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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第陸章 師匠到来
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陸之陸 友達

「リンちゃん、大丈夫だった?」

 教室に戻った私を最初に出迎えてくれたのは舞花さんの言葉だった。

 状況は見通しのきかない状況になりつつあるだけに、そんな純粋な気遣いの言葉がもの凄く嬉しい。

「大丈夫でしたよ」

 そう返した後で、心配してくれたことに対する感謝を伝えたくて、言葉を付け足した。

「舞花さん、心配してくれてありがとう」

 私のお礼が予想外だったらしい舞花さんは、ほんの僅かに動きを止めてから「友達だから、し、心配するのは当たり前だよ」と返してくれる。

 それも嬉しくて、私は「そうですね。私も舞花さんの立場なら絶対心配します」と返すと、近寄ってきた舞花さんが私の手を握りしめた。

「何があっても、舞花は、リンちゃんの味方だからね!」

「は、え……はい?」

 何でそんな力一杯宣言してくれたのかわからず、瞬きしていると、那美さんが助け船を出してくれる。

「マイちゃん、どうやら、リンちゃんは京一先生に告白しに行ったわけじゃなさそうよ」

「は?」

 那美さんの言葉で舞花さんの思考の過程はおおよそ見当が付いたが、何所をどうしたらそういう思考になるのかがまったく理解出来なかった。

 そんな私の困惑が表情に出ていたんだろう舞花さんが「だってね」と話を切り出す。

「ほら、リンちゃんすっごく深刻な顔してたし、初めて京一先生見たすぐ後だし、リンちゃんは大人っぽいところがあるから、大人の人が好きになったのかなと思って」

 舞花さんの説明を聞きながら、周りからはそんな風に見えていたのかと、自分の浅はかさを思い知った。

 とはいえ、恋愛感情なんて湧くはずもないので大きく首を左右に振って「そういう事じゃ無いよ」としっかりと否定しておく。

 その上で、那美さんにウソをついていると思われないように、極力事実に近い言葉を選び取りながら言葉を重ねた。

「私が林田先生を追い掛けたのは、林田先生に確認したいことがあったの」

 私の言葉に、志緒さんが「確認したいこと?」と首を傾げる。

 志緒さんに頷きで応えた後で『詳細は言えないけど、廊下で合流した後、雪子学校長と』と声に出さず頭の中だけで言ってから「呼び方の話をしたの」と最後だけを声に出した。

 胸の中とはいえ事実を思い描いた上で、声に出したのも単純な事実だったお陰か、那美さんはこくこくと頷いて流してくれる。

 もしかしたら、私の心理が見えているので、何か察してくれたのかも知れないけど、どちらにしてもこの場で踏み込んでは来ないようだ。

 一方、舞花さんは私の話した内容の詳細が気になったようで「呼び方の話?」と首を傾げる。

 私はそれに頷きつつ「林田先生を、皆が京一先生って呼んでるみたいだったし、林田先生も皆を名前にさん付けで呼んでたみたいだから……」と返すと、志緒さんが「ああ」と大きく頭を上下させた。

「始業式の日って、未だリンちゃんは転校してきてなかったね」

 志緒さんの言葉に、舞花さんも「そういえば、そうだった」と目を丸くしてポンと手をたたき合わせる。

 そんな舞花さんにクスクス笑いながら、那美さんが「なんだか、ずっと一緒にいる気がするもんねぇ」と私に視線を向けてきた。

「そ、そう、ですか?」

 急に笑みを向けられて慌ててしまった私に、結花さんが「なっちゃんの感覚、ユイにも少しわかる気がするわ」と那美さんに同意する。

「舞花も! 舞花もリンちゃんはずっと友達だったって思うよ!」

 元気よく同意してくれた舞花さんに、志緒さんが続いて「私もかな」と上目遣いで言った。

 嬉しいとは思うのだけど、皆の言葉がなんだかとってもくすぐったい。

 私はそんなふわふわした気持ちに押されるように「皆に受け入れられて嬉しい」と皆に伝えと、皆はそれぞれに笑みを浮かべて頷いてくれた。

 皆が優しくて、私もその友達の輪に加われていることが嬉しい。

 自然とそう考えたが、そこで、猛烈な違和感と言うより、悪寒が私の体中を掛けた。

 じわりと背中に汗が滲んでいく。

 同時に、生徒であった皆をいつの間にか同年代の友達のように思考していた自分に気が付いた。

 その事実に思わず唾を飲み込んだ喉が鳴る。

 なぜなら、私が気付いた認識の変化は、雪子学校長どころか、自分までもが意識を変えられつつあることの証明に他ならないからだ。

 どうしようという焦りは強くなるのに、明確な対抗策が思い付かない。

 ともかく、林田先生の意図がわからない以上、意識を塗り替えられないように、私こそが本物だという言葉を頭の中で繰り返すことにした。

 そんな私の耳に、次の授業の始まりを告げるチャイムが聞こえてくる。

「あ、授業始まるねー」

「席に戻りましょう」

 舞花さんの言葉に、頷いた結花さんは自分の席に率先して着いた。

 自分の席に座ったまま、後ろを向く形でこちらに身体を向けていた那美さんも教壇の方へと座り直す。

 私も私の左右の志緒さんと東雲先輩も席からは動いていないので、全員が黒板を見る形になった。

 その後、間を置かずに教室前の扉が開かれる。

 雪子学校長、林田先生、花子さんの順で大人三人が教室にはいると、次の授業が幕を開けた。

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