伍之弐拾壱 可能性の模索
武器というのは予想外だったけど、確かにスマホや衣装を出せるなら、出せてもおかしくないと思えた。
そして、そう思えるということは、出せるということだと思う。
ただ、武器は衣装と違って、出せたから使えるという考え方は危険なので、かなりの試行錯誤が必要なはずだ。
少なくとも、私が使うだけなら、実戦で試しつつということも無くは無いかも知れないけど、東雲先輩を始め、皆にも使って貰うならそうはいかない。
「凛花?」
私が黙り込んだことを気にして声を掛けてくれたのであろう東雲先輩に「武器を作れるかどうかを考えていて……」と簡潔に事情を伝えた。
「そうか、無理はしなくて良いぞ」
そう言って笑む東雲先輩に頷きつつ、私は「武器を出現させるのは出来ると思うんですけど、その、戦いで使えるかは、わからないので検証が必要不可欠だなと思っていたんです」と考えていたことを言葉にする。
「確かに武器って、戦ってる最中に壊れたら危ないよね」
志緒さんの言葉に私が頷く一方、那美さんが「でも」と口にした。
それが逆説の言葉だったこともあって、気になって振り返ると、那美さんは笑顔で「私は魔女だから~魔法の杖なら強度は気にしなくていいんじゃ無いかなぁ」と口にする。
「あー」
武器の提案をしてくれたのが、東雲先輩だったのもあって、刀や長刀を思い描いて、視野が狭くなっていたことに気付かされた。
「確かに武器と言っても、直接攻撃をするものだけじゃないですよね!」
「ゲームだと、杖以外にも、魔導書だとか、指輪だとか、魔法のホウキとか、いろいろあるでしょう?」
指を折りながら楽しそうに例を挙げる那美さんの姿に、彼女の『神格姿』が魔女を模しているのは魔女が好きだからなのかも知れない。
と、考えて、私は余計なことに意識が向いてしまった。
じゃあ、私の狐人間は……そこまで考えて私は慌てて頭を左右に振る。
余計なことを考えて、精神にダメージを受けそうだったので、別の方向へ考えをスライドさせることにした。
「魔導書や魔法のホウキとか、ちょっとチャレンジしてみたい気がしますね」
そんな私の言葉に、結花さんが「あっ」と声を上げる。
「何、お姉ちゃん?」
「あ、え、たいしたことじゃない……」
誤魔化そうとする結花さんに対し、舞花さんは容赦なく「何を思い付いたの?」と迫った。
普段と状況が反対なせいか、舞花さんの気持ちが弾んでいるように見える。
一方、結花さんは頬を少し赤くして大きく溜め息を履き出した。
それで覚悟が決まったのか、少し怒った様子で「思い付いたの」と言い捨てる。
対して舞花さんはニヤニヤしながら「え、何を思い付いたの、お姉ちゃん?」と迫った。
「魔法のステッキよ……魔法少女が使ってる……」
「魔法少女!!」
結花さんの言葉の途中で強い反応を示した舞花さんが、私を見て、あっという間に距離を詰めてくる。
「ね、ねえ、リンちゃん! リンちゃんなら、変身ステッキ出せるの!?」
グッとくっつきそうな程顔を近づけて尋ねてくる結花さんに気圧されながらも、私は即座に可能かどうかを考えていた。
スマホアプリとして『異世界netTV』は出現させることが出来ている。
まだ試してはいないけど、イージスの盾を衣装にする事も、武器を出現させることも、試行錯誤は必要としても、出来るはずだ。
そうなると、アニメで見る変身機能を持ったステッキを出現させることも出現させられる気がする。
「……試してみないと、断言は出来ないけど……出来るかも」
私の言葉に舞花さんは「ほんと!? ほんとに!? 試して、すぐ試して! お願いリンちゃん!」と私の手を包み込むように握って訴えてきた。
「あ、うん……」
「やったーーーー!! 舞花、すっごくすっごく好きなアニメがあってね!」
「う、うん」
そこからは怒濤の勢いで、舞花さんの推し語りが始まる。
結局、雪子学校長が教室に戻ってきて、四時間目に突入するまで舞花さんの語りは止まらなかった。
その後、四時間目の終了と共に、舞花さんは教室を飛びだして行ってしまった。
この日のお昼は、食堂で花子さんの用意してくれた料理を給食として食べるので、教室から移動することになる。
皆で一緒に教室を出た直後、私は結花さんに呼び止められる。
「リンちゃん、ごめんね-」
結花さんのその謝罪の言葉が何に対してかわからず首を傾げたけど、すぐに、続く言葉でなるほどと苦笑してしまった。
「舞花、変身ヒロインが昔から大好きで、話し出すと止まらなくなるのよ」
始めは魔法少女の変身アイテムを想像したことを子共っぽいと恥ずかしがったのかと思ったけど、実態は微妙に違ったらしい。
どうも舞花さんには大好きな変身ヒロインモノのアニメがあって、出来ることなら『神世界』で変身してみたかったらしいのだ。
ところが、実際は『球魂』として体からはなれて『神世界』に突入した後は『神格姿』となるため、舞花さんが思い描いていた変身では無かったのである。
そんな一度潰えた夢が叶うかも知れないと思った舞花さんは、テンションが爆発してしまったようだ。
「私は、舞花さんが喜んでくれるなら挑戦したいなって思ってます!」
「……リンちゃん」
心配そうな顔を見せる結花さんに「無理してるわけじゃ無いですよ」と伝える。
「自分の能力の限界は調べる必要があるわけですし、何所まで、どんなことが出来るのか、私自身が興味があるんです!」
力強く言った私の言葉に結花さんは大きく頷いてから「リンちゃんが迷惑だと思ってないならそれでいいわ」と笑った。




