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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第陸章 師匠到来
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陸之拾弐 指導

「今日は実体ですか……」

 夜、普段であれば雪子学校長達と訓練をしていた時間、私は分身ではなく自身の体で、林田先生の部屋にやってきていた。

 普段なら特訓に同席してくれる雪子学校長と花子は、精神操作系の特訓が特性を持たないモノには悪影響を及ぼす可能性があると言うことで参加しない。

 それだけ、林田先生が信頼されているのかと思うと、少し複雑な思いだが、彼はどちらかというと命令に忠実な人のようなので、変な……性的なちょっかいは出さないだろうというのは、私も頷けるところだ。

 まあ、今現在はともかく、私は元々は男性なわけだし、子供相手に手を出したがるような特殊な性質も持ち合わせていないだろう。

「林田先生は紳士でしょうから、こんな子供には手を出さないでしょう?」

 私が挑発するように、そう言えば、林田先生は「いえ、誘惑されてしまったら、理性が保てなくなるかも知れません」と自分で自分の肩を抱きしめながら震えだした。

「ちょ、ちょっと、その姿でそういうこと言ったりやったりしないでください!」

 全身に浮いた鳥肌に震えながら、私は抗議の声を上げる。

 煽ったのは私だけど、その返しにしても悪質だ。

「君から挑発してきたんじゃありませんでしたか?」

「……謝罪するので辞めてください」

「わかりました」

 平然と受け入れる林田先生に、微妙に腹が立つが、完全に彼の方が上手なので、下手な抵抗をせずに話を進める方向に舵を切る。

「それで、雪子学校長からの依頼で、私に精神操作の技術を教えてくれるんですよね?」

 私の言葉に露骨に面倒くさそうな顔を見せた林田先生は「まあ、そうなりますね」と溜め息をついた。

 しばらく溜め息をついた姿勢のまま床に視線を落としていた林田先生は、もう一度大きく溜め息を吐き出すとこちらに視線を向ける。

「正確な依頼内容は、もしも凛花さんに、精神操作系の能力があれば、制御出来るように指導して欲しい……です」

 私林田先生に頷いて「なるほど」と返した。

「凛花さんは既に、私……僕の意識の上書きに疑問を抱き、(くつがえ)していますよね」

「え、あ、はい」

 一瞬、一人称の言い直しが気になったが、彼も林田京一を演じているわけで、単に言い間違いだろうと流すことにする。

 林田先生も自分のやらかしに気付いていたのだろうか、少し止まってこちらを覗っていたのだが、私が肯定以外の反応を示さなかったのを見て、改めて口を開いた。

「……それが出来る時点で、凛花さんには精神操作に対する耐性があることがわかります」

 私は思わず自分の手の平を見る。

 それで何かがわかるわけでは無いが、綺麗に意識を上書きされていた雪子学校長や皆の姿を思い浮かべると、私が皆と違っていることは間違いなさそうだ。

 何かを持っている実感はあるものの、確証と言える程強いモノを見つけられずに、多少呆然としていた私に向かって、林田先生は自分のペースで続きを口にする。

「耐性があると言うことは、つまり、その才能を持っているということです」

「つまり……」

 私は手首の数珠にいつの間にか触れていたことに気づき、ゆっくりと視線を向けた。

「あー、そんなに気にしなくて良いですよ。君に皆が引き寄せられてるのは事実ですが、君の能力が暴走しているわけでは無く、単に君自身が表情や態度、反応で、構いたくなるような空気を振りまいているだけですから」

 シレッと言い放たれた言葉で、頭が真っ白になる。

 が、徐々にその意味を理解していくと、羞恥心がこみ上げてきた。

 生まれついての女の子なら、喜ぶところかも知れないけども、ここまで男としての人生を歩んできた私からすると、能力で魅了していると言われた方がマシである。

「可愛らしい外見にふさわしい可愛らしい仕草や言動を見せられれば、それは気を引いて当然だと思うね。いや、もう、素晴らしい才能の持ち主だね、凛花さんは」

 わざわざパチパチと音が立つように拍手をして言い放つ林田先生に対して思わず手が出た。

 渾身の力を込めた右ストレートだが、椅子に座ったままの林田先生は難なくそれをかわした上に涼しい顔で「いきなり暴力に訴えるのは良くないですよ、お嬢様」と言い加えてくる。

 ピクピクとこめかみが震えるのを感じた瞬間、私は身体の底から沸き起こった衝動のままに身体を回転させた。

 左足を軸にして起こした回転の勢いのまま、右足を林田先生の頭の斜め上を通過させるように蹴りを放つ。

 林田先生を蹴ろうとしたわけでは無く、私の怒りを見せるつもりなので元から当てる気は無かった。

 多少怯んでくれれば少しは気持ちがすっきりするかもと思ったのに、あろうことか、足を上げた状態で林田先生は私の足首をあっさりと掴んでしまう。

 この場に来るのに着てきたのは上下が一体になっているワンピースで、私の足は林田先生の上を通過させるために彼の頭より高い位置にあった。

 その足首をつかまれて、こちらに視線が向けば、自然と、ワンピースの中が見える。

 大きくため息を漏らした林田先生は「スカートやワンピースを着る時は、下着が見えないようにスパッツやブルマを履きなさい」と言って私の足首を掴む手を離した。

 足が地面に着いた後で、ふわりとワンピースの裾が私の足に触れる。

 どう表現して良いのかわからない感情に、私は頭を抱えてその場にうずくまることしか出来なかった。

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