私は何かを正確に認識していないのに違いない。

 しかし、私にはそれが何か思い当たらなかったので、素直に頭を下げた。

「すみません、わからないので、ヒントだけでもください」

 月子教授は私の要請に対して「要は君と、子供達の決定的な違いだよ」と口にする。

「決定的な違い……ですか……」

 声に出して反芻しながら、そのヒントから導き出せる答えを探すことにした。

「まずは、経験?」

 そう口にした私の脳裏に那美さんの姿が浮かぶ。

 那美さんは能力を維持するために、身体の時間を巻き戻し続けていた。

 記憶の曖昧さという点はあるが、経験はそれなりに積んでいると思う。

 少なくとも能力についての経験値で言えば、那美さんの方が上なので、私が劣っていると考える方が自然だ。

「じゃあ、知識?」

 私は一応とはいえ、大学で教育課程を修めているので、子供達とはかなりの差があるのは間違いない。

 なるほど、これが正解だろうと思って月子学校長を見れば、またもや大きな溜め息を吐き出されてしまった。

「……不正解、ですか……」

「無価値とは言わないがね。それ以上のものが君にはある……いや、私たちにはといった方が君も見当を付けやすいか……」

 とても面倒くさそうに言いながらも、月子教授はヒントを増やしてくれたらしい。

 増えたヒントは『私たち』だ。

 月子教授の性格とこれまでの付き合いからすると、私と教授だけなら『私たち』ではなく『君と私』と表現する。

 だとすると『私たち』に含まれる人間が他にもいるということだ。

 そこに入るのが誰かを考える前に、私と月子教授の共通点を考える。

 まず、同じ大学の関係者だが、他の人との関係がわからない上に、それ程価値があるとは言いがたいので、これに関しては保留することにした。

 次に思い付いたのは、大人……これなら雪子学校長や花子さんも候補に入る。

 那美さんも含まれるかも知れない……けど、最初のヒントの『子供達』で括ると違うと思われた。

 ならば、那美さんが境になるのではと考えて、私は一つの単語に行き当たる。

「……球魂」

 口にした直後、これが答えなんじゃ無いかという思いが強まった。

 何しろ『神世界』に突入する際に、球魂か、生身かは、私と子供達の決定的な違いといえる。

 それが正解かどうかを確認するために、月子教授に私は尋ねた。

「価値……か、どうかはわかりませんけど、狐人間の姿……とかですか?」

「なんで、そうなる」

 あからさまに疲れた顔で月子教授はそう言った後で「それほど自分の容姿に自信があると言うことか」と言い放つ。

「ち、違いますよ、何でそうなるんですか!?」

「狐娘の姿がステータスとかいうからだ」

「言ってませんよ!」

 抗議の声を上げる私だったが、月子教授に「そう聞こえる言い回しだった」と断言されてしまった。

「私の価値は、狐娘の姿ですか……完全に自分の容姿に自信がある人間の言葉にしか聞こえないだろう?」

 言ったそのままでは無いものの、口にした覚えのある言葉の羅列に、私は「うっ……」と声を詰まらせるしか無かった。

「狐娘の姿、球魂とそこまで来て、何故そうなるのか……君、ナルシストが過ぎるんじゃ無いかね?」

「ち、違いますよ! そう聞こえてしまったのは誤解です!」

 必死に違うと訴えるが、私を見る月子教授の視線に変化は無い。

 更に月子教授は、私の言葉を聞く気は無いと言わんばかりに強引に話を進め始めた。

「まあ、どっちでもいいが……君の価値は生身で『神格姿』を得ているということだ」

 あっさりと放たれた答えを聞いた私は、そう言いたかったはずのに、なぜ、狐人間とか言ってしまったのかと、自分の言葉の選択に強い後悔を覚える。

「……信じて貰えないかも知れないですが、私もそう、言いたかったんです……」

 私の言葉に、月子教授は「……君は変なところで間抜けなミスをするというのを忘れていたよ」と苦笑を浮かべた。

「まあ、君がナルシストかどうかは置いておくとして、だ……どうも君は君の能力についての……いや『神格姿』についての認識が甘いかも知れない」

 月子教授の言葉に私は首を傾げる。

「認識が甘い……ですか?」

 私の言葉に月子教授は目を細めて「実体の『神格姿』を持つ者でなければ、こちらの世界で自分以外に影響を与えるような能力を発揮出来ないのだよ」と言い切った。

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