伍之弐拾 みんなで
着地のタイミングでもの凄い論理の飛躍を見せた志緒さんの言葉を飲み込むのには、相当な時間が必要だった。
私の皆を護りたいという気持ちを汲んで、あらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの能力を持つという『イージスの盾』を志緒さんは選んでくれた筈だし、そこに間違いは無い……と、思う。
そのイージスの盾が、神話ということもあって、いろいろな形状があるという話も、単純な事実だと思うけど、まさかそこから私の出現させる衣装の話に結びつくとは思わなかった。
ファッションショーをしたいとか、皆でデザインを考えるとかっていう話はしていたから、突然、降って湧いた話じゃ無くて、むしろ、志緒さんの柔軟な考え方がそれらを結びつけたということだろう。
そう考えると、別段おかしな所は無い……というより、自然な気さえしてきた。
「イージスの盾……衣装……組み合わせるのは大変そうだなぁ」
私は自分の両手の平を見ながら、無意識にそう呟く。
呟いてから、自分が前提として出来ないかも知れないと思っていないことに気が付いた。
むしろ、できる……いや、挑戦して成し遂げたいと言った表現がふさわしい気持ちが溢れている。
だからか、志緒さんに対する私の思いを伝える言葉が、自然と口から出た。
「志緒さんのアイデア、必ず形にするよ!」
「う、うん」
志緒さんが少し照れたような表情で頷いてくれる。
それが思った以上に嬉しくて、私は「よし、頑張ろう」と自分に言い聞かせるように決意を声に出した。
「リンちゃん! 見て! 見て!」
満面の笑みと共に私に紙の束を手渡してきたのは、舞花さんだった。
「えーと」
そう口にしながら紙の束に視線を向けると、そこには女の子の絵が描かれているのが目に入る。
「これって……」
私がそう口にした途端、舞花さんは「その通り!」と言い放った。
正解判定を貰った私には、何も思い浮かんでなかったので、当然頭に浮かんだのは『何が!?』である。
だが、直前に志緒さんに悲しそうな顔をさせてしまったこともあって、そのまま口にするのははばかられた。
なので、ちゃんと正解に則った答えを返したいと思ったのだが、じっと私を見詰めている舞花さんの様子からして、猶予は全くない。
ともかく何かを言わなければと、改めて紙束の上に描かれた絵を見た私は「色が……欲しいかな」と口にしてみた。
すると、舞花さんは「そっか、でざいんって、色も付けなきゃだよね」と大きく頷く。
そんな反応を見て、志緒さんとのしていたイージスの盾の話がバチッと組み合った。
「それにしても早速デザインをしてくれてたんですね」
「うん! 楽しみだもん!」
屈託の無い笑みで言われると、そんなに楽しみにしてくれているのなら、頑張ろうという気持ちが強くなってくる。
「舞花さん! 満足して貰えるように頑張りますね!」
「うん! 舞花もたくさん考えるよ!」
舞花さんの言葉に頷き返すと、結花さんが「良い本があるよ!」と言いながら教室へ入ってきた。
休み時間に入るなり、教室を出て行ったのでトイレにでも行ったのかと思ったのだけど、そうでは無かったらしい。
「家庭科室から借りてきたわ!」
そう言って結花さんは分厚い本を私の机の上に置いた。
「これって?」
私が首を傾げると、結花さんは得意げな顔で「いろんな生地が載ってるカタログみたいな本よ!」とページをめくる。
そこには、生地の名前と、小さな正方形に切り取られた実物の生地が透明な袋状のモノに収められて貼り付けてあった。
カタログと言うよりは、生地のサンプル帳といった感じで、十種類を超える種類の生地が納められている。
「衣装を出現させるには、生地の種類も重要でしょ?」
結花さんにそう問われた私は「確かに触ったことのある服を出すだけじゃ無いなら生地は知らないとだね」と同意した。
すると、舞花さんがパチパチと拍手をしながら「流石お姉ちゃん」と結花さんに微笑みかける。
対して結花さんは苦笑を浮かべて「ユイは舞花みたいに絵を描くのは得意じゃ無いからね」と頬を掻いた。
「でも、舞花はお姉ちゃんみたいに、生地のこと思い付かなかったよ」
絶妙のフォローを入れる双子が、お互いにお互いを補い合っている姿に口元が緩む。
「志緒さんが衣装に能力を付けるっていうアイディアをくれて、舞花さんがデザインしてくれて、結花さんが生地のことを考えてくれて、これはもう、生半可なモノは作れませんね!」
私が決意を込めてそう口にすると、那美さんが「じゃあ、色は私が決めちゃおうかしら~」と、いつもののんびり口調で参入してきた。
「じゃあ、那美さんが、色彩担当ですね」
私はそう頷く、そして、皆に役割が回ったことに気付くと、自然と視線は最後の一人に向かう。
「えっと、東雲先輩は……」
そう私が切り出すと、東雲先輩は眉の間に深い皺を刻み込んだ。
一応、見た目的には男子一人になるので、輪に加わらないという選択もあると思う。
それも仕方ないかと思ったのだけど、東雲先輩はそんな輪を乱すようなことを言う人では無かった。
しばらく考える素振りを見せていた東雲先輩が「凛花に出来ることなのかはかわからないけど」と切り出す。
「オレは武器を考えてみても良いだろうか?」
「あ、はい」
頷きながら、心の中の私は『武器ーーーー!?』と大騒ぎしていた。
 




