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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第伍章 検証流転
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伍之拾壱 ノイズ

「チア衣装、考えます」

 真剣な顔で花子さんが口にしたのはそれだった。

 私のボンボン応援をより高みに昇華するための手段らしい。

 これ以上羞恥心を刺激されないように、心を無にしようとした私に、とんでもない声が聞こえてきた。

「折角ですから、運動会の演目にしましょう!」

 何も考えないように、聞き流そうと思っていた脳裏に、チア衣装でボンボンを振る皆の姿が鮮明に浮かぶ。

 そのイメージの中に楽しそうに踊る自分の姿を見た私は「は、いっ!?」と、裏返った声で反応してしまった。

「五人だとフォーメーションも作りやすいですしね!」

「あ、あの……せ、せめて皆の意見を聞いてからにしましょう!」

 私の行動が切っ掛けで、皆が巻き込まれるとしたら、それは見逃せないと声を上げる。

 対して、花子さんはニコニコしながら「もちろん人数の少ない運動会ですからね、ちゃんと競技は皆で学級会を開いて決めますよ」と答えてくれた。

 その言葉に、ホッとして、気持ちが軽くなった私は「そうなんですね!」と頷く。

「というわけで、写真撮っておきますね」

「へ?」

 写真撮影という言葉に驚いている間に、ボンボンを持ったままの私の姿が、花子さんの私物のスマホで撮影されはじめた。

「花子さん!?」

「学級会用の資料です。こういうボンボンを持って応援するっていう見本が必要ですよね?」

「えっ? あ、そう……で……すか?」

「術を解いてしまったら、ボンボンは消えてしまうわけですから、記録に残すにはこれしか無いですよね」

 何か引っかかるモノを感じた私だったけど、術を解けば消えてしまうのは花子さんの言うとおりなので「確かに」と頷く。

「本当に綺麗に出来てますから、凛花さんの工作の丁寧さがわかりますね」

 花子さんの褒め言葉に、手にしたボンボンをいろんな角度から撮影されながら、私は軽い喜びに浸ってしまった。

 大人になると褒められる機会なんてほとんど無くなるからか、もの凄く誇らしく感じてしまう。

 私は褒められて伸びるタイプなのかも知れないと、馬鹿なことを考えていると、雪子学校長が両手をたたき合わせて、パン!と大きな音を立てた。

「わぁ!」

 思わず驚きの声を上げてしまった私と違い、花子さんは平然と「変化がありましたか?」と、表情を引き締めて質問をしている。

 花子さんと自分との違いに、悔しさと恥ずかしさと情けなさの混ざった妙な気持ちが沸き起こるが、大人としてそれらを振り払い、私は頑張って表情を引き締めた。

 そうして、花子さんに一歩遅れて私が視線を向けると、雪子学校長は「ちょっと見て欲しいんだが、ノイズが画像に入り始めている」とセッティングが終わり、スマホと同じ映像が映し出されているモニターを指さす。

 モニターに視線を向けた花子さんはすぐに、私の出現されたスマホの映像とモニターの映像を見比べて「スマホとモニターの接続は問題ないですね……スマホに映し出されている映像自体に、ノイズが走り出しています」と報告を上げた。

 対して、雪子学校長は「つまり?」と尋ね、花子さんは私に視線を向ける。

 こちらに目が向いたことで、私が関わっている事はわかったものの、何かをやった自覚がないので、どう返したら良いのかわからず戸惑ってしまった。

 そんな私に花子さんは「恐らく、仮の入り口が狭まっているんだと思います。凛花さん分身を操作して、仮の入り口を映像に映し出してくれますか?」と説明とすべき事を提示してくれる。

 私はそれに頷いて、目を閉じて意識を集中しようとしたのだけど、雪子学校長に「待て!」と止められてしまった。

 訳がわからず、雪子学校長を見る。

 私が目にした雪子学校長は、表情を険しくして「同調はダメだ。仮の入り口が閉ざされて精神が戻ってこれなくなるリスクがある!」と言いつつ、モニターに接続されたスマホを指さした。

「これで、操作出来るなら、仮の出入り口を視界に収めて欲しい……が、無理なようなら、今回の実験は中止だ。分身を解除してくれ」

「はいっ!」

 やるべき事を示された私は、すぐにスマホに手を伸ばす。

 コードが繋がっているので外れないように気を付けながら、スマホを手に取って振り返るように指示を出した。

 遠隔での分身の操作は、こうしてスマホに触れながら行動を頭に描くだけなのだが、花子さんや雪子学校長には出来ない。

 花子さんはスマホ経由で、入力した文章を話させる方法を見つけているので、そのうち出来るようになるかも知れないが、それでも今は私だけだ。

 そう思いつつ意識を集中するが、私の指示に対する分身の反応が鈍い。

 強い違和感に私は「分身の動きが……」と報告を上げると、言葉の途中で雪子学校長の決断が下った。

「即座に分身を解除したまえ! 私はこちら側の出口を確認に行く!」

 下された指示に「はっはい」と返事をする間に、指示を出した雪子学校長は部屋を飛び出していく。

 雪子学校長の俊敏さに、思わず呆然としかけた私の肩が花子さんに叩かれた。

「凛花さん、お姉ちゃんも気になると思いますが、今は分身を解除してください」

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