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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之弐拾捌 心の色

「暖色系の色は気持ちが前向きな時に出やすいと思うなぁ」

 私はメモりを取りながら、那美さんの色解説を聞いていた。

 京一(私物)のパソコンが使えれば楽なんだけど、今の私は別人なので、事実が露呈する手段は選択しないようにしている。

 まあ、今解説してくれている那美さんは、たまに漏れる私の本音なんかを聞いているようなので、バレてしまっているかも知れないけど、こちらからわざわざ踏み込んで状況を悪化させることもないので、触れないことにした。

 那美さんならよっぽど変なことをしなければ、京一と凛花の繋がりを言いふらすことは無いという勘頼りのあやふやな確信もある。

 いや……確信と言うよりは、希望に近いのかも知れないが、どちらにせよ、知らないなら触れないし、知っているなら那美さんの裁量に任せることにした。

 決して、思考や決断を放棄したわけじゃ無い……と、思う。

「ふふっ」

 いろいろ考えていたせいか、また那美さんに笑われてしまった。

「もしかして、感情の色が?」

「百面相もしてたし、リンちゃんは本当に面白いわぁ」

「う、くっ」

 顔まで動いていたとは思っていなかったので、とてつもなく恥ずかしい。

「ピンクから紫に近いから……恥ずかしい……かなぁ?」

 頬に右手の人差し指を当ててコクリと首を傾げる那美さんの言葉に「あ、あってます」と返した。

 一応、どの感情がどの色に見えるかは、那美さんも研究中らしいので、サンプルの提供は不可欠と思ったからだが、自分で自分が恥ずかしいことを表明するのは、なかなかに精神的なダメージがある。

「ん~黒っぽい緑だから、虚しい……じゃなくて、困ってる感じかなぁ……ピンクと混じってるから、すっごく色合いは可愛いけど……リンちゃんはお顔真っ赤だねぇ」

 呼吸音ですら聞き取れそうな程顔を寄せた那美さんに、顔中をじろじろと観察されながら状況報告されるのはかなり複雑な気分だった。

 でも、どんな風に私の感情が見えているのかを、聞くだけでも面白いと思えてしまう。

「え、ここで、オレンジが強くなるの!? リンちゃんは好奇心の塊なのねぇ」

 苦笑気味に言う那美さんを診た私は、ただたただその目の捉える感情の正確さに感動していた。

「え!? 黄色……金色混じり……って、もしかして、尊敬の念!?」

 普段はのんびりとしたリアクションしかしない那美さんが、とてもフレッシュに驚いているので、おかしくなってしまう。

 でも、情報は提供しなければシドは上がらないので「はい」と頷いてから言葉を補足することにした。

「那美さんの感情を捉える能力が本当にスゴイなぁと思って! その目や耳があったら、傷ついてる人や困ってる人に手を差し伸べられるなって! もっと傷つけることや誤解されることを不安に感じすぎずに寄り添える素敵な能力だなって思ったんです!」

 話し出してしまったら、口が勝手に口が回ってしまって止まらない。

 けど、口にしているのは私が思ったままなので、那美さんも不快にはなら無いだろうと思って、自分の衝動に身を任せることにした。


「リンちゃん!!」

「は、はいっ!?」

 一方的に思ったままを訴えていたら、急に大声で名前を呼ばれてしまった。

 反射で返事を返したのだけど、那美さんは何も言わず、私としても暴走の直後で言葉が見つからず、私たちの間に妙な沈黙の時間がやってくる。

 那美さんが口を開く気配がないので、私はとりあえずその様子を探ろうと、観察の視線を向けると、その瞳が潤んでいることに気が付いた。

「えっ……な、那美さん!?」

 やらかしたという自信と言うか、確信だけはあるので、どうしようという思いから焦りが募る。

 すると、那美さんが「そんな不安そうな気持ちにならないで」と言いながら、私に抱き付いてきた。

 顔の横を那美さんの顔で擦り抜け、肩にその重みが掛かる。

 今の身長では僅かに那美さんの方が高いのでやや覆い被さるような格好の那美さんの抱擁から抜け出素事は出来なかった。

「リンちゃん、こうしていて……」

 耳元に柔らかく、それでいて頼りなく響く那美さんの声に、逃れようとしていたからだが動きを止める。

 この状況が動かせないならと、思考が何で抱き付いたのかについて向かった。

 那美さんの胸に触れている左腕からトクトクと彼女の鼓動が伝わってくる。

 心臓の鼓動の早さに比べて呼吸は長く深かった。

 那美さんが何か覚悟のいることを言おうとしているのがわかる。

 その瞬間、私は『あぁ』と思った。

 私の反応を見たかったんだと思う。

 その目で、色で私の感情の動きを見たくないから抱き付いてきたのだ。

 なぜなら、抗している時皮膚で相手を感じられても、相手を視界に捉える事は出来ないから……それはあくまで私の想像だけど、でも、そうとしか思えない。

 だから私は那美さんを応援したくてその背をゆっくりと撫でた。

 ピクリと那美さんのからだが震えるけど、同時に那美さんの呼吸がほんのわずか止まる。

 もし私に那美さんの感情の色が見えていたなら強い赤、覚悟の色が見えただろうなと思いながら、彼女の背を撫でながら、話が切り出されるのを待った。

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