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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之弐拾伍 苦手意識

 上映会が決まったことで、舞花さんの中でも区切りがついたようで、その後は意欲的に問題集に挑んでいた。

 志緒さんのせっかく上映会をするのに、その前にわかる人同士で話をするのは、ネタバレになるという言葉が効いているようで、授業の間の雑談の話題にもならない。

 ただ、舞花さんのやる気というか集中力はとても増しているようで、もの凄い勢いで問題集を解いていた。

 それとなく確認すると、問題集が終わってしまえば、空いている時間に、いろいろアイデアを練れるからと言うことで、私の知らないうちに雪子学校長から許可を貰ったらしい。

 舞花さんが普段よりも集中して問題集に取り込むことで、その影響はとても良い形で皆に波及していた。

 実の姉であり、双子なので同じ問題集を解く結花さんは、舞花さんの進み具合を見つつ、自信も集中を高めて問題集に挑んでいる。

 双子が集中してくると、一つ上の学年であり、根が真面目な志緒さんも集中が高まるようだ。

 普段だと、他の子が問題集を解く音に反応して、視線を向けたりすることがあるのだが、今日の志緒さんはその回数が極端に少ない。

 そもそもマイペースに課題を進める東雲先輩は、いつも通りだとは思うんだけど、志緒さんが動きを見せないせいか、周囲を観察している私と目が合う回数がいつもより多かった。

 残る那美さんは、全体的に問題を解くのに皆が集中している空気に合わせて、黙々と課題を進めている。

 那美さんは全体を見渡しながらフォローすることに気を配っている節があるので、クラス全体が問題集に向いていて、問題に詰まっている子もいないため、自分の課題に集中出来ているのだ。

 そう考えると、やっぱりこのクラスの要は那美さんなだなぁと、生徒の立場で皆を見て、深く感心させられる。

 教壇から見ていた感じでは、一番対応が難しそうに見えたけど、空気を読むのも上手いし、フォローも優秀で、正直私も何度も助けられた。

 改めて、那美さんの凄さを噛みしめていると、するりと私の横に近づいてきた雪子学校長に声を掛けられる。

「おや、卯木くん、問題を解く手が止まっているようだが……手ほどきしようか?」

 にやにやとい笑いながらいう雪子学校長に、私は大きく首を振った。

「大丈夫です。解き方を思い出したところなので!」

 私の返しに、ニヤニヤしたまま「そうかね」と口にした雪子学校長は、その場で皆を見渡すように視線を巡らせる。

「皆も、手が必要な時は遠慮無く手を上げるように」

 雪子学校長は自分の言葉に皆が「ハイ」と返し、それに頷くと、私の横を離れて教壇の方へ歩いて行った。

 その姿を見送ってから、私も今は一生徒だということを思い出して、目の前の問題集に臨む。

 自分で作った問題集なので、自作自演感というか、ズルをしているような感じはあるけども、答えを完全に覚えているわけでもないので、一応生徒の視線を意識しながら問題を解いていくことにした。


 午後の授業から夕食、夜の自由時間と普段よりも心なし静かな感じがしたのは、舞花さん、結花さん、そして志緒さんの自室への撤収が早かったからだ。

 本人達が言っていたことだが、三人はテーマとなる作品をそれなりに知っているので、私たちに先行して資料集めや出来ることを話し合うつもりらしい。

 残った私、那美さん、東雲先輩では、多少の雑談はできても、盛り上がるような話はし難かった。

 昼間のように、ゲームの話になると那美さんを仲間はずれにしかねないし、かといって那美さんと東雲先輩を巻き込んで盛り上がれる話題となると、学年が違う上に、関係が浅いのもあって思い付かない。

 結局、東雲先輩が私の研究を兼ねて、自分の武装を強化したいと、図書室で借りてきた武器に関する本を読むと言うことで席を立ってしまい那美さんと二人残されることになった。


「リンちゃんって、私のこと苦手?」

「な、何ですか、藪から棒に!」

 慌てて那美さんにそう返した私だが、正直、その質問をされた瞬間、心臓がドキッとした。

「うーん。反応がそんな感じがしたから?」

 可愛らしく首を傾げて言う那美さんだけど、その言葉は私の想像よりも深く胸に突き刺さる。

 私は意識していないが、那美さんから見ると、苦手にしているように見えているのだ。

 だが、私は上手く自分の考えというか、思いを性格に伝えられそうに無い。

 なので、大変情けない話だが、上手くまとめられていないが、ありのままを言葉にすることにした。

「正直、どんな話をしたら良いのか、思い浮かばなくて……」

 私がそう口にすると那美さんは「あら」と笑う。

「どんなことを話題にしてくれても良いのにぃ」

 ニコニコしながら言う那美さんに、私は「そうですよね」と返した。

 その返しが予想外だったのか、那美さんは目を瞬かせる。

 意外な那美さんの反応に、私はフッと気持ちが軽くなった気がして、思ったままを続けることが出来た。

「あの、その、那美さんって、どんな話にも合わせられそうじゃ無いですか? 実際出来ちゃう気がするし」

 パチパチと那美さんの大きな目が瞬く。

「話に合わせてくれるし、話も弾むけど、でも、それって那美さんがしたい話なのかなって思ったら、切り出すのが……」

 そこまで言ったところで、那美さんは思いっきり吹き出した。

 それからお腹を抱えて、これまで見たことの無い大笑いを始めてしまう。

 普段ののんびりゆったりした那美さんのイメージとは違うワイルドな笑い方に、私はその姿をただ見詰めることしか出来なかった。

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