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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之参拾 駆け引き

 正直、那美さんの話をすぐに飲み込むことは出来なかった。

 けれども、私の頭には最初に那美さんと会った時の自己紹介の違和感がある。

 自分の学年を花子さんに尋ねていた。

 確かにのんびりした女の子だからと無理矢理納得出来る理由を浮かべることは出来なくは無いが、今、この状況で考えれば、那美さんは身体の時間を巻き戻しを繰り返しているせいで、年齢に関する自身の感覚が曖昧になっているのではと考える方が、しっくりきてしまう。

「……普通はあり得ないって言うところですけど……」

 私はそこで少し間を置きながら、目を閉じて那美さんの言葉を信じようと気持ちを固めた。

「那美さんは……何度も同じ学年を繰り返しているんですね……」

 それは那美さんへの確認と言うより、自分に言い聞かせるための言葉だったが、言い終わるまでの間に。頭の中にこれまで体験してきたモノが過っていく。

 那美さんの身体の時間を巻き戻しているという雪子学校長が、実際に自身の体の時間を巻き戻し、あるいは早送りして、大人と子供を行き来している事実や、そもそも私自身が大人から今の子供の姿になっているという事実だ。

 それに、自分は常識に囚われないと誓ったのでは無かったかと思うと、むしろ、何で那美さんの言葉を飲み込めなかったのかという直前の自分に対する疑問が湧いてくる。

 私がそんな風に一人で思考を巡らせているところに、那美さんの「ねぇ」という言葉が響いた。

「……なんですか?」

「リンちゃん……何度もって、何故そう思うの?」

 声の響きは普段より抑揚が弱いせいか、淡泊に聞こえるけど、私の中の何かが、この返答にはしっかり考えなければいけないと警鐘を鳴らしている。

 なので、根拠であった『初めて会った時に、花子さんに自分の学年を聞いたから』という理由を吟味してみようと考え、気が付いた。

 アレは()()()()()()()()()()

 那美さんと花子さんの学年に対するやりとりを目にしていたのは、林田京一だ。

 当然、私がそのまま根拠として、それを言えば、私が林田京一であると告白するも同然である。

 既に那美さんがその事まで知っているなら隠す必要は無いし、そのまま言えば良いのだけど、そうで無いならば、雪子学校長達と私の正体は臥せるという話を、自ら崩すことになると考えると、安易に口にするわけにはいかなかった。

 けど、那美さんは、本音と建て前が聞こえる能力を持っている。

 迂闊な返し方をすれば、結局バレるだろうし、それならば最初から正直に言う方が誠実だ。

 そんなジレンマに囚われた私の脳裏に『言葉を選んで、那美さんの能力を試そう』という悪魔の囁きが響く。

 那美さんの能力を確かめる……自分の本音を隠した言葉が通用するか確かめる……罪悪感に検証という言葉で蓋をして、私はとても身勝手な理由で、言葉を選んだ。

「……理由は説明出来ない……かな」

 単純に、私が京一で、那美さんと花子さんのやりとりから、何度も同じ学年を繰り返してると推測したとは言えないのだから、その言葉にウソも偽りも無い。

 恐らく本音と建て前が違って聞こえてはいないと思うけど、那美さんは「どういうこと?」と踏み込んできた。

 まあ、私自身、説明出来ないという言葉に嘘偽りが無くとも、それで納得はしてくれないだろうなと思っていたので、当然の流れだと思う。

 なので、用意しておいた次を口にした。

「説明が難しいというか、言葉に出来ないというか……」

 かなり曖昧だけど、それでもウソはついていない。

 けれど、それに対する那美さんの返しは、もの凄い衝撃を伴うモノだった。

「あ~、女……いや『乙女の勘』ってことかなぁ」

 何故に言い直したのかを花子さんだったら間を置くこと無く問いただしていたが、残念ながら相手は那美さんであり、ここで感情のまま暴走すると、検証にならない。

 最初は言い訳として持ち出した『検証』に、冷静さを取り戻して貰ったことが可笑しくて、情けない苦笑が出そうになった。

 とはいえ、何かアクションを起こさないといけないので「そ、そうかも」と曖昧に返す。

 正直、子の身体へと変わってから、直感というか、物事に対する勘が冴えてきている自覚はあるので、その勘が働いているという可能性は常に考えてはいた。

 裏付けとして、花子さんとのやりとりを想起したけど、そこに至るきっかけは勘のようなモノだと思っている。

 なので『勘か?』と聞かれれば『そうかも知れない』というのはウソでも何でも無いのだ。

 ただ、その勘を『女の』とか、ましてや『乙女の』と形容されてしまうと、途端に羞恥心が爆発してしまう。

 ちゃんと、私自身、今の性別は女性で、小学生くらいの年齢で、林田京一では無く、卯木凛花だと認識しているし、女生徒として振る舞う覚悟もした。

 不意打ちの言葉に弱いだけで……。

「ねぇリンちゃん、大分抱き合ってたから、お互い熱くなっちゃったね」

「うぇっ!?」

「寝る前にさっぱりしたいから、お風呂入ろうか?」

 那美さんからのお誘いに、私はすぐに答えを返すことは出来なかった。

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