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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第陸章 師匠到来
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陸之拾捌 全貌

「まさか、私にこの学校を離れろと?」

 何故動揺しているのか、自分ではわからなかった。

 けど、月子教授の言葉に含まれていた『他の学校でも馴染める』という発言が、()()()()()()()()()ようにしか聞こえない。

 それは受け入れたくないという思いで私は月子教授の反応を待った。

「ふむ」

 そう口にした月子教授は、顎に拳を当てた姿勢で私を値踏みするように、私の全身に視線を巡らせる。

 じろじろ見られるのはあまり良い気分では無いが、ここは折れるわけにはいかない、私は折れるつもりは無いという意思を込めて、彫像のように動きを見せずに、同一の姿勢と表情を保った。

 月子教授は「これは意外だった」と声を漏らす。

 反応をしないように表情を保ちながら、私は月子教授の言葉の続きを待った。

「君はこの仮初めの環境を失いたくないのだね」

「え……」

 考えてもいなかった角度で、私の行動を捉えられて、私はようやく自分の気持ちに気が付く。

「おや、自覚していなかったのか……なるほど……」

 頷く月子教授を見ながら、今の状況を失いたくないと思っている自分に、気恥ずかしさと戸惑いを感じていた。

 でも、自覚したからか、今を失いたくないという思いは明確に、そして強くなった気がする。

 だから、改めて、私の希望を月子教授に伝えることにした。

「私はこの学校を離れたくありません……生徒としてそうなのか、教師としてそうなのかは、私自身にもはっきりと言えないところですが……」

 口にしたのは偽らざる私の思いなので、どの立場で離れたくないと思っているのかが、私には判断が付かない。

 はっきりとしているのは、雪子学校長、花子さん、舞花さん、結花さん、志緒さん、那美さん、そして、東雲先輩……皆とせめて今年くらいは共にありたいと思っていることだ。

 だから、月子教授が考え直してくれないだろうかと、私は嫌ですという思いを込めてじっと見詰める。

 それに対する月子教授の返しは「何を言っているんだね?」だった。

「だから、私の希望というか……」

「そもそも君を転校させる話などしてないが?」

 月子教授にそう言われた私は、思わず固まってしまう。

 確かに、転校しろと言われていない事に愕然とする私を、月子教授は「はっはっは」とこれまで見たことも無い大笑いで笑い飛ばした。

 その後で穏やかな表情を浮かべて「予想外ではあったが、君が大事なモノを見つけられたようで、少しホッとしたよ」と言う。

 予想もしていなかった穏やかな月子教授の表情に、思わず動揺しながら「……きょ、教授……」と口にするのが私の精一杯だった。

「まあ、そんな君の居場所を奪うつもりは無いから安心してくれ……ただ、代わりと言っては何だが、協力はして欲しい」

「協力……ですか?」

 この話の流れで断れる気はしないし、少なくともこの学校を離れなくて良さそうなので、気持ちの上では、話を聞く前なのに私はもう受ける気でいる。

 完全に月子教授の手の平の上で転がされていることに、計算通りなんだろうなと苦笑しそうになった。

 そんな私に対して月子教授は真面目な顔で「エージェントとして働いて欲しい」と言う。

「エージェント……ですか?」

「潜入捜査というヤツだね」

 正直その響きだけで、ちょっと興奮してしまった。

 身体に引っ張られて子供っぽさが増しているのかも知れないけど、それを差し引いてもエージェントとか、潜入捜査とか、ワクワクしかしない。

 これで興奮するなという方が無理というモノだ。


「最初に君が優先するべき役割は『放禍護(ホウカゴ)』対策に構成メンバーとして参加することだ」

「はい」

 私が素直に頷くと、月子教授は「その際に、小学五年生の少女として挑むのか、そんな少女の姿になってしまった新任教師で臨むのかは、君の選択に任せることになっている」と思わず反応を返してしまいそうな言葉を並べてきた。

「い、いちいち、強調しなくても、良いことだと思います……が」

「確認は大事だよ、凛花さん」

 私は突き子教授の返しを聞いて、これ以上反応するのは喜ばせるだけだと判断して話を切り替える。

「……優先すべきは『放禍護』対策……だけど、費用対効果が低いから、専念せずに潜入捜査に手を貸せと言うことですか……」

 月子教授は「概ね、その通りだ」と頷いた。

「君が誤解しないように、言葉を付け足しておくのだが、ちゃんと『放禍護』に専念した方が良いという人間もいるし、反対に『放禍護』対策など不要という人間もいる。エージェント派遣は折衷案であり、緋馬織関係者の『神格姿』の運用案の一つだと認識して欲しい」

 私は突き子教授の話を聞いて、浮かんだ疑問を問うことにする。

「教授に協力するのは、私だけ……ですか?」

「本来は大人でありながら、子供の容姿を持っていて、精神操作に耐性があるのが条件だからね。まあ、君の他に適任は……私くらいしか居ないんじゃないかと思うよ」

「え?」

「雪姉の術があれば私だって子供の姿になれるわけだ」

 言われて、月子教授が自分の負担が減ると言っていたのを思い出した。

「手分け出来そうな、人材が確保出来て私は嬉しいよ」

 いい笑顔で言い放った月子教授を睨み付けながら問う。

「教授、いつから、企んでいたんですか?」

「企む? 私は何もしていないとも」

 シレッと断言出来る月子教授の胆力に、私は舌を巻くことしか出来なかった。

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