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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之拾漆 役割

「そうだよね。皆となら無敵って、思える気がする」

 私が結花さんに視線を向けてそう告げると、白い歯を覗かせて「でしょ?」という答えが返ってきた。

「凛花」

「東雲先輩」

 私の前に同じようにお説教されたという東雲先輩と名前を呼び合った後、お互いに苦笑を浮かべる。

 その後で、真剣な表情で志緒さんが「リンちゃん」と私の名前を呼んだ。

 本当に私が考えを改めたのか、探っているような眼差しに、私は笑みを向ける。

「皆を護りたい気持ちは変わらないし、いざとなったら皆の盾になるつもりだよ」

 私の言葉に志緒さんの表情が曇った。

 わかってないと思われたのかも知れない。

 でも、私の言葉は今の私の思いそのものだし、どれだけ口先でやらないと言ったところで、いざという時には体が勝手に動くはずだ。

 だから、そこは変えない……いや、変えられない。

 その代わり、その先を変えることにした。

「でも、私は盾になっても絶対に怪我したりしない! そう決めたから、それができるように修行する!」

「リンちゃん!」

 私の言葉で志緒さんの表情が明らかに明るくなる。

 志緒さんが私なりをわかってくれたんだと思うと、もの凄く嬉しく思えた。

 だから、皆にも私なりを訴える。

「皆、誰かがいなくなったり怪我したりするのは嫌だと思ってる。私も当然そう。だから、私は皆が心配しない程強くて無敵な盾役になる!」

 分身を駆使すれば出来るはずだという林田京一の目線では根拠を疑いそうになる自信も、今の私には揺るぎないモノに感じられた。

 ずっと昔に失ってしまったモノを取り戻したような嬉しさが心に満ちている。

「そっか……じゃあ、私は、私の爪で『種』をたくさん切って、早く倒せるように頑張る。皆を護ってくれるリンちゃんの負担を減らす」

 真剣で決意の籠もった表情でそう言った志緒さんは、最後に恥ずかしそうに「にゃー」と付け加えた。

 猫化した『神世界』の志緒さんは全力で猫娘をしていたので、もの凄く照れながら『にゃー』という志緒さんの姿に、私は思わず赤面してしまう。

 そのまま視線を逸らして「お、おねがい……します」と返すのが精一杯だった。


「普段のしーちゃんの、にゃー、かわいいね!」

「思わず頬が熱くなったわ」

 多分素直な気持ちなんだろうけど、舞花さんと結花さんの言葉は志緒さんへの追い打ちとなってしまった。

 私が視線を戻した時には俯いてしまっていて顔は見られなかったが、耳の先まで真っ赤になってしまっているので、相当恥ずかしそうに見える。

 このままでは自覚が無いままいじめのような状況になってしまうんじゃ無いかと私が思ったタイミングで、するりと那美さんが入り込んできた。

「しーちゃんも決意表明したから、私もするわね」

 たった一言で注目を自分に集めた那美さんは、ゆったりとした動きで今は被っていない魔女帽子のつばをなぞるような動きを見せる。

 それだけの動作なのに、那美さんの頭の上に魔女のとんがり帽子があるように見えた。

「魔女の私は、魔法で『種』をやっつけて、皆を護る魔法も使って、後、傷ついた子も魔法で癒しちゃおうかなって思います」

 うふふと笑いながらかなり盛りだくさんなことを言った那美さんだが、その全てが出来てしまいそうな自信と実力を感じる。

「流石魔女さん」

 口にしてからそれが自分の発した言葉だと後追いで気付く程、無意識に出た言葉だった。

 そして、それがきっかけになったかはわからないが、話の流れが志緒さんの『にゃー』から一気に離れていく。

「舞花も! 舞花だって『種』を凍らせちゃうよ! 動けなくしちゃえば、リンちゃんが護る範囲も減るよね?」

「はい。助かります」

 舞花さんの言葉に私が笑顔で頷くと、今度は結花さんが「ユイだって!」と名乗り出た。

「ユイの炎なら『種』だって燃やせちゃうんだから、舞花の出した火山だって、ユイがなんとかしたしね!」

 胸をはって誇らしげに言う結花さんに、舞花さんが抗議の声を上げる。

「だから、火山の話は駄目だって言ってるでしょ、お姉ちゃん!」

 だが、結花さんの方が何枚も上手だった。

「マイ……どんなことが出来るのか、どんな事が起きてしまうのかを、一緒に戦う仲間のリンちゃんに教えないわけにはいかないよね?」

 否定のしようのない直球の正論に、舞花さんは「うっ」と声を詰まらせる。

 潤りと舞花さんの目が揺れた気がしたので、私は慌てて口を挟んだ。

「氷と炎のお姫様に手伝って貰えたら、安心して盾役が出来そうだよ!」

 私の言葉に、舞花さんと結花さんは声を揃えて「「お姫様?」」とこちらへ振り返る。

「猫さん、魔女さん、それに双子のお姫様……だよね?」

 そう尋ねると、舞花さんも結花さんも自らの頬に手を当てて「「お、おひめさま……」」と呟いた。

 双子って素になると完全にシンクロするんだなぁと変な感想を抱いていると、後ろから咳払いが聞こえてくる。

 振り返れば、東雲先輩がじっと私の方を見ていて、何故か無性に頬が熱くなった。

「オレが……無理をしない範疇で斬り裂く、凛花の負担を最小限に出来るように、全力を尽くす……もちろん無茶したり自分が傷つかない範囲でだ」

 所々に皆への配慮というか、東雲先輩の改善の跡が感じ取れて思わず口元が緩む。

 私は、皆の中に『自分』を含む大変さと大切さを噛みしめながら、東雲先輩に伝わりましたという思いを込めて「はいっ」と返した。

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